治療①

 さくらが心之介を連れて戻ると、診療所には明かりがついていた。


 こんな夜更けまで門を開けているのは番屋ぐらいだった。


 見習いのおうめとおさとはさくらの姿を見て安堵した。


 ところが、一緒にやってきた心之介を見て戸惑い、その腕に傷があるのを見るや、すぐに奥へと姿を消した。


 三人の動きは機敏だった。


 まずお梅が湯の入ったたらいを持って戻ってくるとさくらが手を洗い、施術箱から取り出した針に糸を通す。


 さらにお里は処置台に手早く白布を敷き、替えの着物と拳ぐらいの大きさに丸めた綿を持ってくる。


 二人の年の頃は十代半ばほどだったが、心之介はその手際のよさに感心しつつも、特に治療を受けるほどではないと思っていた。


 ………!?


 だが、試しに左腕を動かそうとしたところ、かなり鋭い痛みが走った。


 肩の少し下あたりから着物がべっとりと血に濡れ、赤黒くなっていた。

 

 ここまで出血したことは今までになかった。


 今回は無理をしたからだろう。


 ヘタをすれば、二度と戻ってこれなくなっていた………。


 心之介がそんなことを思っていると、すでに準備を終えたさくらが糸を通した針をロウソクの炎で熱しながら処置台の前から呼びかけてきた。

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