影法師③

 一体、何がどうなっているの………!?


 さくらが困惑していると、心之介はすばやく言った。


「先に舟に!」

「えっ………!?」


 心之介は戸惑うばかりのさくらを押すようにして舟に乗せた。


「縄を解いて!」


 何が何だか分からないままの表情ながらも、さくらが心之介の言う通りにすると、舟が船着き場から離れ始めた。


 さくらには目の前の出来事が月夜の幻想のように思えたが、心之介の腕の傷から真っ赤な血があふれ出し続けていた。


 それがさくらを現実に引き戻した。


 ケガの手当をしないと………!


 同時に、思わず叫んでいた。


「危ない………!?」


 さくらの声にとっさに振り返った心之介は、間一髪のところで襲いかかってきた影法師を斬り消した。


「早く………!」


 さくらはそう言うや、心之介に右手を伸ばした。


 心之介は左手でそれをつかんだが、傷を負った腕では力が入らなかった。


 だから、さくらが両手で心之介の手を掴んだ。


「飛び乗って!」


 さくらのかけ声に合わせて心之介が船着場から体を跳ね上げると、その背後を影法師の刀が襲った。


 だが、心之介は紙一重のところで攻撃をまぬがれ、勢い余った影法師たちは次々に堀に落ちて沈んでいった。


 そして、二人を乗せた舟は、そのまま船着き場から離れて行った。

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