第19話 種族の違い
もふもふに別れを惜しみつつも俺は馬車に乗った。
獣人達に会ったら、また実家にいるニャンタに会いたくなった。
たまにしか寄ってこないニャンタを追いかけていたのが懐かしく感じてしまう。
「街はどうでした?」
「最高です!」
ええ、特に獣人がよかったです。
もっと話せるイヌやネコがいたら最高だろう。
「ふふふ、トモヤくんの意外な一面を見れたから私達も楽しかったわ」
なぜか俺は温かい目で二人から見られている気がする。
冒険者ギルド改め動物園ギルドにはぜひともまた行きたいな。
「そういえば、獣人がいるってことは他の種族もいたりするんですか?」
地球には人間しかいないが、異世界であればエルフやドワーフなどがいるのだろうか。
「んー、昔はいたけど今はあまりいないかな。エルフとドワーフは人間とそこまで変わらないし、半獣も獣人とほぼ同じになってますし……」
話を聞いていると基本的に人間は人間、エルフ、ドワーフの血が混ざっていると、変化が出てくるらしい。
顔が整っていたり、魔法の才能があったり、体格が大きかったりと異なる。
そうなると目の前にいる公爵家の人達は――。
「ちなみに私は人間とエルフの血が入ってるし、ロメオはエルフとドワーフの血が多く混ざっているわ」
聞いているとABO式血液型に似ていると思った。
例えばエルフがA型、ドワーフがB型、人間がO型とすると、エルフとドワーフの血を引き継ぐとエルフとドワーフの能力を引き継ぎ、エルフと人間であればエルフ、ドワーフと人間で合えばドワーフの性質に傾くのだろう。
ちなみに人間は容姿以外は劣っており、能力だけのことを考えると人間の血は好まれないらしい。
クラウドはエルフとエルフで、ロベルトはエルフとドワーフの血筋らしい。
本当にO型のような人族の血は珍しいのだろう。
ちなみに獣人は半獣と多種族から生まれてくるらしく、基本的に獣の血が混ざったら獣人になるらしい。
だから嫌われているのかもしれない。
ただでさえ、人族でこれだけの違いがあるぐらいだからな。
「皆さん着きました」
屋敷に入ると帰りを待っていたのか、執事とメイド達が並んでいた。
どうやら公爵家当主のクリスチャンが帰ってくるときは毎回整列しているのが当たり前らしい。
改めて俺と住む世界が違うのだと実感させられる。
「すぐに食事の準備をしたら夕食にしましょうか」
一度着替えてから食事を食べるらしい。
そういえば、仕事が早く終わったからか、時計を見てもまだ19時前だった。
「あっ、この時計をお返ししますね」
俺は借りていた懐中時計をクリスチャンに返した。
本人にはそのまま使って欲しいと言われたが、見た目が明らかに高価で持つのが怖いのもある。
「わかったわ」
その後、準備のために二人と分かれた。
「トモヤ!」
部屋の前に着くとロベルトが立って待っていた。
「どうしたの?」
「あっ、えーっと……」
「待ってたの?」
「……うん」
あー、この思春期の少年感が可愛いな。
擦れていない感じがさらに好感が持てる。
変な大人に騙されないかおじさんの俺は心配になってくる。
部屋の扉を開けて、待ってみるが一向にロベルトは入ろうとしなかった。
まるで部屋の前で待ってをされているワンコだ。
「とりあえず中に入る?」
声をかけてみるが、部屋には入ろうとせず待っていた。
「ほらおいでよ!」
ロベルトの手を握ると、やはりにぎにぎと握り返してくれる。
手を握ると毎回満足そうな顔をするのはきっと手を握りたいと言えないのだろう。
俺よりも体格は大きいのに、ギャップがなんとも言えない。
そんなにウブで大丈夫なのかな?
でも少しだけ青春していた頃を思い出すことができた。
って言っても高校生の時には性自認ができたばかりで、男と手を繋ぐなんて夢だった。
「どうしたんだ?」
ロベルトをソファーに座らせると、隣に座り話を聞いた。
「……」
「ロベルトー?」
あれ?
この展開って過去にもなかったか?
「トッ……トモヤが心配だったんだ!」
顔を赤くして何を言うのかと思ったら、どうやら俺のことを心配していたらしい。
たしかに騎士団は男だらけで、体も大きく強いから喧嘩したら負けると思ったのだろう。
ただ、この歳になって喧嘩することもないし、冷静に対処できる。
「俺は大丈夫だったぞ?」
「それでも……」
どうやら俺のことが本当に心配らしい。
年齢からしたら俺の方がかなり年上だ。
「なら、ロベルトが俺の騎士になってくれよ」
うん、ロベルトが守ってくれるなら特に問題はない。
体の大きさも明らかに俺の方が小柄だからな。
「つっ……わわわ、わかった! 絶対
ロベルトから握ってくることは今までなかったのに、急に手を握ってきた。
それにしても力が強くて俺の手が痛い。
「それなら安心だよな?」
「うん! 絶対トモヤを守るからな!」
何か納得したのか、ロベルトはソファーから立ち上がり部屋から出て行った。
どうやら問題は解決できたようだ。
「あっ!? 早く着替えないと」
俺はロベルトから借りた服をクローゼットから取り出し急いで着替え始めた。
「そういえばトモヤは服――」
着替えている最中に扉が開く音が聞こえてきた。
俺は普段からパンツ1枚になってから着替えるタイプだ。
「なんかあったか?」
俺が振り返るとロベルトは顔を隠した。
「トトトトトモヤー!! 早く隠せ!」
別に男だから気にすることもないのに。
それに着替えている俺よりも、ロベルトの方が恥ずかしそうにしている。
「服がどうしたんだ?」
俺は着替え終わるとロベルトに近づいた。
「ああ、体に悪い」
そんなに嫌なら見なければいいのに、しっかりロベルトが見ていたのは知っている。
「服が足りないと思って持ってきた」
手には服が握られていた。
どうやら昔使っていた洋服がまだあったらしい。
「おおー、まだ自分のがないから助かるよ」
その中に青のストライプのシャツがあり、一目で気に入った。
珍しく柄があるシャツで尚且つシンプルだ。
「せっかくだからこれを着ていくよ」
その場で服を脱ぎ始めると、再びロベルトがソワソワとしていた。
「だから俺がいないところで着替えてくれ!」
ロベルトはそんなに俺の裸は見たくないらしい。
帰る時には腰が痛かったのか、少し腰を屈めて部屋から出て行った。
「思春期には俺の体は毒か……」
窓ガラスに映る自分の体に俺はダメージを受けた。
実際に自分で見てみると、改めてあまり見せてはいけない体だと認識することになった。
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