第18話 新しいもふもふ

 気になっていた冒険者ギルドに足を踏み入れる。


 さっきまでは公爵家の二人に止められていたが、中に入っても良いとの許可が降りたのだ。


 ちなみにクマの獣人であるベアーはまだ地面に倒れている。


「ここが冒険者ギルドか……?」


 建物の中は広い空間にテーブルがいくつか置いてあり、奥にはカウンターが設置してあった。


 見た目はおしゃれなバーに近い。


「子どもが何のようだ?」


 俺に声をかけてきたのは金髪に黒のメッシュが入った髪をした男だ。


「獣人です……か?」


「はぁん!? そうだが、何か文句あるか!」


 なぜか周囲の獣人達も俺達を警戒しており、全体的に攻撃的なイメージだ。


 それが尚更、実家で飼っていたキジトラネコに似た何かを感じる。


 だって頭にネコのような耳がついているからね。


 それにズボンの隙間から、長めの尻尾が出ている。


 尻尾は髪の毛の色と同じ二色の柄のようになっている。


「ひょっとしてトラ……ですか?」


「ふん! お前ら人間なんか俺らにかかればイチコロだ!」


 後ろからチラチラと見える尻尾に、自然と目が追ってしまう。


「それにしても子どもがなんでこんなとこおぉぉぉ!?」


 そのままゆっくり近づき尻尾を撫で回すと、男が叫びだした。


「ベアーさんとは触り心地が違いますね」


「俺とあいつを比べるん……ぐにゃー」


 そのまま尻尾の付け根あたりを軽く触ると、さっきとは違う声が聞こえてきた。


「お前! 俺達が何かわかってやっているのか!?」


 ええ、わかっておりますとも。


 動物好きの俺からしたら、まさかイケメンと動物がコラボレーションするとは思ってもいない。


「獣人様です!」


 空に向かって祈ると、後ろにいた公爵家の二人が笑っていた。


 物語にしか登場しなかった獣人がこの世界には普通に存在している。


 それだけで異世界にきてよかったと思う。


「さすがベアーを倒しただけあるね」


 クリスチャンの声に男は反応した。


「ベアーを倒したってどういうことだ!」


 男は入り口を見ると、まだ横たわっているベアーがいた。


「お前らベアーに何をしたんだ」


 倒れているベアーに近づくと、何か異変を感じたのだろう。


 今も表情は幸せそうだからね。


「倒したのは私らじゃなくてもトモヤくんだよ?」


 まぁ、確かに地面に寝かせたのは俺だけどそんなに睨まなくても良いだろう。


 それにその睨み方もうちで飼っていたネコのニャンタに似ている。


「子どもみたいな見た目で俺らに何をする気だ。それがお前らのやり方か!」


 ははは、怒っているニャンタも可愛いな。


 俺の中では目の前にいる男が、ニャンタにしか見えなくなってきた。


「ニャンタ、そんなに怒るなよ」


「俺はニャンタじゃねー! タイガーだ!」


 見た目がトラに似ていると思ったが、名前も捻りがなく覚えやすかった。


 クマのベアーも見た目通りの名前だったから、獣人はそのままの名前になることが多いのだろう。


「ニャンタって……可愛いね」


「ニャンタじゃねーよ!」


 やはりツンツンしている感じがニャンタとそっくりだ。


 さすがにニャンタは話さなかったけどね。


「まあまあそんなに怒るなよ」


 そんなタイガーを慰めるようにベアーがゆっくりと起きた。


 いやいや、あんたもニャンタって言うから彼が落ちこんだよ?


 尻尾がペタッと急降下している。


「トモヤと言ったか……」


「どうしました?」


「俺の完敗だ」


 あれ?


 いつのまにか戦いを挑んでいたのか?


「お前の望みなら聞いてやる」


 うん、そう言うならまたもふもふを堪能させてもらおう。


 俺は全力でベアーの耳を上縁から根元まで優しく撫で回し、指と指の間で毛を流すように整えたりしながら堪能した。


 本当に剛毛ではないけど、ぬいぐるみに近い触り心地で、特に髪の毛と耳の毛の質感が全く違うのが面白い。


 そんな姿を見ていた他の獣人は、俺に逆らってはいけないと動物の本能なのか一歩引いたところで見ていた。


 そして強気なベアーはいつのまにか体の力が全身から抜け落ちていた。


 今度は地面に丸まるように寝ていた。


 獣人の寝る姿って人間と違って動物に近いのか。


「やはりトモヤくんってすごいわね」


「獰猛な野獣と呼ばれる獣人のトップ二人を手名付けるとはね……」


「騎士団員よりトモヤくんの方が実力は上なのかもしれないわ」


 いやいや、どこからか寒気がすると思ったら公爵家の人達は良からぬことを話していた。


 俺が騎士に勝てるはずがない。


「ニャンタもなんか言ってよね……」


「にゃー」


 いつのまにかニャンタも俺の近くに来ていた。


 頭を撫でると気持ち良さそうな顔をしている。


 きっとトラもネコとさほど変わらない獣人なんだろう。


 言っていることと行動がチグハグだ。


「ってニャーじゃないわ!」


 急に現実に戻ってきたのか俺から離れた。


 でも俺は気づいている。


 尻尾がピーンッと立っていることを……。


 それはネコが喜んでいる状態だと俺は知っている。


「ニャンタおいで!」


「これがお前らのにゃりかたなのにゃー!」


 何が言いたいのか理解はしているが、やはりネコなんだろう。


 その後ももふもふを堪能し、惜しみつつも冒険者ギルドを後にした。


 そういえば、何しに冒険者ギルドに行ったんだろうか……。

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