第8話 謎の熱

 食事を終えた後は客室に案内された。


 客室はどの部屋からも少し離れたところにあり、配慮された形になっている。


 とりあえず、あの両親の部屋から遠くて安心した。


 今日はお仕置きをすると言っていたからな。


 少し気になるが覗き見する趣味はない。


 それよりも大事なことがあった。


 またサバスが姿を隠したのだ。


 他のメイドや執事に確認しても、行った先にはもういなかった。


 魔法使いが存在する世界だから、姿を隠す魔法とかもあるかもしれない。


 俺はそんなことを思いつつも、体は疲れているのか重だるさも感じていた。


「なんとかこっちでも生活できるのかな……」


 明日は朝からウェンベルグ公爵家当主であるクリスチャンに大事な話をすると言われた。


 渡人ということもあって手荒なことはしないと思うが内心はドキドキしている。


 俺は天上を眺めていると自然に体がベッドに沈んでいく。


 異世界の寝具もやはりクオリティが高い。


 かなり低反発マットレスだ。


――翌朝


 俺の体は昨日と違い全身が重だるく、高熱を出したような感じがしていた。


「トモヤ様おはようございます」


 きっと朝だからメイドが起こしに来てくれたのだろう。


 俺は体力を振り絞りベッドから起き上がるがそのまま崩れ落ちた。


「トモヤ様、失礼します」


 中から倒れる音が聞こえたからメイドは扉を開けた。


 どうやら一緒にクリスチャンがいたようだ。


 すぐに俺の様子がおかしいことに気づいたようだ。


「トモヤくん!? 今すぐロメオを呼んでくるから待ってて」


 しばらくするとロメオが入ってきて、その後もロベルトとクラウドも部屋に訪れた。


 なぜかロベルトの顔は疲れており、目の下にクマができていた。


 ロメオが近づくと何か言葉を唱えると全身がお風呂に入った後のようにスッキリした。


「今からトモヤの状態を確認するから俺を受け入れてくれ」


 どこか言葉だけ聞いていたら卑猥に聞こえるが、俺はこの体の火照りをどうすることもできないためロメオの言う通りにした。


「受け入れるよ」


 俺の言葉とともにロメオの目の奥に文字が浮かび上がっていく。


「魔力熱で性的興奮状態になっている。誰かが魅了魔法を使ったのか?」


 どうやら俺は魔法の影響だとロメオは言っていた。


 しかし、クリスチャンは納得をしていなかった。


「それはない。この公爵家に侵入できるものはいないだろうし、インキュバスでもなければ魅了魔法を使えるやつはいないわ」


 魅了魔法はそもそもインキュバスという存在のみが使える魔法らしい。


 そんなことはどうでも良いから俺の火照りを治して欲しい。


「早く治して……」


 俺は火照った体でロメオに抱きつくように助けを求めると、その場にいた人達は息を呑んでいた。


 今は体に溜まった熱をどうにかしたかった。


 風邪で熱を出した時よりも異なって、熱の逃げ場がどこにもない。


「トモヤくん、体が辛いと思うけど聞いて。この状況を治すには魅了魔法であれば、術者を倒すか体液が出なくなるまで出し切らないと解除ができないの」


 ってことは俺は気絶するまで体液を出し切らないといけないことになる。


 流石に今の俺にそんな体力は残っていない。


「体を誰かに預けるか自分自身でやるかどうする?」


 預けるということはどういうことだろうか。


 誰かに手伝ってもらうってことか?


「俺が魔法でサポートしてあげるぞ?」


 ロメオが優しく声をかけてくれるが、さすがにそんなことを誰かに頼むことはできない。


 さらにこの人には大事なパートナーがいる。


「いえ、一人でどうにかします」


 俺は必死に体を起こすとふらふらしながらもベッドに戻った。


 俺はお礼を言おうとウェンベルグ公爵家の人達を見ると、どこかみんな落ち込んだような顔をしていた。


 この人達は何かを期待をしていたのだろうか?


 その中でもロベルトが一番落ち込んでいた。


 さすがに未成年に頼むのは一番良くないのは知っている。


 それよりも目の下にクマができているから、彼ももう少し寝た方が良いだろう。


「皆さんありがとうございます。あとはどうにかします」


「わかった。トモヤくんも何か欲しいものがあったら声をかけてね。ほら、みんな部屋から出るわよ!」


 クリスチャンの指示でみんなは部屋から出ていく。


「サバスも行くわよ!」


 クリスチャンがサバスの名前を出すと、天上からサバスが降りてきた。


 やはり彼は忍者だった。


 それにしてもサバスも目の下にクマを作っていた。


 部屋に残された俺は天上を見上げる。


 そこにはサバスが隠れていた天井裏が見えていた。


 ん?


 天井から出てきた?


「ずっとあそこにいたのか?」


 サバスは昨日の夜から天井裏でずっと俺を覗いていたのだった。


 寒気とは違う震えが全身を襲ってきた。

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