第7話 年齢の差
俺はサバスを見逃さないようにずっと見ていた。
だが、やつは何を勘違いしているのか顔を赤く染めていた。
全く何を考えているのか……。
そんなことを思っていたら、いつのまにか食事の準備が出来ていた。
「すごい量ですね……」
目の前には沢山の料理が並べられていた。
パッと見た感じはコース料理だが、すぐに食べられるように全ての料理がテーブルに置かれていた。
「トモヤ様は何か欲しいものはありますか?」
声をかけてきたのはサバスだ。
今一番欲しいのは――。
お前が奪っていった
洗濯するために持っていったと信じたいが、服はそのまま置いてあったのを覚えている。
「とりあえず、一つずつ食べたいです」
さすがにここで問い詰めても大人気ないと思い、盗られてしまったパンツのことをそっと心の奥にしまった。
時間があったら後で問い詰めてやろう。
目の前には牛乳で煮たものやサラダやピクルスなど様々なものが並べられていた。
食文化自体は特に変わったところはなく、むしろ前世より健康的でジャンクフードのようなものは一切なかった。
牛乳で煮たお肉も鶏肉に近いがどこか鶏肉より脂身もあり、食べた瞬間に良質な脂が体に染み渡るようだ。
あまりの美味しさにここはやっぱり天国なんじゃないかと思ってしまう。
「美味しいな……」
部屋の縁に立っている料理人に手を振ると、どうやら向こうも気づいたようで笑っていた。
「トモヤ、これも食べるか?」
「これはなに?」
ロベルトが何かオリーブのような種を摘んで渡してきた。
「魔果の実っていう木の実だな」
俺はそのままロベルトの手から口に入れた。
「んー、なんか甘酸っぱいような……どうしたんだ?」
俺はロベルトを見ると、その場で固まっていた。
「いや、あー……えっと……大丈夫だ」
うん、明らかにどこか壊れている感じがする。
「本当に大丈夫か?」
「トモヤは気にしなくていいよ」
普段の姿を見ている両親が言うなら、問題はないのだろう。
「そういえばトモヤくんはここに来る前は何をやっていたのかしら?」
「あー、俺は普通の会社員をしていました」
「会社員……?」
会社員って言っても伝わらないのだろうか。
この世界で会社員に当たる職業がそもそもあるのかな?
「えーっと、基本的に会社の事務経理を中心にやっていたので帳簿の管理をしていたりなど、雑用仕事に近いんですかね?」
「中々難しいことをやっていたんだな……?」
イケオジのロメオは途中で考えるのを辞めたようだ。
たしかに騎士や魔法使いが存在する世界で経理ってあまり聞かなさそうだしね。
「俺のいた世界には魔法はないけど違う分野が発展していましたね」
「じゃあ、トモヤが魔法使いになることはなさそうだな」
「そうですね。ただ30歳まで性行為をしたことないと魔法使いになれるっていう噂はあったかな?」
俺はジーッとロベルトの顔を見た。
彼は騎士を目指していると言っていたが、魔法使いにもなりそうだしな。
「中々面白いこともあるんだな。それでトモヤはどうなんだ?」
ロメオはニヤニヤとしながら聞いてきた。
地球ではセクハラやパワハラになるが、異世界にはそんな概念はないのだろうか。
「もちろん好きな人はいたので経験はありますよ」
「ほぉ」
ロメオがニヤニヤしていると、一瞬でその場の空気が凍り始めた。
「何を考えているのかしら?」
声の主はロメオの隣にいたクリスチャンだった。
「いや……」
次第にロメオもしどろもどろとしている。
きっと家庭内の役割はクリスチャンが母親兼父親でロメオがダメ男ってことか。
「後で覚えておいてね?」
口調は優しいがこの後お仕置きが待っているのであろう。
できれば一番遠い部屋を使わせてもらいたい。
「ロベルトどうしたの?」
そんな話を聞いていると、隣にいたロベルトが露骨に落ち込んでいた。
「いや……トモヤは経験済みなのか……」
どうやらロベルトは俺が経験済みだったことに落ち込んでいるようだった。
この感じだとやっぱりロベルトは童貞か処女ということがわかった。
自分だけ置いていかれるのが嫌だったのだろう。
俺も学生の頃そんな気持ちがあったのを思い出した。
「そのうち経験できるから好きな人のために大切にしておいた方がいいよ」
その言葉にロベルト以外は頷いていた。
30歳まで守りたいのなら別の話だけどな。
「ロベルトは俺と同じぐらいの歳なのにそんなこともあるんだな」
「ん?」
言葉の意味が理解できていなかったのか頭を傾けている。
「だからロベルトって25歳ぐらいだろ?」
「いや、俺まだ成人にもなってないよ?」
ロベルトの発言に俺は驚いてしまった。
見た目が大人びていたから俺と歳が近いと勝手に思っていた。
まさかそんなに離れているとは思わなかった。
そりゃー、まだ未経験なのも納得できる。
「それで今何歳なんだ……?」
「今17歳だぞ? まだ学園にも通っている」
「未成年かよ! 俺の国だと犯罪者扱いになるな」
「それは合意があっても?」
話を聞いていたクリスチャンは俺に聞き返してきた。
「基本的にはそうなりますね。だから俺も未成年と恋愛は――」
俺の言葉に再びロベルトは落ち込んでしまった。
そんなに早く性経験をしたかったのだろう。
さすがに俺じゃなくても、相手はたくさんいるからな。
「話はここまでにして早く食事を終えましょうか」
その後もロベルトはずっと落ち込んだまま、食べる手が止まっていた。
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