第6話 日本との違い

 俺はロベルトに手をにぎにぎされながらも気づくと大きな扉の前に立っていた。


「トモヤは手を繋いでいないとすぐに逃げ出すからな……」


 おいおい、俺は何かの動物かよ。


 扉に手をかけて中に入ろうとした。


 だが、扉が重くて全くびくともしない。


「ふっ!?」


 そんな姿を見てロベルトは笑っていた。


 笑っている姿も様になるのがさらにムカつく。


「こんなに重いと子ども達はどうしてるんだ?」


 俺は純粋な疑問をロベルトにぶつけてみた。


 大人の俺でも開けられないからな。


「ふふふ、トモヤ……それ外開きだから押しても開かないよ」


 まさか開き扉だったとは……。


 だからずっと押してもびくともしなかったのか。


「そっ、それぐらい知ってたぞ!」


 ええ、全然知らなかったです。


 海外みたいな雰囲気だから内開きだと思っていた。


 俺は恥ずかしく顔が火照っていたが、そのまま扉を開けて中に入ると中央に大きなテーブルがあった。


 ここに連れてきた二人と女性が席に座っている。


「二人は一緒に来たんだね」


 美形の当主に声をかけられるとロベルトにエスコートされるように席に座らされた。


 目の前に二人が座っており、隣にはロベルトと女性が座っていた。


 女性もモデルのような姿をしており、綺麗過ぎて男性が好きな俺でも見惚れるぐらいだ。


 見ているのがバレたのか、優しく微笑んで手を振っている。


「ロベルトの母ちゃんって美人だな」


 反対側に座っているロベルトに話しかけると、再び彼は笑いを堪えるのに必死そうだった。


 イケオジも密かに笑っているが、女性はなぜか不機嫌になっていた。


 何か間違ったことを言ってしまったのだろうか。


「屋敷の中はどうだった?」


 うん、俺が屋敷の中を散策していることはバレてるみたいだ。


「広くて迷子になりました。あっ、ここの料理人が作るご飯は美味しかったです」


 俺は部屋の縁で食事の準備をしている料理人達に手を振った。


「すでに食事を食べたのかい?」


「あっ……実はまだ何も食べていなかったのでつい匂いに釣られて調理場に行っちゃいました」


 正直に話すと当主は笑っていた。


 言っていることは小さい子どものような発言だからな。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は現ウェンベルグ公爵家当主のクリスチャン・ウェンベルグです」


 イケオジがロメオ・ウェンベルグ、綺麗な女性がクラウド・ウェンベルグという名前らしい。


 女性が男らしい名前でびっくりしたが、それもこの世界では普通なんだろう。


 天国ってなんでもありなんだろう。


 ちなみにこの場にはいないが、王都で働いている魔法使いの兄はサンドロという名前らしい。


 今度は俺が自己紹介することになった。


「えーっと俺はトモヤで、二人が言うには渡人という存在なんだよな?」


 俺の言葉に二人は頷いているが、険しい顔をしていた。


 そして隣にいる二人や執事や調理場の人達は驚いていた。


「今この場にいるウェンベルグ公爵家および、そこに従事する物達は今聞いたことを他に伝えぬよう箝口令を敷く」


 クリスチャンが立ち上がると声を張り上げて言い放った。


 その姿はさっきまでの優しそうな姿とは異なり凛々しかった。


 どこまで話して良いのかはわからないが、今の様子だと渡人ってあまり言わない方が良いのだろう。


 ただ、現状を確認する必要が俺にもあった。


 天国だと思っていたこの世界がどこか別の世界に感じていた。


 それは自己紹介の時に聞いた言葉に魔法使いやらソードマスターという単語が出てきたからだ。


 まるでゲームの世界に迷い込んでしまったような……。


「俺は地球の日本という国で生きていた。言葉通り25歳の時に亡くなって、見つけられた森にいた」


――ガタッ! 


 両隣から急に立ち上がる音が聞こえてきた。


「25歳!?」

「25歳だって!?」


 ロベルトの声に被さるように聞こえたのはクラウドの声だった。


 思ったよりもドスが利いた低く部屋に鳴り響く声に俺の方がびっくりした。


 それに俺よりも身長が高い。


「やっぱ美人な母親だな」


 俺はぼそっと呟くとキリッとこちらを睨んできた。


「私はこいつを産んだつもりはない」


 クラウドはロベルトを指さしていた。


 その姿をみて前でいちゃついていた二人も笑っている。


「ははは、トモヤ……クラウドは俺の兄貴だぞ? このウェンベルグ公爵家の次期当主だ」


「うぇ!? 兄貴!?」


 俺は驚いて椅子から転げ落ちてしまった。


「だってこんな美人な人が兄貴って嘘だろ。どこからどう見ても女性ですよね……?」


 俺の言葉を聞いてクラウドは満足げな顔をしていた。


「あら、あなた私のことよくわかっているわね。でも女性じゃないわよ! そもそも女性自体珍しい存在だわ」


 冷静に声を聞けば男そのものだった。


 胸の膨らみも少ないため、女性ではないと言われたら信用してしまう。


「えっ……女性ってそんなにいないのか? なら君達はどこから生まれて……」


 俺の言葉に二人は目の前にいるクリスチャンとロメオを指さしていた。


「どういうこと……?」


 天国かどうかもわからない中、常識を覆すような事態に頭は混乱している。


 この屋敷に来た時は執事やメイドも男だった。


 メイドの子も可愛らしいが、俺より身長が高い男の娘みたいな感じだ。


「トモヤくんにはこの世界の常識から教える必要性があるかな。そもそもトモヤくんの世界はどんな感じだったのかな?」


 やはりここは天国ではないのだろうか。


「まず地球には男性も女性も同じぐらいの人数が存在していて、男女でしか子供が出来ないので同性同士で子どもができるという概念がありません」


 説明しているとここに来る前のことを思い出して、自然と涙が溜まっていた。


「その中で同性同士で付き合っている人達には家庭を持つことはできないんです。他の国では死刑にされることもあります」


「なんだって!?」


 話の途中でロメオが怒っていた。


 イケオジも怒ると迫力がすごい。


「ロメオ静かにしなさい」


「はい……」


 しかし、クリスチャンに止められるとすぐに怒りは鎮まり黙っていた。


 どこか怒られた大型犬みたいだ。


「俺の住んでいた日本は法律上は認められていないため、病院と言って病気や怪我治すところに行っても、パートナーは家族として呼んでもらえないのが現状なんだ」


「それはどういうことだ?」


「死ぬ時とかは戸籍上は家族じゃないと言われて死に際に会えないってのが普通ですね。あとは財産とかも残すことが出来ないとかかな?」


「最低な世界だな」


 ロベルトは俺の言葉に呟いていたが、同性同士で子どもができないから仕方ないことではあると俺は思っている。


 実際、養子という形にならないと家族にすらなれないからな。


「俺は同性が好きだから死ぬ前に男の人と付き合ってたけど、結局その相手は将来のことを考えて女の人の元に行っちゃったんだ……」


 目から涙が溢れ出てくる。


 大志と別れたのは仕方ないことだと思っていても、受け入れられない現実があるのは確かだ。


「トモヤ……」


「だから男同士で幸せな家庭を作れるということはすごく羨ましいことなんですよ。お二人を見てると羨ましいなって思っちゃいます」


 二人に微笑みかけると、周囲にいた人達が俺が引くぐらいに泣いた。


 料理人や執事達も涙を拭っている。


「もぉー、トモヤを私のパートナーにするわ。こんな可愛いお嫁さん欲しかったのよ」


 クラウドは俺に抱きついてきた。


 それよりも俺がお嫁さんになるのは確定なんだろうか。


 見た目からしてクラウドの方が綺麗だぞ?


「トモヤは俺のパートナーにするつもりだからその手を離せ!」


 そんな中、ロベルトはクラウドを俺から離そうとしていた。


「騎士としてまだ見習いなのに何を言ってるのよ」


「今度試験を受けて正式に騎士になる予定だ」


「えっ、あなた試験を受けるつもりなの」


「そうだ」


 俺は何かしらの家族の事情に巻き込まれているようだった。


 それにしてもご飯を食べる前に話す内容ではなかったな。


――グゥー!


 そんな中、俺のお腹からは地面から響くような音が鳴った。


 あまりの恥ずかしさに頭を掻きながら微笑む。


 さっきお肉を食べたばかりなのに、まだまだお腹が減っているようだ。


「ははは、お腹減っちゃった」


「なによ、この可愛い生き物は!? サバス早く食事を運んできなさい」


 クラウドがサバスに声をかけると、執事達は急いで食事の準備を進めた。


 だが、俺は食事の準備よりもあいつの存在が気になっていた。


 ついに見つけたぞ!!




 パンツ泥棒・・・・・のサバスめ!!

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