第5話 天国は美味しいで溢れている

 俺はロベルトの部屋から出ると奥の部屋に向かって歩くことにした。


「はぁー、お風呂も入ったから腹減ったな」


 知らない世界へ来てからこの屋敷に着き、お風呂も入ったりなどしてたら数時間は経っているだろう。


 俺のお腹から鳴き声が聞こえてきた。


「なんか良い匂いがするな……」


 俺は匂いに引きつけられるまま奥の部屋に行くつもりが、いつのまにか調理場の入り口にいた。


「おい、こっちに皿をくれ」


「わかりました」


 そこは地球とさほど変わらない服装をした男達が忙しなく動いていた。


 どうやら公爵家の調理場なんだろう。


 俺はそんな調理場を覗いていた。


「こっちにも皿をうぉお!?」


 調理場の男と目が合うと男は驚いていた。


 男はそのまま鍋を振るう手が止まり、こっちを眺めている。


「お兄さん焦がしますよ?」


 俺が声をかけた時には遅かったのか、男はやってしまった……というような顔をしていた。


「ははは、久しぶりにやらかし……女神様!?」


――パリン!


 お皿を持ってきた男も俺の存在に驚き皿を落としていた。


 皿の割れる音に気付き二人は現実に戻ってきたようだ。


 仕事に戻った男達は急いで調理に戻るが、どこか意識は俺に向いているように感じた。


 チラチラとこっちを見たり、鍋を振るときにはわざわざ腕の筋肉が見えるように角度を変えているような気がする。


 初めは俺も勘違いだと思ったぞ。


 だけど少し動くと彼らも角度を少し変えたり動いたりしていたのだ。


 邪魔になると思った俺は調理場から離れて作業が終わるのを待つことにした。


 しばらく待っていると調理場から音が聞こえなくなってきた。


 どうやら作り終えたのだろう。


 再び隙間から覗くとそこにはいくつかの料理が並んでいた。


 どれを見ても美味しそうで涎が垂れそうだ。


「ひょっとして腹が減ったんか?」


 さっき鍋を焦がしていた男が声をかけてきた。


「朝から何も食べてなかったんで、美味しそうな匂いに釣られて来ちゃいました」


「うっ!?」


 俺は正直に話すと準備されていたお皿を一枚差し出してきた。


「食べて良いの?」


 確認すると男は頷いていた。


「これは俺達のやつだから大丈夫だ」


 どうやら公爵家に出すやつとは別で公爵家で働く人達の食事も同時に作り、順番に休憩する仕組みになっているようだ。


 俺の目の前にはオムレツのような卵料理とお肉にソースがかかっている料理が手渡された。


「いただきます」


 俺は手を合わせてからお肉を食べることした。


「うま!?」


 食べたことのない甘めのソースだが、柔らかいお肉と合っており気づいたらオムレツとともに完食していた。


 美味しい物を食べた時は何も言えなくなるというのはこのことだったのか……と思うほど無言で食べていた。


 お腹が減っているのか、それとも天国のご飯なのかとても美味しく感じた。


「めちゃくちゃ美味しかったで……す?」


 目線を上げると調理場で働いていた男達がこっちを見ていた。


 いつのまにかみんなに見られていたようだ。


「全部食べて大丈夫でしたか?」


 あまりにもマジマジと見ていたため、全部食べてはダメなんだと思った。


 だが、男は首を横に振っていた。


「そんなにおいしかったか?」


「はい! 今まで食べた中で一番美味しかったですよ」


「ぐふっ!?」


 男達の中で急に崩れだす人達が少しずつ現れていた。


 きっとこの料理を担当した人達なのかもしれない。


 公爵家の人達は個性豊かな人達が多いようだ。


「本当に女神様みたいな人だな」


「ああ……」


 きっとこの世界ではご飯を食べている人を女神様と言うのだろう。


「そういえば、女神様はどこから来たんだ?」


 お皿を割っていた人が声をかけてきた。


「あー、公爵様なのかな? 彼らと一緒に来たんだけど少し探検をしてまして……」


「あー……そういうことなんですね」


 どうやら二人が何をやっているのか、調理場の人達もわかっているのだろう。


 ただ、人が変わったように男達は急に頭を下げてきた。


「お客様でしたか。御無礼な態度をとって申し訳ありませんでした」


「えっ? 特に無礼なこともなかったですし、俺も一般人なので大丈夫ですよ?」


 男達はお互いに顔を見合わせて喜んでいた。


 お客様だから貴族だと勘違いしていたのかもしれない。


「なら俺達もチャンスが――」


「トモヤー!」


 どこからか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


 男達は誰の声かすぐに気づいたのか、俺から距離を取り仕事に戻っていく。


 急に突き放されて悲しくなったが、公爵家の人にサボっていると思われたらいけないのは俺もわかっている。


「ここにいるよー!」


 声をかけるとすぐにロベルトが走ってきた。


「やっと見つけたぞ」


「あれ、隠れんぼでもやってたのか?」


 どうやらロベルトは俺を探していたようだ。


「親父達も呼んでいるから行くぞ」


 ロベルトは俺の手を掴み引っ張るように歩いて行く。


 まるで俺が逃げ出した子ども……逃げ出したのは事実か。


「またね!」


 俺は小さく話すように、調理場の人達に手を振ってお礼を伝えた。


 そういえば、次は好きな人と手を繋ぐように願ったが、もうすでにロベルトは俺と手を繋いでいた。


 だからロベルトよ……手をにぎにぎしないでくれ。


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【あとがき】


明日からしばらく1〜2話投稿になると思います。


★評価とレビューよろしくお願いします| |д・)ジィー

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