第9話 魔果の実
あれからが大変だった。
体にこもっていた熱は中々吐き出されることはなく、体が楽になった時には既に夕方になっていた。
「色々迷惑かけてすみません。ただ――」
「いえ、これが僕達の仕事なんで」
湯浴みを手伝ってくれているのは、今日の朝起こしにきてくれたメイドの男の娘だった。
彼が俺の担当になったのは、ブサメン好きだからという理由らしい。
「さすがに体は自分で洗えるから大丈夫です」
「いえ、これが僕達の仕事なんです」
さっきからずっとこんな感じで湯浴みをするのも中々大変だ。
それに止めようとして言われるのは――。
「大丈夫です。僕はブサメンが好きなので!」
この人は話を聞く気がないのだろうか。
何度もブサメンと言われると、まるで俺のことを言っているような気がしてくる。
それにブサメン好きなら、平凡な俺は対象になりそうだが大丈夫なのか?
「いえ、本当に大丈夫です。また必要であれば呼びます」
「本当に何かあれば声をかけてください」
チラチラと何度も見てくるが、説得してようやく出て行ってもらえることになった。
ちなみに頭は彼に洗ってもらったが、ものすごく上手だった。
ヘッドスパを受けたことはないが、きっとあんな感じなんだろう。
ただ、体だけは自分で洗いたいからな。
入浴を終えると、ダイニングに向かう。
「トモヤ様大丈夫ですか?」
「ご迷惑おかけしてすみません」
廊下ですれ違う人に声をかけられるが、ひょっとしたらこの屋敷で働く人全てに知られているのだろう。
「トモヤ様お待ちしておりました」
扉の前に立つと執事が扉を開けた。
前回、開けるのに失敗したから人が居てくれて助かる。
気持ちを落ち着かせて、一歩ずつ足を運んでいく。
「トモヤくん元気になったかい?」
俺が部屋に入った時には公爵家の人達は揃っていた。
どうやら俺が一番最後らしい。
「お待たせしてすみません」
俺は空いている席に腰をかける。
隣にいたクラウドは何かに気づいたのか声をかけてきた。
「何か香水でもつけたのかい?」
特に香水は使っていないし、匂いと言っても湯浴みの時に使ったものぐらいで俺も異変には気づいていない。
「ロベルトも何か気になるか?」
俺はそのままロベルトに近づいた。
「うっ!?」
相変わらず目の下にクマがあるロベルトは俺が近づくと少し離れた。
うん、どうやら俺は臭いらしい。
まだアラサーにもなっていないのに、加齢臭でも出てきたのだろうか。
「それじゃあトモヤが傷つくわ」
クラウドは俺を擁護してくれた。
俺を抱きしめる形で……。
見た目は綺麗なお姉さんのような人だが、やっぱり当たっている胸は硬かった。
むしろ俺より筋肉質じゃないか?
「トモヤくんもやっと元気になった……いや、いろんな意味で元気だったのか!」
ゲラゲラと笑っているロメオの頭をクリスチャンはおもいっきり叩いていた。
今回は俺の体調に合わせてなのか、全体的にヘルシーな食事になっているようだ。
「トモヤ食べるか?」
ロベルトが勧めてきたのは昨日食べたオリーブみたいな実だ。
「あー、昨日食べた
気にせず食べていたが、よく聞いたら前世でも薬局などで見かける成分と同じ名前だった。
ひょっとしたらこの果物と俺の体調が関わっているのかもしれない。
「この実って何か食べる意味があるのか?」
「魔果の実は名前の通り、魔法の果物と言われている」
「魔法の果物?」
説明してくれたのは魔法使いのロメオだった。
名前からして男がワクワクしそうな話しが聞けそうだと俺は心が高鳴った。
「基本的には魔力を上げるために、この魔果の実を小さい時から食べるのが当たり前なんだ」
どうやらこの世界ではみんなが魔果の実を食べるのが当たり前らしい。
職業と関係なく、基本的には生活魔法という魔法を使うために最低限は魔力が必要になるらしい。
魔法使いはその中でも魔力が多く才能がある人だけが魔法使いになれる。
それだけ目の前にいる変態のイケオジが優秀な人だってことだ。
「どうやら俺が思っていたマカとは違うんですね……」
「トモヤくんの世界の魔果とはどういうものだったの?」
「あー、少し言いづらいけど精力増強とか夜の行為の補助的なものとして使われることが多いです」
俺の言葉を聞いてロメオはどこか納得していた。
「今まで不思議に思わなかったが、ひょっとしたら魔力がない大人が食べると、トモヤの世界みたいな効力があるのかも知らないな。そもそも子どもを作る前に食べるとも言われているからな……」
ボソボソと呟きながら何か考えているようだ。
こうやってみたら、魔法使いのような気もしてくるのにもったいない人だ。
「今度実験でも……痛っ!?」
何かよからぬことを言う前に、クリスチャンに止められていた。
ここからは見えないがテーブルの下では攻撃が仕掛けられているのだろう。
「それ以上言うとお仕置きするわよ?」
「おしおき……」
ただ、ロメオはどこか嬉しそうな顔をしていた。
この人にお仕置きはご褒美みたいなものなのだろう。
それにしても体格が良いゴリゴリの男が魔法使いでお仕置き好きとは、異世界は変わった世界だと改めて俺は認識した。
その後は魔果の実を食べないように気をつけながら、食事を終え部屋に戻った。
「トモヤ少しいいか?」
しばらくすると誰かが扉をノックした。
声からするときっとあの男だろう。
扉を開けるとそこにはロベルトが部屋の前に立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます