第205話 君のような勘の良い敵は嫌いだよ

 午後に再びログインした鬼童丸だが、都庁からゲームを再開しようとしている時に変なエフェクトがあった。


 (ゴーグルを変えて良かったってことかね)


 市販のVRゴーグルとは異なり、デーモンズソフトが獄先派から鬼童丸達を守るために作ったVRゴーグルはセキュリティ設定が万全だ。


 だからこそ、ログインした鬼童丸を地獄に強制連行するような仕掛けが作動したとしても、デーモンズソフトの技術力が勝って強制連行は阻止された。


 しかし、都庁に着いた途端にエリア争奪戦の申し込みがあった。


 (あぁ、しまった。エリア争奪戦の申請はフレンドじゃなくてもできるのは仕様だった)


 申し込んで来た相手はデリットというプレイヤーであり、それは喋ったことのないプレイヤーだった。


 少なくとも鬼童丸からエリア争奪戦を仕掛けていない以上、タイミングから考えてデリットは獄先派に唆されたプレイヤーである可能性が高い。


 獄先派そのものが鬼童丸達に直接ちょっかいをかけられなくなっても、獄先派の手先となったプレイヤーからのちょっかいを防げない。


 これはパイモンに改善希望を出さなければと思いつつ、鬼童丸はデリットとのエリア争奪戦に応じる。


 何故なら、デリットが町田市を賭けて来たからだ。


 町田市は日本サーバーの地図情報を見る限り、プレイヤーがログインしなくなって今朝フリーのエリアになったばかりであり、レベルアップにうってつけである。


 もしも敵の罠だとしても、この程度の罠を蹴散らせるだけの戦力は率いているから、鬼童丸はエリア争奪戦に応じた。


 デリットが町田市を賭けたのに対し、鬼童丸は多摩市を賭けた。


 面積が釣り合ってないとしても、敵が1つのエリアを賭けたのならこちらも1つのエリアを賭ければUDS上では成り立つからだ。


 多摩市と町田市の境界線でデリットと対峙した時、ドラクールの声が頭に響く。


『マスター、気をつけて下さい。きたくぶちょーの時と同じ気配がします』


 (敵はデリットのアカウントを乗っ取った悪魔ってことね。了解)


 鬼童丸が警戒していると、デリットが笑みを浮かべて話しかけて来る。


「高名な鬼童丸さんの胸を借りたくて挑んでみました。受けて下さりありがとうございます」


「紳士的な物言いだが、邪悪な笑みのせいで悪意が丸見えだ。デリットを乗っ取ってハイになってるのか?」


「なんだ、気づいてたのか。つまらん。じゃあ、改めて君を倒す吾輩の名を教えてやろう。吾輩はコロンゾン。余計なことを知ろうとする人間を殺す知識の番兵だ」


 そう名乗ったコロンゾンがデリットの体から抜け出すと、モノクルをした初老の悪魔が現れて懐からヘルオブシディアンを取り出す。


 それにより、強制的に開かれた地獄の門の中の何かが、デリットとデリットが従えていたリベンジリッチを吸い込んで咀嚼する。


 まだエリア争奪戦の準備は終わっていない扱いになっており、鬼童丸達はただ見ていることしかできない。


 その間に食事を終えた悪魔が現れたのだが、それは山賊の衣装を着た筋肉質なマミィと呼ぶべき見た目だった。


「準備は整った。吾輩とバンデットが君の命を頂戴する」


「じゃあ、こっちは…、ん?」


 ドラクールとリビングフォールンを選ぼうとしたが、ドラクールとリビングフォールン、ヨモミチボシ、オリエンスの文字がグレーアウトしており、召喚できなくなっていた。


 今までのエリア争奪戦では起こり得なかった障害であることから、久遠はこの障害がコロンゾンの仕業なのだろうと察した。


「早く選ぶと良い。そうそう、まさかこの老いぼれとの戦いに守護悪魔や四大悪魔を召喚するなんて鬼畜な真似はしないでくれたまえ」


「システムに干渉できるってことは、お前は元中立派だな。それもデーモンズソフトでスパイ活動をしてやがったクソ悪魔だろう?」


「君のような勘の良い敵は嫌いだよ」


「誰だって勘の良い敵は嫌いだろ。召喚サモン:アビスドライグ、召喚サモン:ビヨンドカオス」


 コロンゾンもバンデットと共に戦うということから、とりあえず鬼童丸は現状で召喚できる最強の2体を召喚した。


 この展開は予想していたようで、コロンゾンは余裕そうだ。


「予想通りだ。ビヨンドカオスの武器がデータと違うが、このような違いは些末ななもの。早く君を倒して他の連中の手柄を横取りに行かせてもらおう」


 (なるほど。ヤミやヴァルキリー、リバースにも刺客を向かわせてるのか)


 親人派の戦力を削ぎに来たのは、元中立派と言いつつ上手く獄先派に食い込んでいたコロンゾンを中心とする悪魔らしい。


 鬼童丸達がUDSを利用して強くなろうとするなら、それを逆手にとってシステムで嵌めてやるということのようだ。


 終わったらパイモンに文句を言うと決め、鬼童丸は拠点となるパルテノン多摩に移動してエリア争奪戦の開始を待つ。


 今回はコロンゾンがシステムに干渉したことで、既に悪魔やアンデッドモンスターを召喚した状態でシステムメッセージが視界に表示される。


『エリア争奪戦開始まで3,2,1, START!!』


 開始の合図が聞こえた瞬間、鬼童丸達の前にコロンゾンとバンデットが現れた。


 しかし、コロンゾンが何かチートを使って来ることは想定していたから、コマンド入力で鬼童丸はアビスドライグとビヨンドカオスに指示を出せていた。


 アビスドライグが【憂鬱序章メランコリープロローグ】を発動したことにより、コロンゾンとバンデットはパルテノン多摩に来た瞬間から動くのが億劫になっていた。


 動きが鈍った敵2体に対し、続けてビヨンドカオスの【呪氷支配アイスイズマイン】が発動する。


 これでコロンゾンとバンデッドは凍えてしまい、全く動けなくなる。


 まさかこんなことになるとは思っていなかったようで、凍えてしまったコロンゾンの表情は驚愕一色だ。


 演算杖カルクのおかげで、コロンゾンもバンデッドも全く体を動かせない出力で【呪氷支配アイスイズマイン】を使えたから、2体はただの的と化した。


「アビスドライグ、コロンゾンに【紫電一閃フラッシュドライブ】」


「任せるでござる!」


 アビスドライグは鬼童丸を嵌めたコロンゾンに怒っており、渾身の【紫電一閃フラッシュドライブ】がコロンゾンに命中した。


 その時、鬼童丸達はある意味驚かされた。


「えっ、弱くね?」


「脆かったでござる」


 ビヨンドカオスの攻撃で凍らされていたとはいえ、アビスドライグの一撃で凍えていたコロンゾンが粉砕したのだ。


 しかも、【自動再生オートリジェネ】による再生が起きる様子もなく、あっけなくコロンゾンは力尽きてしまった。


「策を弄する者程弱いってことかね。次はバンデットだ」


 再び鬼童丸がコマンド入力することで、ビヨンドカオスが【緋霊彗星スカーレットコメット】を発動する。


 彗星の如く降下した緋色の霊がバンデッドと衝突すれば、バンデッドの体が完全に蒸発していた。


『鬼童丸によってデリットが倒されました』


『戦えるプレイヤーがいなくなったことにより、鬼童丸の勝ちでエリア争奪戦が終了しました』


『町田市が鬼童丸に移譲されました』


『鬼童丸が称号<町田市長>を獲得し、町田市が冥開に吸収されました』


『鬼童丸の称号<町田市長>が称号<鏖殺選帝侯(冥開)>に吸収されました』


『アビスドライグの【負呪斬捨ネガティブチェスト】が【無駄斬捨ウェイストチェスト】に上書きされました』


『ビヨンドカオスがLv90からLv96に成長しました』


『コロンゾンとバンデットを1枚ずつ手に入れました』


『町田市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、町田市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (あっさりと町田市を掌握できちゃったな)


 町田市が安全地帯になった旨が案内され、鬼童丸は通常よりも楽に安全な統治エリアを手に入れられたと満足した。


 それはそれとして、鬼童丸はアビスドライグのアビリティが強化されていたことを思い出してササッと調べる。


 【無駄斬捨ウェイストチェスト】は【憂鬱序章メランコリープロローグ】の発動後に放つことで、威力が増す攻撃アビリティだった。


 しかも、斬られた相手は【憂鬱序章メランコリープロローグ】の効果時間がリセットされて、その瞬間に再び【憂鬱序章メランコリープロローグ】を受けたのと同じ時間弱体化させられる。


 (使う順番で威力が増えるって定められてるのは珍しいな。だが、決まればかなり強い)


 コロンゾンに嵌められたことにムッとしたものの、アビスドライグが強化されたことで久遠の機嫌は少しだけ良くなった。


 それから、宵闇ヤミ達にメッセージで無事か確認したところ、全員エリア争奪戦を仕掛けて来た敵を返り討ちにしており、鬼童丸達は一度都庁で集まることにした。

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