第202話 強いられてるんだ! 俺は縛りプレイを強いられてるんだ!

 盗掘犯を想起させるタキシムを見て、オリエンスはニヤリと笑みを浮かべる。


「ラバーじゃないの。丁度良いわ。あいつを実体化できる守護悪魔と従魔抜きで倒しなさい」


「いやいや、ちょっと待ってくれよ。ドラクール達のアビリティを強化するにはああいう奴と戦うべきなんだって」


「だったら、ドラクール達はあっちと戦わせなさいよ」


 その瞬間、鬼童丸の耳にアナウンスが届く。


『掃除屋タクトデスダイスが鴻巣市に現れました』


 タクトデスダイスは蠢く正体不明の肉を骨が枠組みとなった賽子という見た目で、サイズがバイクぐらいある。


 それに続くようにシステムメッセージまで鬼童丸に届いた。



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チャレンジクエスト:オリエンスを楽しませろ

達成条件:以下の①②の両方を満たす

     ①タクトデスダイスを実体化可能な守護悪魔と従魔のみで倒す

     ②ラバーを①で戦う者以外の従魔で倒す

失敗条件:守護悪魔と従魔の全滅

報酬:専用武装交換チケット×2

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 (強いられてるんだ! 俺は縛りプレイを強いられてるんだ!)


 報酬は豪華であり、このチャレンジクエストを受けるに値する価値がある。


 それゆえ、鬼童丸はオリエンスが心変わりすることもないと判断して頷いた。


「わかった。ドラクール、俺の右腕であるお前に指揮権を委ねる。今までだって何度も俺の指示なく敵を倒してことはあったから、ドラクール達だけでタクトデスダイスを倒してみろ」


「お任せ下さい」


 静かに指示を受け止めたドラクールだが、久遠に俺の右腕とはっきり言われたことでやる気は十分だ。


 リビングフォールン達の方を向き、てきぱきと指示を出していく。


「タクトデスダイスはノロノロとしてますから、まずはリビングフォールンが【堕天封印フォールンシール】で敵の選択肢を削ぐのです。そこにアビスドライグの【憂鬱序章メランコリープロローグ】とヨモミチボシの【飢餓眼ハンガーアイ】で弱らせます」


 ドラクールに指示を出され、キリッとした表情でリビングフォールン達が頷いて指示通りにデバフや状態異常をタクトデスダイスに重ねていく。


 アビリティを封印されてデバフがかかりやすくなったら、そのままアビスドライグの【憂鬱序章メランコリープロローグ】と【飢餓眼ハンガーアイ】が決まってタクトデスダイスの形勢不利な状態があっという間に完成する。


「リビングフォールン、【栄光舞踏グロリアダンス】でさらに追い詰めましょう」


「了解!」


 ドラクール達へのバフとタクトデスダイスへのデバフがかかれば、もう何も怖くない。


 (あっちは早々に決着がつきそうだ。問題はこっちだな)


 タクトデスダイスが力尽きるのは時間の問題だから、鬼童丸はラバーの対処を考える。


「ダイダラボッチは【気絶叫波スタンウェーブ】で敵を気絶させろ。その一瞬の隙を突いてミストルーパーが【幸運吸収ラックドレイン】で、メディスタは【倦怠波動アンニュイインパルス】だ。それが終わり次第、ビヨンドカオスが【緋霊天墜スカーレットダウン】、ベキュロスが【煉獄パーガトリー】、ウルキュリアは【菌病爆発イルネスエクスプロージョン】だ」


 全体でのセットコマンドは組んであったが、実体化できるドラクール達を抜いた従魔達だけのセットコマンドは用意できていなかったから、鬼童丸は口頭で指示を出した。


 この点は次回に向けた反省にするとして、ダイダラボッチの【気絶叫波スタンウェーブ】から始まっていく。


 【気絶叫波スタンウェーブ】でラバーが一瞬だけ気絶したことで動きが止まり、そこにミストルーパーの【幸運吸収ラックドレイン】とメディスタの【倦怠波動アンニュイインパルス】が決まり、気絶状態から立ち直ってもラバーは体が怠くて動きにくさを感じていた。


 その隙を突いていくのは当たり前の戦術であり、ビヨンドカオスとベキュロス、ウルキュリアの大技が決まっていく。


 これだけでラバーのHPは半分近く削れ、ウルキュリアの【菌病爆発イルネスエクスプロージョン】によって持続的なダメージが加わる。


 ところが、ラバーは【捕食多腕イーターズアームズ】を使って大量の黒い腕を創造し、鴻巣市にいる雑魚モブアンデッドモンスターを引き寄せる。


 しかも、その過程で雑魚モブアンデッドモンスター達が腕に吸収され、ラバーのHPを全快させた。


 鴻巣市にいるアンデッドモンスター達を一掃してくれたのは助かるが、それによってラバーが全快したのはいただけない。


「ふん、早かったわね」


 オリエンスの声が聞こえてチラッとドラクール達の方を見れば、タクトデスダイス討伐を終えていた。


 これで掃除屋とヘルオブシディアンによって現れた強敵による挟撃の可能性はなくなったから、鬼童丸は少しだけ安心した。


 チャレンジクエストの半分が無事にクリアできていることも、鬼童丸の心に余裕を作らせていた。


 後は目の前のラバーをどうにかするだけなので、気持ちを切り替えて戦闘を仕切り直す。


「ベキュロスは【猛毒蛇龍ヴェノムヒュドラ】を使え。ウルキュリアは【菌病爆発イルネスエクスプロージョン】だ」


 まずは継続的にダメージを与えられるアビリティを使い、ラバーのHPを常時削れるようにする。


「ビヨンドカオス、【呪氷支配アイスイズマイン】で上半身だけ凍らせろ」


 全身を凍らせなかったのは、凍らせたままだと効果が薄いアビリティもあるからだ。


 下半身ではなく上半身を凍らせたのは、上半身が自由だと反撃を喰らいやすいからである。


 ラバーの上半身が凍り付いた時、下半身は動くから鬼童丸の従魔達の攻撃をよけようとするけれど、【菌病爆発イルネスエクスプロージョン】の効果で体が重くて思うように動かせず、先程ミストルーパーに【幸運吸収ラックドレイン】されたせいで運悪く転んでしまう。


「ミストルーパーは【追尾魔砲ホーミングバースト】だ。ダイダラボッチ、【極限斬捨マキシマムチェスト】を使え」


 ミストルーパーの砲撃が命中した後、ダイダラボッチの渾身の振り下ろしがラバーの上半身と下半身をぶった切る。


 これで終わりかと思いきや、ラバーは【自動再生オートリジェネ】を持っているようで切断された上半身と下半身がくっついた。


 更にラバーは【能力模倣アビリティコピー】を発動し、ベキュロスの【煉獄パーガトリー】をコピーしてそのまま使う。


 だがちょっと待ってほしい。


 【煉獄パーガトリー】はあくまで魔法系アビリティだから、その攻撃はビヨンドカオスの【魔法吸収マジックドレイン】によって全て吸収されていく。


「コピーするのが魔法系アビリティじゃなかったら良かったのにな。だがもう遅い。ベキュロス、【出血連撃ブリードコンボ】だ」


 ベキュロスがふらふらと立ち上がったラバーをタコ殴りにしたら、仰向けに倒れてダウン状態に陥る。


 ここで追撃しないなんて有り得ないので、鬼童丸は追撃ボタンを押す。


 この追撃で体力を一気に削り取り、ラバーの残りHPが3割を切る。


 まだ立ち上がっていないラバーに対し、鬼童丸はどんどん攻撃を仕掛ける。


「メディスタは【倦怠波動アンニュイインパルス】で足止め。ダイダラボッチは【極限踏撃マキシマムスタンプ】でラバーを踏み潰せ。ミストルーパーは隙間から【吸収触手ドレインテンタクルス】だ」


 メディスタの【倦怠波動アンニュイインパルス】でラバーの動きが鈍れば、ダイダラボッチが【極限踏撃マキシマムスタンプ】で思い切り踏まれる。


 HPが残り1割を切ったところで、ミストルーパーの【吸収触手ドレインテンタクルス】と【猛毒蛇龍ヴェノムヒュドラ】の毒、【菌病爆発イルネスエクスプロージョン】の病気によりラバーのHPが0になった。


『鬼童丸が称号<鴻巣市長>を獲得し、鴻巣市が冥開に吸収されました』


『鬼童丸の称号<鴻巣市長>が称号<鏖殺選帝侯(冥開)>に吸収されました』


『ヨモミチボシの【飢餓眼ハンガーアイ】が【暴食眼グラトニーアイ】に上書きされました』


『ビヨンドカオスがLv86からLv90に成長しました』


『ビヨンドカオスの【緋霊天墜スカーレットダウン】が【緋霊彗星スカーレットコメット】に上書きされました』


『メディスタがLv30からLv50に成長しました』


『メディスタの【倦怠波動アンニュイインパルス】が【鈍足領域スローフィールド】に上書きされました』


『ミストルーパーがLv92からLv94に成長しました』


『ダイダラボッチがLv86からLv90に成長しました』


『ベキュロスがLv84からLv88に成長しました』


『ウルキュリアがLv60からLv70に成長しました』


『専用武装交換チケットを2枚、タクトデスダイス、ラバーを1枚ずつ手に入れました』


『鴻巣市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、鴻巣市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (ヨモミチボシの強化はできたか。良かった)


 ドラクールとリビングフォールン、アビスドライグの強化はなかったが、ヨモミチボシのアビリティが強化されて鬼童丸はホッとした。


 ちなみに、【暴食眼グラトニーアイ】は【飢餓眼ハンガーアイ】よりも飢えが激しく、能力値が2割減少してダウンしやすくなる。


 かけられるとかなりキツいアビリティと言えよう。


 とりあえず、鬼童丸は隣にいるオリエンスがチャレンジクエストをクリアしたことでおとなしくなったため、それで良しとすることにした。

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