第21章 Yami's listener cup
第201話 妾という実力100の悪魔に対して10が15になった程度よ
翌日の日曜日、久遠は昨日の別れ際にタナトスから推奨されてUDSにログインした。
それは寧々と徹も同様である。
ログインを推奨された理由だが、UDS内で守護悪魔や従魔が強くなれば現実でも強くなるからだ。
仮にLv100になった守護悪魔や従魔だとしても、条件さえ満たせばアビリティが強化される。
それはドラクールとリビングフォールンが証明しているから、防衛戦後の落ち着いた状況ではUDS内で強くなるに越したことがないのである。
ついでに言えば、現在実体化していない従魔も強くしておけば、実体化した時に大きな力になるからその点でもレベル上げするべきなのだ。
桔梗は宵闇ヤミとして、昨日の防衛戦に参加してくれたヤミんちゅ達に感謝の雑談配信をするようパイモンから頼まれているから、それが終わってからUDSにログインする予定だ。
さて、都庁からスタートした鬼童丸は生産系デイリークエストをした後、鬼童丸は埼玉県加須市まで移動してから鴻巣市に向かった。
羽生市と行田市、久喜市は他のプレイヤーの統括エリアになっていたが、鴻巣市はどういう訳なのか誰の土地にもなっていないようだ。
鴻巣市を誰も手に入れていない理由だけれど、それは掲示板では鴻巣市に居座っている悪魔が原因であると言われている。
悪魔はアンデッドモンスターと比べて強いから、どうしてもどのプレイヤー達も鴻巣市への挑戦に二の足を踏んでしまうのだ。
鴻巣市は悪魔に支配されているというのは事実のようで、
(ノーヘッドリザードの大群じゃん)
ノーヘッドリザードは二足歩行しており、頭部がない代わりに炎が頭部を形成したリザードマンのアンデッドモンスターである。
それが大群で道路を塞いでいた。
「
その宣言をした瞬間、鬼童丸の守護悪魔と従魔全てが召喚された。
全てということは、当然だがオリエンスも召喚されている。
オリエンスは鬼童丸をジト目で見る。
「まったくもう、妾まで呼び出さないでくれるかしら」
「そんなこと言われても、全体召喚の方が楽なんだよ」
「従魔になるとそういうこともあるのね。面倒だわ」
「そこはオリエンスから俺の従魔になったんだから仕方ないだろ。システム的に一律で召喚されるんだ」
1体ずつ召喚していくのは面倒だから全体召喚をしている訳で、オリエンス以外の全体召喚はできない。
パイモンがこうやって親人派のプレイヤーを鍛えているのは理解しているから、オリエンスも仕方ないと諦める。
「しょうがないわね。じゃあ、妾は観戦してるから楽しませなさい」
オリエンスは何処からともなく赤ワインの注がれたワイングラスを取り出し、戦う気がないことをアピールする。
鬼童丸は仕方ないからオリエンスを放置して、他の従魔達にノーヘッドリザードの大群を倒させていく。
倒したノーヘッドリザードの大群は黒い靄になり、鴻巣市のどこかに吸い込まれていったことから、獄先派の悪魔が潜んでいる可能性も生じて来た。
ノーヘッドリザードの大群で見えなかったが、それらを倒した後で奥に別のアンデッドモンスターが紛れ込んでいたことがわかった。
リザードマンの強化外骨格を装備したキョンシーであり、ノーヘッドリザードが次々と倒されていく中でそのアンデッドモンスターだけが鬼童丸と距離を詰める。
「ふーん、アームドキョンシーも紛れ込んでたのね」
「アームドキョンシーってノーヘッドリザードと比べて強いの?」
「妾という実力100の悪魔に対して10が15になった程度よ」
「そうか。ビヨンドカオス、【
ビヨンドカオスが指示通りに攻撃すれば、アームドキョンシーの体が氷漬けになる。
「ミストルーパー、【
ミストルーパーが【
アームドキョンシーも黒い靄になって消えたため、道路を埋め尽くしていた敵がいなくなり、システムメッセージが鬼童丸に届く。
『ビヨンドカオスがLv82からLv86に成長しました』
『メディスタがLv1からLv30に成長しました』
『メディスタの【
『ミストルーパーがLv90からLv92に成長しました』
『ダイダラボッチがLv82からLv86に成長しました』
『ダイダラボッチの【
『ベキュロスがLv80からLv84に成長しました』
『ベキュロスの【
『ウルキュリアがLv40からLv60に成長しました』
『ウルキュリアの【
(やはり悪魔ぐらい倒さなきゃドラクール達を強化できないか)
ドラクール達を強化するには強者との戦闘経験が必要だと予想できていたので、鬼童丸はドラクール達を強化できなくても落ち込んだりしなかった。
黒い靄が吸い込まれていった方角に向かって進んで行くと、その方向には女性ネクロマンサーとその背後に執事の服装をした異形頭の悪魔がいた。
「取り込まれたか」
「オリエンス?」
「せいぜい気をつけるのね。あの箱入り娘は獄先派の三下悪魔の甘言に釣られてるわ」
箱入り娘は女性プレイヤーの名前であり、オリエンスに三下呼ばわりされた悪魔によって敵に回ってしまったようだ。
三下と呼ばれた悪魔は不快感を露わにした。
「三下とは酷い言われようですね。私にはルゥオンというエレガントな名前があるのです。それを人間風情の従魔になり下がった阿婆擦れに汚されるとは極めて心外です」
「あ゛?」
一文字しか発していないが、オリエンスから発せられた苛立ちは周囲の空気をビリビリさせる。
当然だがそれだけでは済まず、ルゥオンの体が業火に包まれる。
「ヒギャァァァァァ! 私の体がぁぁぁぁぁ!」
体が燃える痛みに叫ぶルゥオンだけれど、オリエンスの炎に焼かれてあっという間に炭化してしまった。
「フン、口には気をつけなさい」
「すっげぇ。流石オリエンス」
流石は四大悪魔と呼ばれるだけあって、全力を出せなくともオリエンスの火力は凄まじかった。
鬼童丸がその火力に純粋なコメントをすれば、オリエンスの悪くなった機嫌が少し回復する。
「…もっと褒めなさい」
「え?」
「媚びのない純粋な気持ちで褒められるのは悪くないわ。その調子でもっと妾を褒めなさい。力が早く戻って来る気がする」
(四大悪魔も褒め伸びスタイルなのか)
決して悪いことではなく、単に意外だったから鬼童丸はそのような感想を抱いた。
「攻撃のモーションも見えなかったし、周囲に被害が出ない効率的な攻撃だった。勉強になったよ」
「そうでしょう。良いわね。鬼童丸は妾の褒め方を心得てるわ」
「オリエンス、マスターは貴女の下僕ではありませんよ」
「…わかってるわよ。そんな怖い顔しないでくれるかしら?」
(オリエンスがドラクールを警戒した? もしや…)
ドラクールはまだ四大悪魔に並ぶ強さには至っていないはずであり、本気のベルヴァンプと戦って食い下がれるかどうかという実力だ。
そのドラクールをオリエンスが警戒していることから、ドラクールにはポテンシャルがあるという期待が持てた。
ルゥオンが炭化して死体になった後、ずっと黙っていた箱入り娘が口を開く。
「どうして私が…」
「なんて言った?」
ずっと喋っていなかったせいで声が聞き取りにくく、鬼童丸は箱入り娘になんと言ったのか訊き返した。
「どうして私が戦わなきゃいけないのよ! ノブレスオブリージュって言葉があるじゃない! なんで持ってない私が戦わなきゃいけないの!? 他人のために戦うことを強いられるなんて狂ってる! こんな世界はおかしいわ!」
溜まっていたフラストレーションを吐き出せば、箱入り娘から黒い靄が勢いよく噴き出す。
そして、箱入り娘が所持していたヘルオブシディアンが宙に浮かび、それが地獄の門を開く。
開いた地獄の門の中から吸引する音が聞こえ、黒い靄を放出して放心状態の箱入り娘の体が地獄の門の中に吸い込まれる。
鈍い咀嚼音とゲップの音が聞こえ、その直後に盗掘犯を想起させるタキシムが姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます