第198話 私のことがお嫌いですか?
久遠達がデーモンズソフトの会議室に戻ったら、徹と一緒に絵美がいた。
「徹、どうして甲さんがここにいるんだ?」
「甲さんは青森県にいたんだ。それで戦闘の後に一旦安全なここまで連れて来た。久遠、部下の指導はちゃんとしてくれ。甲さんが自力で敵の攻撃をどうにかできないのにレスバで煽り続けてたぞ」
「そんなこと言われても、勤務中にそんなことしないから指導しようがない。オフの時はそれぞれの自由だろ」
「それはそうなんだが、何度助けさせられたことか」
久遠の言うことはもっともだが、徹としては絵美の危なっかしい側面しか見ていないからやれやれと首を横に振る。
そんな時、絵美が爆弾発言をする。
「私の命を何度も救ってくれるところに惚れました。裏辻さん、結婚を前提に付き合って下さい」
「「「…「「え?」」…」」」
流れるようにプロポーズする絵美に対し、久遠達は聞き間違えたのではないかと思って耳を疑った。
ところが、桔梗と寧々だけは違った。
「裏辻さん、おめでとうございます」
「徹、良かったわね。付き合っちゃいなよ」
「言うと思った」
2人が自分と絵美をくっつけようとするのを聞いて徹は苦笑した。
彼女達が徹と絵美をくっつけたがっているのは、絵美が久遠を狙わないようにするためだ。
久遠を狙う女性は1人でも少ない方が良いから、久遠の近くにいる女性を他の男性とくっ付けてしまおうという考えである。
徹はこうなるだろうと思っていたので、全く驚かず冷静でいられた。
少し経ってから久遠も日頃のお返しと言わんばかりに斬り込む。
「甲さん、徹はどんな風に守ってくれたんですか?」
「私がうっかりマスティマを論破しちゃったら、あっちがキレて即死級の攻撃をして来たんです。それを毎回裏辻さんが助けてくれまして、この人なら私の足りないところを補ってくれる人生のパートナーにぴったりだって思ったんです」
「徹、人生のパートナーだってよ」
「断ってるのに引き下がってくれないんだ」
久遠が飛び切り良い笑顔で言えば、徹は困惑した表情で応じる。
告白されるのは徹にとって嬉しいはずなのに、それでも徹が首を縦に振らないのには理由があるのだろう。
その原因を取り除けば告白を受け入れると考えたらしく、絵美は徹に遠回しに訊ねる。
「私のことがお嫌いですか?」
「嫌いとかじゃなくて」
「じゃあ良いじゃないですか。試しに付き合ってから好きになるってこともありますよ」
「何このストロングスタイル」
嫌いじゃないなら試しに付き合ってみようという言葉は、恋愛下手な者にとって甘い罠なのかもしれない。
絵美は強気な性格が表に出ているが美人な部類であり、仕事ぶりを見ている限りではしっかりしていて心配するところはない。
プライベートがどうかなんて付き合ってみなきゃわからないのだから、絵美の言い分は理に適っていると言えばそうなのだろう。
「ほうじ茶とみたらし団子がないなぁ」
「クソッ、ここぞとばかりに仕返ししやがって」
こんな時、徹なら傍観のお供にポップコーンとコーラを欲しがるが、久遠はそれに対抗して和風で攻めた。
そこにパイモンがやって来る。
「…ふむ、続けて」
「続けてじゃねえんだわ」
ニヤニヤして自分と絵美の攻防を眺め始めようとするパイモンに対し、徹はそうじゃないだろうとツッコミを入れた。
流石にいじり過ぎると逆襲が面倒なので、久遠も仕返しはここまでにしてパイモンに話しかける。
「パイモン、わざわざ来たってことは何か用があったんだろ? 外はなんだかんだ大変なことになってる訳だし、戯れはこの辺にしといてくれ」
「そうだな。残念だがその通りなので本題に入るとしよう」
パイモンはそう言って4枚のカードを桔梗と寧々、徹、それから絵美にも投げて渡した。
それは桔梗達と特務零課が前に渡された量産型のカードだった。
「量産型の追加か」
「君達は親人派の中でも指折りの戦力だ。鬼童丸はドラクール達がいるから不要であろう?」
その問いには久遠が答えるよりも先にドラクール達が応じる。
「当然です。マスターは私達が守ります」
「私達がいればマスターは大丈夫」
「問題ありませんね」
「マスターは大船に乗ったつもりでいるでござる」
なんとも頼もしい限りである。
桔梗や寧々に比べれば可愛いものだが、ドラクール達も久遠に対して少なからず独占欲はあるようで、これ以上従魔が実体化すれば久遠に構ってもらえる時間が減ってしまうと危機感を抱いているようだ。
「そうだろう、そうだろう。鬼童丸には君達がいれば安心だ」
「その言い方に含みを感じるんだけど」
「そうね。久遠には私がいるってことを忘れてない?」
「美味です」
わざとパイモンが刺激するように言えば、桔梗と寧々が釣れてヨモミチボシの腹が満たされる。
実にカオスな状況だ。
これには久遠もパイモンにジト目を向け、軌道を修正しなければならないと思って口を開く。
「みんなはどの従魔のカードを貰ったんだ?」
この質問をすれば、桔梗達もシリアスモードに戻ってキャッチしたカードに視線を向ける。
「私はデモンズランプ」
「私はメディレイスね」
「俺はデスレシアだな」
「私はリビングパラディンです」
桔梗達が新たに実体化できるようになった従魔がわかったところで、久遠はパイモンの意図を察する。
「全員足りない要素を補う従魔を実体化できるようになったのか」
「そういうことさ。戦術が偏ると良くないから、それぞれがバランス良くなるように我が直々にチョイスした」
パイモンが真面目に選んだのであれば、戦力として申し分ないはずだ。
ただ火力を求めていたのなら当てが外れてしまった者もいるかもしれないが、生存率を高める戦術の充実という観点で言えば大局的に見ているパイモンの判断は大事だ。
桔梗の場合、ヴィラは回復系アビリティも使えるが攻撃重視であり、グレスレイプもガンガン攻撃するタイプだから、デモンズランプのようなトリッキーな従魔がいると戦術の幅が増える。
寧々ならば、魔法に長けたネクロノミコンと回避盾もできる遊撃のエンドガルムがいるから、支援や回復が得意なメディレイスがいると戦いやすくなるだろう。
徹のケースで言えば、トリッキーな攻撃を得意とするファンタズマと魔法に長けたエルダーリッチがいるので、癖のあるデバフや状態異常を駆使するデスレシアがいると敵は困るに違いない。
絵美は完全に棚から牡丹餅な状況だが、自然とヘイトを稼ぎやすい本人の性格と暴れて真価を発揮するバーサクスレイヴを使役していることから、守りにも強いリビングパラディンがいると安定するはずだ。
その時、絵美のスマホが鳴る。
「あっ、従兄からです。出ても構いませんか?」
「構わんよ」
この場の代表であるパイモンが許可すれば、絵美は利根川からの着信に応答する。
「もしもし、滋兄さん?」
『おう、電話に出られるってことは無事っぽいな。実家の墓参りに行くって聞いてたから』
「うん。アンデッドモンスターの大群とマスティマって悪魔に襲われたけど、裏辻さんに助けてもらって今はデーモンズソフトにお邪魔してるの」
『…惚れた?』
(利根川警部補、鋭いな)
実家の墓参りというワードが気になった久遠だけれど、気軽に聞いて良いものではないから考えないようにした。
それよりも徹に助けられたと報告を受け、すぐさま惚れたのかと訊ねる利根川の鋭さに感心していた。
「惚れちゃった。だから、絶賛猛アタック中」
『なるほど。今そこに裏辻さんいる?』
「いるよ。代わった方が良い?」
『ああ。代わってくれ』
利根川が徹に代わってほしいと言えば、絵美は了承して徹に自分のスマホを差し出す。
徹はどんどん外堀を埋められている気がしたけれど、絵美を助けたことに対するお礼の言葉なら受けておいた方が関係は円滑だろうと思ってそのスマホを受け取る。
「お電話代わりました。裏辻です」
『絵美を助けてくれてありがとうございました』
「いえいえ。偶然ですよ。俺の母方の実家が青森にあって、そこにアンデッドモンスターと悪魔が現れただけですから」
『偶然でも結果は結果です。絵美は幼い頃に両親を交通事故で亡くし、私の家が引き取ったのでほとんど妹みたいなものです。これからよろしく頼みます』
「えっと、もしかしなくても断りづらくしてますよね?」
『はい。絵美はなかなか気の強い子なのでグッドラックです。おっと、またアンデッドモンスターが現れたのでそれでは』
利根川は徹の返事を聞く前に電話を切った。
困った表情の徹の隣には、従兄にも応援してもらえてニコニコしている絵美の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます