第197話 天才は自称するものじゃなくて周りに評価されてそう呼ばれるの
フレッシュゴーレムはUDSにおいて掃除屋扱いのアンデッドモンスターだ。
生肉で肉体が構成されたアンデッドモンスターであり、加熱すると動きが硬くなる。
だからこそ、徹はエルダーリッチに指示を出す。
「エルダーリッチ、フレッシュゴーレムに【
【
的が大きい分、フレッシュゴーレムに【
「バーサクスレイヴ、フレッシュゴーレムに【
【
「何故そのようなショボいアビリティを使うのか理解に苦しむね。あぁ、そうか。馬鹿の考えなんて天才の私にわかるはずがなかったよ」
今まで煽られ続けていたマスティマは、反撃のチャンスが来たと思って嬉々として煽り返す。
それに対して絵美は笑顔で応じる。
「天才は自称するものじゃなくて周りに評価されてそう呼ばれるの」
言外に周りの悪魔から天才って呼ばれていないのだろうと伝えれば、マスティマの笑みが固まる。
「死ねクソアマ!」
マスティマは先程よりも口調が荒くなり、その指からビームを連射して絵美の心臓を撃ち抜こうとする。
「エルダーリッチ、甲さんの壁になれ」
エルダーリッチが絵美と連射されたビームの間に入れば、【
「甲さん、レスバが強いのはわかったんでおとなしくして下さい」
「ごめんなさい。ああいう根拠もないのにイキる奴を見ると、つい論破したくなっちゃって」
「クソアマァァァァァ!」
(ファンタズマ、【
徹が指示を口に出さずに念じれば、ファンタズマは頷いて【
【
絵美と言い争っていたせいで、マスティマの意識からファンタズマの存在が抜け落ちていた。
それにより、不意打ちのような形で【
(まったく、脊髄反射で毒を吐くのはどうにかならないのか?)
世話の焼ける絵美に対し、徹は心の中で溜息をついた。
とはいえ、マスティマに隙が出たチャンスを逃す訳にはいかないから、徹は更に仕掛ける。
「ファンタズマ、【
【
攻撃が絡みついた対象に命中する毎に茨が1本消え、それと同時に絡みついた対象の現時点のHPの10%のダメージが与えられる。
「バーサクスレイヴ、マスティマに【
「エルダーリッチ、マスティマに【
「ぐぬっ!?」
ちゃっかり絵美がマスティマに【
「あれ? おかしいわね。ショボいアビリティを受けて苦しんでる自称天才がいるわ」
「おのれぇぇぇ!」
(ファンタズマ、マスティマに【
頷いたファンタズマが手に持った剣と盾を前方に思い切り投げれば、剣は雷を纏って動こうとしたマスティマの右肩を貫いていき、上下左右から刃が飛び出した盾がスピンしてマスティマを斬りつける。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
このコンボで一気に残り4本の茨が消え、マスティマの苦しむ声が大音量で響き渡った。
(甲さんに毒舌を自重させるのは諦めよう)
過剰な痛みに苦しむマスティマを見つつ、徹は絵美の脊髄反射の毒舌が処置なしだと思うことにした。
流石に
徹達がマスティマに追撃しようとした時、動きの鈍っていたフレッシュゴーレムが【
その狙いはバーサクスレイヴらしく、面積の広い胴体でバーサクスレイヴを圧し潰さんとジャンプした。
「エルダーリッチ、今度はフレッシュゴーレムに【
空中にいたせいで、【
「ぐぬぅっ!?」
仰向けに倒れる時にフレッシュゴーレムがマスティマを下敷きにしたため、マスティマが更に苦しむ羽目になる。
この不幸の連鎖は【
「退け!」
マスティマが怒声と共にビームを連射すれば、フレッシュゴーレムは蜂の巣のように穴だらけになって力尽きた。
「同士討ちする天才なんているぅ? いないよねぇ!」
「許さん」
目の据わったマスティマがフレッシュゴーレムをどけて立ち上がり、指パッチンして暗緑色の弾がドーム状に展開する。
勿論、徹達がその中に閉じ込められており、前後左右と上部から狙われてしまう。
これは【
絵美への殺意が高過ぎて巻き込まれる徹は可愛そうだが、共に戦っている以上仕方あるまい。
「私を愚弄したクソアマ、地に頭を擦り付けて詫びろ。さすれば楽に殺してやる」
「えっ、無理」
「クスッ」
「死ね」
わからせたいマスティマと怯えていない絵美の言い合いは滑稽であり、不覚にも徹は笑ってしまった。
それが癇に障ったようで、マスティマの出した合図で【
「ファンタズマとエルダーリッチ、守り切れ」
「バーサクスレイヴ、【
徹がファンタズマの剣や盾とエルダーリッチの【
【
一見凶悪で理不尽に思えるこのアビリティだが、中でも外でも発動した者よりも強い者が攻撃をした時に結界の耐久値を削れるようになっており、耐久値が0になれば壊れる。
その特性を利用して、絵美は自分達をマスティマの【
マスティマに比べればバーサクスレイヴの方が弱いから、【
結界が壊れたとしても、大半の弾は結界が防いでくれたおかげで残りはファンタズマとエルダーリッチが対処してみせた。
「小癪な!」
(ファンタズマ、【
再びマスティマが【
「エルダーリッチ、【
爆発に巻き込まれたマスティマは虫の息になり、徹は慈悲の心を見せずに追撃する。
「ファンタズマ、とどめだ」
「頼まれた」
ファンタズマの投擲した剣が雷を纏ってマスティマの胸部を貫き、マスティマは力尽きた。
『ファンタズマがLv88からLv96に成長しました』
『ファンタズマの【
『エルダーリッチがLv54からLv78に成長しました』
『エルダーリッチの【
(やっと終わった…)
パイモンの声がファンタズマとエルダーリッチの強化を知らせ、ようやく戦いが終わったと徹は大きく息を吐いた。
「ふむ、よくやった。マスティマの死体は回収しておくぞ」
いつの間にかパイモンが背後に現れており、徹は疲れてリアクションができなかったが、絵美はまだリアクションする余裕があったため驚いた。
「誰この人!?」
「クックック。美味である。良いリアクションじゃないか。とりあえず、マスティマは回収するとして、リバースは戻るかね?」
「戻る」
「あ、あの…」
地獄の門が開かれてそこから帰ろうとする徹に対し、絵美は何か伝えようとする。
徹が振り返ると絵美が意を決して喋る。
「結婚を前提にお付き合いして下さい!」
「え?」
「コーラとポップコーンは用意してある。一旦、デーモンズソフトに戻ろうではないか」
「待った。母方の実家の安全だけ確認したい」
パイモンはカオスな事態でもニコニコしながらそう提案するも、本来の目的は母方の実家の安否確認だったから、それだけ済ませてから徹達は地獄の門を通ってデーモンズソフトに移動した。
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