第193話 私にかかれば豆腐みたいなものよ
ベルヴァンプも研究所破壊作戦に加わり、改めて岩山に向かう久遠達の行く手を結界が阻む。
結界をじっくりと観察し、タナトスはなるほどと頷く。
「この結界は展開されたばかりのようだ。となると、さっきのローカスルレギオンは研究所から迎撃目的で放たれたようだな」
「タナトス、これは触れたら危険な【
「その可能性は否定できない。だが…」
タナトスが結界に触れた瞬間、ガラスが割れるような派手な音がして結界が破壊された。
「「「…「「え?」」…」」」
事実として結界が破壊されたことは理解できたが、触れただけで結界を破壊するタナトスのすごさに事情を知らない久遠達がキョトンとした。
それを補足するのはドヤ顔のデビーラだ。
「すごいでしょ? タナトスは半魔だけど【
「平和な時代なら瓦礫の撤去や建物の取り壊しにしか使えないアビリティかもしれないが、戦わなければいけない今なら役立てることはできる」
「へぇ、便利だな」
「…そうだな。便利なアビリティだ」
【
ところが、久遠は便利なアビリティだと言ってそれ以上でもそれ以下でもないと言外に伝えたから、タナトスは自分のことを怖がらない弟子の優しさに微笑んだ。
デビーラはうんうんと後方師匠面で頷いており、ベルヴァンプは特に気にせず眠そうに欠伸をしていた。
それはさておき、結界を壊したということは結界を張った者達にバレる訳であって、岩山の研究所から番犬代わりのグリムロスの群れが現れる。
「アビスドライグ、いつものだ」
「心得たでござる!」
久遠からざっくりとした指示が出たら、アビスドライグが【
しかし、【
「こいつ等、改造されているわ」
「倒せば一緒よ。ヴィラ、【
「ネクロノミコン、【
桔梗の指示でヴィラが嫉妬を込めた斬撃を飛ばせば、動きが鈍った先頭のグリムロスに命中して首を刎ね飛ばしてその後ろにいた個体の体も斬りつけていく。
更にネクロノミコンの【
【
ヴィラとネクロノミコンの流れるようなコンボを喰らったことで、改造されたグリムロスの群れは力尽きた。
(改造されたとはいえ、アビスドライグをレベルアップさせるには至らないか)
ほんの少しだけ期待していたけれど、残念ながら久遠の期待通りの結果にはならなかった。
「襲撃はバレているようだし、サクサク進もう」
タナトスがそう言って先頭を進んで行くが、研究所にいる獄先派の悪魔達はそう簡単に進ませてはくれないらしい。
研究所に続く上り坂の中央にコープスキマイラが待ち構えていた。
UDSでは掃除屋だったコープスキマイラだが、今までに出て来たアンデッドモンスターのことを考えればきっと改造されていることだろう。
その時、デビーラが大きく溜息を吐く。
「チマチマチマチマ鬱陶しいわね!」
デビーラがコープスキマイラに向かって一直線に飛んで行き、拳骨を喰らわせてコープスキマイラを研究所まで吹き飛ばした。
研究所の壁にめり込む程の勢いで殴ったのだから、コープスキマイラは当然のことながら力尽きている。
(これが拳骨戦車。見た目からは考えられないパワーだ)
「私にかかれば豆腐みたいなものよ」
「地獄に豆腐があるのですか?」
「例えばの話よ! 例えば! ヨモミチボシ、わざわざ言わせないで!」
暴食を司るからなのか純粋な疑問をぶつけたヨモミチボシに対し、デビーラは恥ずかしそうに顔を赤らめて抗議した。
実際、豆腐を殴ってもこうはならないだろうと久遠達も思っていたため、ヨモミチボシに良い質問だと思っていた。
何はともあれ、邪魔者がいなくなったのは事実だから久遠達は研究所に乗り込んだ。
外壁にめり込んでいるコープスキマイラのことは放置しておくとして、頑丈そうな扉を直接手で触れて開けると罠が作動する可能性があるから、久遠はヨモミチボシに指示を出す。
「ヨモミチボシ、【
「わかりました」
【
その黒い靄に誘われたようで、岩山の頂上にいたらしい胴体と分かれて頭部が宙に浮くワイバーンがやって来る。
「デュラバーンだ。頭と体が繋がっている全ての存在を妬み、攻撃して来るアンデッドモンスターだ」
「なるほど。鬱陶しい奴ってことはわかった。ヨモミチボシ、【
「やってみましょう」
「了解でござる」
ヨモミチボシが【
それと同時にデュラバーンの頭が研究所の壁にめり込み、そこにアビスドライグが【
『アビスドライグがLv98からLv100に成長しました』
『アビスドライグの【
(ようやくアビスドライグもLv100か)
実体化できる守護悪魔と従魔全てがLv100に到達し、久遠はコレクターならではの達成感を得た。
嬉しいことに【
「アビスドライグ、【
「敵全体の能力値を25%カットして、かかる重力を3倍にするでござる。【
「良いね。実に良い」
アビスドライグの説明を聞き、久遠は新しいアビリティを良いものだと評価した。
「久遠が私の真似っこしたー」
「良い戦術なのでパクらせてもらったんだ」
「そうでしょ?」
【
寧々は久遠と桔梗だけで楽しく話していたため、むすっとして先を促す。
「早く行こうよ」
「そうだな。鬼童丸、先に進もう。獄先派の悪魔達に備える時間を少しでも与えたくない」
「わかった」
アンデッドモンスターを改造するような連中だから、少しでも何か仕掛けるような時間を与えてはいけない。
黒い靄もとっくに出尽くしていたから、久遠達はタナトスを先頭にして研究所に侵入した。
研究所の壁や床、天井は岩のままであり、ドラクール達が攻撃すれば破壊できるように思える。
だからこそ、久遠はタナトスに訊ねる。
「タナトス、この研究所の壁とかならドラクール達の攻撃で破壊できるんじゃないか?」
「破壊できるだろうな。だが、研究所内にある研究成果を処分してから破壊しないとまたいつか別の場所で研究が再開してしまう。そうならないように奥に向かう必要があるんだ」
「悪魔は人間と比べて丈夫なの。ちゃんと仕留めなきゃ何度だって立ち塞がるわ」
(建物の崩落って普通死ぬんだけどなぁ…)
タナトスとデビーラから話を聞けば、久遠は改めて悪魔が人間と異なる存在なのだと理解した。
通路を進んで行くと、その途中に培養層がずらりと並ぶ部屋があった。
部屋の中は暗くて培養層の中身が青く光っている。
「こういう部屋でアマイモン=レプリカが培養されてたのかね」
「その可能性はある。この培養室にある物ももちろん壊さなければならないが、一番壊さなければならない等価天秤がない」
「等価天秤?」
「あらゆる死体を捧げて新たな悪魔やアンデッドモンスターを創造する狂気の道具だ。獄先派が地球を支配すれば、人間の死体をガンガン等価天秤に捧げて悪魔やアンデッドモンスターが増えることだろう。それだけは阻止せなければならない」
「そいつはヤバい。断固阻止だ」
等価天秤の存在は許しておけないと思い、久遠もこの作戦で等価天秤の破壊を自分の目で確認するべきだと判断した。
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