第185話 私達の出番のようなので失礼します
ログアウトした久遠は隣で桔梗が自分の胸板に頬擦りしていることに気づく。
「桔梗さん、色々ツッコミたいところはあるけど最初にこれ訊くわ。何やってんの?」
「はっ、しまった。つい頬擦りしてて時を忘れてた。大変なんだよ久遠!」
「そうだな。俺の部屋に無断進入して胸板に頬擦りしてるってのは異常だ」
「細かいことは良いんだよ! テレビを見て! 大変なの!」
自分のツッコミを無視して話をして来たから、久遠は桔梗に連れられてリビングに移動した。
テレビではお昼のニュースが流れており、A国だけでなくC国やR国もアンデッドモンスターの大群に襲撃を受けていた。
現地からの中継はなく、あくまでもVTRの放映してしていない。
そのVTRを見てコメンテーターがコメントする。
『映像の化け物はあれですよね、日本でも現れてましたよね。確か、警察の発表でアンデッドモンスターと呼ばれてました。警察の発表では特殊チームが結成されたと言ってましたよね?』
コメンテーターの問いかけに応じるのは特務零課の山上だ。
『その通りです。私達特務零課はデーモンズソフトとの協力により、その技術を使ってアンデッドモンスターを従魔にすることができました。今のところ、東京タワーをはじめとした場所で現れたアンデッドモンスターを駆除し、VTRに出て来た国と同じ結果にならぬよう活動しております』
「特務零課がメディアデビューしたか。しかも、デーモンズソフトの社名まで出ちゃってる。これは打合せしてアンデッドモンスターの話をするって方針になったのか?」
「その通り。我が許可した」
バッと振り返ってみれば、久遠達の背後にパイモンが立っていた。
相変わらず気配を消しての不法侵入である。
「そろそろ不法侵入は止めようぜ?」
「なるほど、それは実に常識的な申し出だな。だが断る」
「なんで?」
「それでは我が鬼童丸達の驚きの感情を味わえないではないか!」
エゴでしかない回答に久遠と桔梗はジト目を向けた。
もっとも、悪魔を相手に人間の常識を求めても仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「はぁ…。それで、今度はどんな用件で俺ん家に不法侵入した訳?」
「貴重なリソースを持ち帰って来た鬼童丸を労いに来た。そのついでに我自らこれからの日本について説明しようと思ってね。どうだ、嬉しいだろう?」
「はいはい。嬉しい嬉しい」
「ふむ、その反応は求めていたものではないな。出会った当初はいじり甲斐があったというのに嘆かわしいことだ」
嘆かわしいなんて表情で言っているが、不法侵入しているパイモンにモテなせと言われているようなものだから、久遠が素直にそれを受け入れるはずがなかった。
そんな久遠のリアクションにも慣れて来たから、パイモンは気にせずには話を続ける。
「まず、アンデッドモンスターのことは隠し通せないと割り切って公表した。この手の内容を慌ただしく伝えればパニックになるが、ニュース番組で冷静に伝えていけばパニックになりにくい。ジョブホッパーがザックリッパーをテレビで直接召喚すれば、驚く者は多いかもしれないがジョブホッパーの言うことを聞くとわからせることで人類にとって危険性はないと証明できる」
「いや、それだけじゃ流石に厳しいだろ。デーモンズソフトの社員が番組の放送に介入して細工してるんじゃないの?」
「やはりわかるか。その通りだ。視聴者がパニックにならぬよう、精神が落ち着くように電波に細工した。この細工があれば、完全にパニックにならないとは言えないが、少しびっくりするぐらいで従魔のことを受け入れられるだろう」
久遠の睨んだ通り、デーモンズソフトの社員がニュースの放送に関与しているのなら、パニックになる可能性はかなり低いと言えよう。
しかし、それはあくまでアンデッドモンスターに限った話だ。
「じゃあ、悪魔や地獄についてはどう説明するんだ? いずれ悪魔が本格的に人の目に出て来た時にも説明は求められるだろうし、悪魔やアンデッドモンスターが何処から現れるのかって話になると思うんだが」
「首相や警察、有識者に全て根回しして悪魔と地獄を初めて定義した風に装う。例えば、アンデッドモンスターはつまるところ既に死んでいるから、便宜上それらが現れるのは地獄からだとすると発表してもらえば良い。テレビで位の高い者がそのように定義すれば、多くの者がそういうものだと認識する。我はそう考えている」
「それは言えてる」
パイモンの説明は頷けるものだったから、久遠はその説明で良しとした。
どうせ質問されるだろうから、パイモンはついでに久遠の質問を封じるべく話を続ける。
「言っておくが、今のところ親人派と獄先派について話すつもりはない。勢力争いなんて話をしても仕方ががないからだ」
「それはそう」
一般人にとって地獄における悪魔の派閥争いなんて知ったところでどうしようもないのだから、パイモンが今は悪魔が派閥で揉めていることは言わない。
今はアンデッドモンスターが日常を非日常にするべく現れるかもしれないから、そっちの処理で視聴者たちの頭はパンパンになるだろう。
余計な情報を公共の電波に乗せないように情報をコントロールしておけば、地獄から現れた者達の話にはなるまい。
つまり、デーモンズソフトが暗躍して日本国民がパニックにならないようにするとわかれば良い。
「さて、特務零課が町中で戦っていてもおかしくない環境が形成されつつあるが、十中八九すぐに特務零課だけでは戦力として足りなくなる。その時にデーモンズソフトも特務零課のように独自の戦力を準備したと発表し、ヒーローのように日本国民を救う。そうすれば、鬼童丸達が戦っても感謝こそされても忌避されることはないはずだ」
「堂々と戦えるのは楽だから良いけど、そんな未来は来ないでほしいね」
久遠がそのように言った直後、パイモンの眉間に皺が寄る。
「残念。どうやらフラグが早々に回収されたらしい」
「「え?」」
パイモンが何かを感じ取り、久遠と桔梗は後ろを振り返ってテレビを見る。
その直後にスタッフがキャスターに新たな資料を渡すべく画面に映り込む。
『緊急速報です。埼玉県と栃木県、群馬県の三県境上空に巨大な門が出現し、そこからアンデッドモンスターが降って来たとのことです。埼玉県と栃木県、群馬県にお住いの方は戸締りをしてくれぐれも外に出ないようにして下さい』
『私達の出番のようなので失礼します』
山上もテレビに出ている場合ではないから、スタジオを飛び出していった。
「パイモン、これって俺達が手を貸した方が良い感じ?」
「貸してほしいね。デーモンズソフトだけでは人手が足りないから。それと鬼童丸達にはこれを渡しておこう」
パイモンは久遠と桔梗にサングラスを渡した。
「これは?」
「そのサングラスをかけている者は、デーモンズソフトの関係者であるという証明であると共に認識阻害の効果もある。ついでに言えば、サングラスの使用者同士での連絡とお互いの位置の確認ができるスマートグラスさ。着用者の生体電流で充電されるし、電波がなくてもカードの持ち主同士ならホットラインが繋がる仕様だよ」
「何それすごい。技術の塊じゃん」
「おぉ、鬼童丸がここまで驚いてくれるだなんて用意した甲斐があったよ」
パイモンは鬼童丸からワクワクした感情が放出されたため、達成感のある笑みを浮かべた。
鬼童丸から良質な感情を摂取することが目的になってないかとツッコみたいところではあるが、緊急事態なのだからそれは後回しだ。
久遠は自分と同じく休暇中の寧々にチャットで連絡し、久遠と桔梗、寧々の3人が現地に向かうことに決まった。
準備ができたら特別にパイモンがゲートを開き、寧々にもサングラスが支給される。
「じゃあ、よろしく頼む。我はこれから関係各所に働きかけ、鬼童丸達が戦っていてもおかしくないと宣伝して回るから頑張ってくれたまえ」
「了解。
「「
地獄の門の中で自分達の従魔を召喚し、久遠達は現場に続く道を進んで行った。
パイモンの計らいでルートをショートカットできたため、すぐにアンデッドモンスターの大群が現れた埼玉県と栃木県、群馬県の三県境までやって来れた。
「本日の予報は曇り後アンデッドモンスターってか」
「数が多いね」
「ガンガン倒して経験値を稼ごう」
とりあえず、久遠達は三手に分かれてアンデッドモンスターの大群の掃討に着手した。
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