第184話 策士策に溺れた気分はどうだ?

 地獄の四大悪魔はそれぞれ別の四大元素を操る。


 パイモンは風、オリエンスは火、アマイモンは土、アリトンは水だ。


 そんなアマイモンと鬼童丸が戦う時、常にアンデッドポーカーしかしていなかったからアマイモンについてわかるのは土を操ることだけである。


 オリジナルがどれだけの強さかわからなければ、レプリカの強さも判断できない。


 それゆえ、この戦いではアドバンテージがなく常に更新される情報を基にアマイモン=レプリカと戦うしかないのだ。


 アマイモン=レプリカは指弾で硬度の高い石の球を弾き出す。


「ドラクール、吸収しようとするな。全て躱せ」


「かしこまりました」


 ドラクールには【憤怒竜ラースドラゴン】があるから、魔法系アビリティによる攻撃を吸収できる。


 したがって、指弾で弾かれた石の球が魔法系アビリティで創られたものなら避ける必要はないと考えるのが普通だ。


 ところが、鬼童丸は避けろと命じたがそれは何故か。


 その答えはミストルーパーが鬼童丸達の方に飛んで来た石の球を【追尾砲弾ホーミングシェル】で破壊した時に明らかになる。


 破壊した石の球の中に苔が仕込まれていた。


 苔が地面に落下したところ、急速に苔が育って落ちた地面を緑色に染めた。


「フォッフォッフォ。よくぞ躱せと命じたな。儂の考えを読んだのか?」


「オリジナルがリベンジする時に敵をちゃんと調べて来るんだ。レプリカだからと言ってその性格は変わるまい。だったら、【憤怒竜ラースドラゴン】で吸収できない異物を仕込んでると考えるのは当然だろう」


「ふむ。良い着眼点だ。何も考えずに吸収しようとすれば、ドレモスにHPを吸われたのだが儂の予想を上回ったようだな」


 鬼童丸は後で知ることになるが、ドレモスとは地獄にしか生えていない苔であり、触れたものに寄生してどんどん体積を増やしていく習性がある。


 寄生先のHPを吸い尽くすまでドレモスは増え続けるから、攻撃に使うには丁度良い物と言えよう。


 鬼童丸がアマイモン=レプリカと喋っている間、ドラクールがおとなしく待機しているはずもなく、【透明近衛インビジブルガード】でアマイモン=レプリカを背後から拘束した。


「良い判断だ。ドラクール、【憤怒打撃ラースストライク】」


 ドラクールの狙いはしっかり伝わっていたから、鬼童丸はドラクールにアマイモン=レプリカを攻撃するよう命じる。


 アマイモン=レプリカがその場で身動きの取れないままドラクールの攻撃を喰らえば、アマイモン=レプリカの体を覆っていたらしい岩の鎧が蜘蛛の巣状に罅割れて砕けた。


 攻撃がそれだけに留まればアマイモン=レプリカの備えの勝利だったが、憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールでの攻撃は追加ダメージが発生するため、鎧のなくなったアマイモン=レプリカにダメージが入った。


「ぐぬぅ…」


「もう一撃だ」


「かしこまりました」


 追加ダメージは元々の攻撃で与えられるダメージからすれば少ないが、無防備なところに入った不意の一撃でアマイモン=レプリカが怯んだため、鬼童丸は遠慮なく連続での攻撃を命じる。


 二度目の【憤怒打撃ラースストライク】とその追加ダメージの両方が入り、アマイモン=レプリカのHPは半分以上削られた。


 しかも、今回の攻撃では意図的に【透明近衛インビジブルガード】を解除してドレモスが一瞬で繁殖した場所に向かってアマイモン=レプリカを吹き飛ばしたから、アマイモン=レプリカにドレモスが寄生してHPを吸収し始める。


「策士策に溺れた気分はどうだ?」


「最悪だ。最悪だから共に分かち合ってもらおうかの」


 ドレモスに寄生されながら立ち上がったアマイモン=レプリカは、ドラクールではなく距離的に近い鬼童丸に対して飛びつこうとする。


「リビングフォールン、前方に【極限蹴撃マキシマムシュート】」


「任せて~」


 鬼童丸が慌てずに指示を出せば、リビングフォールンが指示通りに動いて蹴りの風圧でアマイモン=レプリカの軌道をずらす。


 ドレモスに寄生されたことにより、自身の体なのに精緻なコントロールができずにアマイモン=レプリカが明後日の方向に転んでしまう。


「お前から1対1のルールを破ったんだ。こちらが破ろうと文句を言うなよ。リビングフォールンは【栄光舞踏グロリアダンス】で、ミストルーパーは【吸収触手ドレインテンタクルス】」


 リビングフォールンの踊りで味方全体にバフがかかり、アマイモン=レプリカにはデバフがかかった。


 能力値が下がれば抵抗力も下がるから、ドレモスのHP吸収速度が上昇してアマイモン=レプリカの体のほとんどがドレモスで覆われる。


 その状態でミストルーパーの【吸収触手ドレインテンタクルス】が決まり、アマイモン=レプリカのHPの減りが更に加速する。


 残りHPが1割を切ったのを確認したところで、鬼童丸はドラクールに指示を出す。


「ドラクール、【深淵支配アビスイズマイン】のレーザーでとどめを刺せ」


「かしこまりました」


 ドラクールが深淵属性のレーザーを放てば、それがアマイモン=レプリカの中心を貫いてHPが尽きた。


『鬼童丸が称号<日野市長>を獲得し、称号<鏖殺選帝侯(冥開)>に吸収されると共に日野市が冥開に吸収されました』


『鬼童丸の称号<獄先派の天敵>が称号<アリトンの敵>に上書きされました』


『鬼童丸の称号<オリエンスの玩具>が称号<オリエンスのお気に入り>に上書きされました』


『リビングフォールンがLv96からLv100に成長しました』


『ミストルーパーがLv84からLv90に成長しました』


『ミストルーパーの【追尾砲弾ホーミングシェル】が【追尾魔砲ホーミングバースト】に上書きされました』


『専用武装交換チケットとアマイモン=レプリカ、アドラメレク、バビロンを1枚ずつ手に入れました』


『日野市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、日野市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (アリトンに注目された? それとオリエンスから評価されたっぽいな)


 称号にいくつか変化があったから、鬼童丸は順番に確認していく。


 <獄先派の天敵>が<アリトンの敵>になったことで、獄先派の敵へのダメージ量が倍になると共にアリトンに注目されるようになった。


 それと同時に<オリエンスの玩具>が<オリエンスのお気に入り>に変化したが、これは鬼童丸に何かあった時に自分を怒らせると覚悟しろというオリエンスなりのメッセージである。


 自分の玩具に手出しした奴は許さないという気持ちに変わりはないが、獄先派に対してマウントを取りに行ったということだ。


 アビリティの変化については、ミストルーパーが上位互換のアビリティを会得したという認識だ。


 威力が増したのであれば、ミストルーパーの自衛手段が増えたことになるのでありがたい変化である。


 日野市を獄先派から奪ってすぐに、タナトスがファントムホークに乗ってやって来た。


「遅れてすまない。クエスト中にアリトンが出張って来たと師匠から聞いて急いで来たんだが、どうやら無事らしいな」


「出会った時はまだ自分が戦うに値しないみたいなことを言って、アマイモン=レプリカを置いて地獄に帰ったぞ。それと、アリトンが斬り捨てた悪魔のカードも手に入ったから渡しておく」


「2体の悪魔と1体のレプリカか。ふむ、詳しくはわからないが、アマイモン=レプリカの体を造り出すのに悪魔数体は犠牲にしているだろうな。それだけの力を感じる」


「えげつないことをするもんだ。そうそう、専用武装交換チケットを使いたいからショップを見せてくれ」


 鬼童丸は3枚のカードを渡した後、タナトスにショップ画面を開いてもらった。



○専用武装

 ・ビヨンドカオス専用武装:爆魔杖ばくまじょうエクスプロム

 ・メディスタ専用武装:祈祷棍きとうこんイミナシ

 ・ミストルーパー専用武装:機静銃きせいじゅうユウナギ

 ・ダイダラボッチ専用武装:鬼哭刀きこくとうチェスト

 ・ベキュロス専用武装:双蛇拳そうじゃけんアウン

 ・ウルキュリア専用武装:壊細剣かいさいけんフラン



 (ミストルーパーの専用武装が双静銃そうせいじゅうメイスイから機静銃きせいじゅうユウナギに変わった?)


 大罪武装や枢要武装とは違うが、機静銃きせいじゅうユウナギは普段は拳銃サイズで持ち運びやすいのに戦闘時に静音性の高いライフルに変わるという武器だ。


 しかも、命中によるヘイト上昇率を抑制する効果もあるから、偵察の役割を与えられるミストルーパーには相応しい武器と言えた。


 今後のことを考えれば、アドラメレクにやったような方法での情報収集も必要になるため、鬼童丸は今回の専用武装交換チケットを使って機静銃きせいじゅうユウナギを手に入れた。


 手に入った機静銃きせいじゅうユウナギはすぐにミストルーパーの武器として交換され、日野市でやるべきことは終わった。


 鬼童丸はタナトスと共に都庁に戻り、一度ログアウトした。

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