第19章 Invasion

第181話 骨祭りの始まりじゃけぇ

 翌日の金曜日、出かける予定もなかった久遠は朝からUDSにログインした。


 ログインして都庁からゲームを再開したら、生産系デイリークエストを終えた鬼童丸の前にタナトスが現れた。


「鬼童丸、今日は休みなのか?」


「昨日から来週の月曜日まで5連休だ。まあ、昨日は割と大変な日になっちゃったけど」


「師匠から聞いた。エンプーサが宵闇ヤミの妹の体を乗っ取って襲撃して来たそうだな」


「ああ。そのせいでヤミが過激な方に吹っ切れちゃって、獄先派との戦いが終わるまで恋愛云々は待ってほしいっていう俺の意思じゃ制御できなくなった。姉妹の仲が良くなかったらしくてさ、俺を落とすことを最優先にするみたいな感じになってる」


 鬼童丸の話を聞いて、タナトスは眉間に皺を寄せる。


 自分のアドバイスが有効ではなくなってしまったのだから、新たな対策を打たなければ鬼童丸が宵闇ヤミに管理されてしまう。


 宵闇ヤミが鬼童丸を管理するとなれば、獄先派との戦いで当てにしているタナトスにとって困ったことになる。


「それで師匠が怪しげな動きをしていたのか」


「パイモンが怪しげな動き? いったい何をしてるんだ?」


「すまんが私もはっきりわかっていないんだ。ただ、国内外問わず各方面の国家権力に電話をしてるのはなんとなく掴んでいる」


「大きな変化が起こりそうなことだけは理解した」


 タナトスにわからないのであれば鬼童丸もわからないから、鬼童丸は近々何か大きな変化が起きるかもしれないということだけ理解しておくことにした。


 鬼童丸の恋愛事情とパイモンの怪しい動きはさておき、タナトスには鬼童丸に用事があったから本題に入る。


「鬼童丸、少し手伝ってほしい仕事がある。獄先派がより一層活発になったせいで手が足りないんだ」


 その直後に鬼童丸の正面にチャレンジクエストが表示される。



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チャレンジクエスト:獄先派の悪魔の拠点を潰せ

達成条件:日野市を占拠して拠点とした獄先派の掃討

失敗条件:使役するアンデッドモンスターの全滅

報酬:専用武装交換チケット

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「日野市を占拠されたのか?」


「日野市を統治していたプレイヤーがヘルオブシディアンを用いた獄先派の悪魔に殺された。そのせいで獄先派が日野市を占拠している。冥開の鼻の先だから、鬼童丸には日野市を取り返してもらいたい。私もこれから他にプレイヤーが奪われたエリアを取り戻しに行かねばならない。こちらが片付き次第そちらに向かうから、ひとまずそこまで頑張ってくれ」


「了解」


 タナトスがファントムホークに乗って飛んで行くのを見送ってから、久遠もドラクールを召喚して【憤怒竜ラースドラゴン】でドラゴン形態になってもらい、日野市へと向かった。


 日野市はアンデッドモンスターで溢れかえっているかと思いきや、雑魚モブアンデッドモンスターの姿は見当たらず、高幡不動尊にスカルレギオンの姿が目立っていた。


 スカルレギオンは大量の骨を纏ったアンデッドモンスターであり、骨で構成されたレギオンという見た目と正体は厳密に言えば違う。


 (雑魚モブの数を揃えるよりもこっちの方が強いってことか)


 スカルレギオンを攻撃できるギリギリの位置にある建物の屋上に着陸し、鬼童丸は戦闘準備を始める。


召喚サモン:オール」


 鬼童丸の従魔が全て揃った時、鬼童丸の耳にシステムアナウンスが届く。


『掃除屋スケリトルドラゴンが日野市に現れました』


 システムアナウンスが聞こえるのと同時に日野市が光の壁に覆われ、鬼童丸達の正面にスケリトルドラゴンが現れた。


 (骨祭りの始まりじゃけぇ)


 元々居座っていたスカルレギオンに加え、掃除屋として現れたのもスケリトルドラゴンだから敵が骨だらけで鬼童丸は苦笑した。


 強い敵が2体同時に現れた場合、ターン制の戦闘なら与えるダメージ配分を考慮して戦わなければならない。


 ところが、スカルレギオンは本格的な戦闘が始まる前に激しく揺れると、地面からルーインドの大群が這い出して来た。


 ルーインドはギャンブルで身を崩したスケルトン系モンスターのなれの果てであり、自身のLUK値が0だからなのかLUK値が高い者に群れる傾向にある。


 ルーインドの大群のおかげで乱戦モードで始まった戦闘だが、ルーインドの大群がその見た目に似合わぬ素早さで鬼童丸達のいる建物に向かって走り出す。


「邪魔者から排除する」


 鬼童丸はそう言ってコマンド入力を使い、ドラクール達に指示を出し始める。


 リビングフォールンが【栄光舞踏グロリアダンス】で味方全体へのバフと敵全体へのデバフを与え、アビスドライグが【暴君重力タイラントグラビティ】で敵全体にデバフと3倍の重力を与えた。


 おまけにメディーパが【倦怠波動アンニュイインパルス】を使えば、敵全体の動きがほとんど止まっているに等しく、抵抗する気力も削れていく。


 その状態でビヨンドカオスの【緋霊天墜スカーレットダウン】、イミテスターの【不幸爆発バッドエクスプロージョン】、ダイダラボッチの【極限踏撃マキシマムスタンプ】、ベキュロスの【地獄火炎ヘルフレイム】を放てば大量に湧いて出たルーインドの大群は掃討された。


 しかし、ルーインドの大群がカードになるかと言えば、そうならずに黒い靄になってスカルレギオンに取り込まれた。


 大量の黒い靄を取り込んだ結果、スカルレギオンの体が膨張して骨が増える。


 スカルレギオンを放置しているとどんどん体が分厚くなると判断し、鬼童丸はまだ攻撃していない従魔達にコマンド入力で攻撃を命じる。


 ミストルーパーの【追尾魔弾ホーミングバレット】とウルキュリアの【追尾種弾ホーミングシード】でスカルレギオンを自分に惹きつけたら、ヨモミチボシの【憎悪砲ヘイトバースト】でスカルレギオンの骨の鎧を一気に破壊する。


 骨の鎧が破壊されたことにより、その内部に隠されていた緋色のフレッシュスライムのような本体が露見する。


 そこにドラクールの【混沌吐息カオスブレス】が放たれれば、今回は深淵と雷の混ざった吐息ブレスが本体に命中してスカルレギオンの体力を削り切った。


 (マジか。思ってたより見かけ倒しだな)


 鬼童丸はそんな風に思っているけれど、この結果はLv100のドラクールだからこそ本体のHPを一撃で削り切れたのであって、味方へのバフと敵へのデバフがあっても他の従魔だったなら削り切れなかっただろう。


 とりあえず、これで視界に残った敵は掃除屋のスケリトルドラゴンだけだ。


 スケリトルドラゴンはここまで動かなかったが、それはAGIが低いからではなく意図的なものだ。


 ずっと待機していたスケリトルドラゴンが【呪波動カースインパルス】を放った瞬間、大罪武装と枢要武装を持たない従魔達のHPが一気に半分ほど削られた。


 (嘘だろ? VIT無視かよ!)


 【呪波動カースインパルス】は特殊なアビリティであり、自身よりも能力値の合計値が低い敵が倒した味方の数に応じてダメージを与える。


 20体倒すごとに全体の1割ダメージを与えるのだが、今は100体以上のアンデッドモンスターを倒したから5割のダメージを受けた訳だ。


「リビングフォールン、【輝星賜物ファンサービス】で味方の回復。ヨモミチボシ、【重沈黙眼ヘビィアイ】でスケリトルドラゴンの動きを鈍らせろ」


「は~い」


「わかりました」


 リビングフォールンが素早く味方を回復させている間、ヨモミチボシが【重沈黙眼ヘビィアイ】でスケリトルドラゴンにかかる重力を増加させて沈黙状態にした。


 これで沈黙状態が続いている間、スケリトルドラゴンはアビリティを使用できない。


「アビスドライグ、【紫電一閃フラッシュドライブ】で隙を作れ。作った隙でメディーパは【被弾注入ダメージインジェクション】だ」


「任せるでござる!」


 アビスドライグの攻撃でスケリトルドラゴンの体がぐらつき、その隙にメディーパの【被弾注入ダメージインジェクション】が命中する。


 その結果、スケリトルドラゴンのHPは一気に4割削れた。


「ドラクール、悪魔形態に戻ってスケリトルドラゴンの顎に【憤怒打撃ラースストライク】をかましてやれ」


「かしこまりました」


 悪魔形態に戻ったドラクールが一瞬にしてスケリトルドラゴンに接近し、その顎下から【憤怒打撃ラースストライク】を繰り出す。


 顎をかち上げられてスケリトルドラゴンが転倒し、憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールの効果で追加ダメージが入れば、そのままダウン状態に判定される。


 追撃ボタンが表示されたため、鬼童丸がそれを押せばゴリゴリとスケリトルドラゴンにダメージが入ってどうにかHPを削り切ることができた。

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