第156話 今、何かしたか?

 アビリティチケットは本編出ないと使えないから、鬼童丸は配信が終わってから使うことにした。


「ヤミ、1周差で負けてどんな気持ち?」


『うう゛ぅぅぅぅぅ!』


 嗚咽を漏らす宵闇ヤミに対し、コメント欄のヤミんちゅ達はスーパーチャットも含めて「ヤミ虐助かる」とコメントが続いた。


 オープニングで鬼童丸は需要があるなら供給しなければと言っていたが、それが実行されて愉悦勢が大喜びしている。


「ヤミ、次はアンデッドラピッドファイアだよな。やろうぜ」


『ぐすん、次は負けない! 勝って鬼童丸に私のリクエストに応えてもらうんだから!』


「一体いつから賭けが始まっていた?」


『今でしょ』


「古いでしょ」


 古いネタを宵闇ヤミが使えば、ノータイムで容赦なく鬼童丸が斬り捨てる。


 そのやり取りを受け、宵闇ヤミの配信のコメント欄が大草原になってしまった。


 ミニゲームに追加されたアンデッドラピッドファイアだが、これはプレイヤーの反射神経が試される。


 従魔を1体選択して参戦させ、画面上に現れる雑魚モブアンデッドモンスターを素早く倒していく訳だが、制限時間の3分以内にどれだけ倒せるかを競うゲームになっている。


 2~4人で対戦できるけれど、今日は鬼童丸と宵闇ヤミの一騎打ちである。


 対戦モードの場合、全てのプレイヤーが同じラインから雑魚モブアンデッドモンスターを狙い撃ちするので速さ勝負になる。


 (ここはミストルーパーに任せてみるかな)


 鬼童丸はミストルーパーを選択し、宵闇ヤミはデモンズランプを選択した。


 両者が参戦させる従魔を見て、ヤミんちゅ達は宵闇ヤミの選択に戦慄した。


 害悪戦法する気満々だろうと思われているのだから、ヤミんちゅ達が戦慄するのも頷ける。


 画面が変わってすぐにカウントダウンが始まる。


『3,2,1, START!!』


 画面上に的として現れたのはスケルトンであり、宵闇ヤミがデモンズランプの【座標交換シャッフル】でスケルトンと障害物の位置を交換する。


 しかし、鬼童丸がミストルーパーの【追尾魔弾ホーミングバレット】で対処させれば、この攻撃は敵を追尾して移動先に弾丸が飛んで行くから、宵闇ヤミの小細工に関係なくスケルトンに命中する。


『そんなぁ…』


「今、何かしたか?」


 コラボ配信でアンデッドラピッドファイアをやるとわかった時から、鬼童丸は宵闇ヤミがデモンズランプを選択すると予想していた。


 それゆえに【追尾魔弾ホーミングバレット】を使用できるミストルーパーを選択しており、宵闇ヤミはまんまと鬼童丸の読み通りに動いてしまった訳だ。


 的として現れるスケルトンだが、常に場には4体出現するようになっており、ミストルーパーが次々に的となるスケルトンを1体ずつ倒していくのに対し、宵闇ヤミは狙撃ではなく範囲攻撃の【連鎖爆発チェーンエクスプロージョン】で追い上げる。


 それでも、範囲攻撃には無駄が多くてデモンズランプはなかなかミストルーパーの撃破数に追いつけないまま3分間が過ぎた。


『終了! 勝者は鬼童丸が使役するミストルーパーだぁぁぁぁぁ!』


『ミストルーパーがLv52からLv54まで成長しました』


『ミストルーパーの【霧化ミストアウト】と【変身シェイプシフト】が【霧操作ミストコントロール】に統合されました』


『ミストルーパーが【螺旋水線スパイラルジェット】を会得しました』


 (倒したモンスターが弱くてレベル上げには微妙だけど、新アビリティが得られるのは良いね)


 勝敗も大事だが、どれだけミストルーパーを強くできたかの方が大事なので、レベル上げとしては微妙でも新アビリティの会得という結果に鬼童丸は満足した。


 システムメッセージが届いてから少しして、鬼童丸の視界にリザルト画面が現れる。



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ミニゲーム⑦アンデッドラピッドファイア-1

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順位:1位:鬼童丸(114体)

   2位:宵闇ヤミ(86体)

報酬:アビリティチケット(ノーミスボーナス)

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 (またアビリティチケットか。さっきは見てなかったけどどんな効果なんだ?)


 アビリティチケットについて確認してみると、このチケットを使用した時点で対象となる従魔が会得できるアビリティを会得させられる効果があった。


 ただし、UDSにおいて従魔は6つのアビリティしかキープできないから、既に6つのアビリティを会得している場合はどれか1つ忘れさせなければならない。


 ミニゲームのトップ画面に戻って来たところで、鬼童丸は宵闇ヤミに声をかけてみる。


「ねえ、今どんな気持ち? 2連敗してどんな気持ち?」


『許せねえ! 許せねえよなぁ!』


「アビリティチケットを独占しちゃってごめん」


『くぁwせdrftgyふじこlp』


 怒りのあまり、宵闇ヤミの言葉は言葉として機能しなくなっていた。


 愉悦勢のヤミんちゅ達はそのやり取りに大喜びであり、「ヤミ虐助かる」とスーパーチャットが飛ぶ始末である。


「ヤミ、落ち着いてよ」


『…あんまりおいたが過ぎるとリアルの鬼童丸の位置を特定してわからせちゃうからね?』


「サラッと怖いこと言うの止めようか」


 実際にはシェアハウスしているので、鬼童丸をわからせる=久遠を部屋に監禁するという等式が成り立ちかねないのが恐ろしいところだ。


 これにはヤンデレスキーなヤミんちゅ達が「いいぞもっとやれ」とエールを送る。


『鬼童丸、もう一度やろうよ。ヤミも害悪戦法に頼らない戦い方でリベンジしたい。というか、アビリティ習得チケットが欲しい』


「チケットが手に入るかわからないけど、もう1回やろうか」


『チケットを手に入れるのはヤミなんですけど』


「今日はヤミ虐が捗り過ぎて供給過多になっちゃうかもなー」


 そんなやり取りをしつつ、鬼童丸と宵闇ヤミは参戦させる従魔の選択に移る。


 なお、次のステージではスケルトンではない雑魚モブアンデッドモンスターが出て来るから、難易度が上がっているのは間違いない。


 (さて、どの従魔にしようか)


 次のステージの敵がゴーストだと現時点でわかっているから、遠距離攻撃であっても物理攻撃をする従魔は選択できない。


 ついでに言えば、ドラクールとそれ以外の従魔でレベル差が開いてしまったから、ドラクール以外のモンスターを選んでレベル上げしたいというのが鬼童丸の正直なところだ。


 (ここはイミテスターにしよう)


 ミストルーパーと同時期に手に入れたイミテスターだから、鬼童丸がミストルーパーをレベルアップさせた以上イミテスターもレベルアップさせられたら良いなと考えるのは自然である。


 宵闇ヤミが選択したのはグレイヴリーパーだった。


 両者の選択が終われば画面が変わり、すぐにカウントダウンが始まる。


『3,2,1, START!!』


 画面上に的として現れたのはゴーストであり、鬼童丸はイミテスターに【不幸爆発バッドエクスプロージョン】を発動させて広範囲のゴーストを倒していく。


 不幸状態をばら撒く爆発は通常の爆発とは異なり、敵の自滅も誘えたりする。


 それが宵闇ヤミのグレイヴリーパーを助けることにもなり、思ったよりも差を広げられなかった。


 (作戦を変更した方が良さそうだ)


 鬼童丸がイミテスターに【海賊変身パイレーツトランス】を発動させたところ、イミテスターの外見が海賊船の女船長に変更する。


 元々装備していた棺桶砲ツタンカも姿が変わり、大砲の見た目から銃に変形した。


 銃に見た目が変わっても、その威力は変わらないから命中精度が上がった状態で【麻痺狙撃パラライズスナイプ】が次々にゴーストに命中していく。


『うわっ、こんな所で変身初お披露目なの?』


「ヤミのためにとっておいた。そう言ったら喜んでくれる?」


『えっ、ヤミのために(トゥンク)』


 自分のためにと言われて宵闇ヤミがときめいてしまい、それのせいで宵闇ヤミの操作が止まってしまい、その間も鬼童丸は操作しているから撃破数に差が開いていく。


 別に盤外戦闘をしたい訳でもなかったから、鬼童丸は宵闇ヤミに声をかける。


「おーい、手が止まってるぞー」


『はっ、鬼童丸がヤミを口説くからぼーっとしてた!』


「都合良く解釈しないでくれ」


『切り抜き動画を作る時に鬼童丸さんの告白シーンを加えなきゃ』


 (妄想を吐きながら操作速度はどんどん上がってる。俺も油断しちゃ駄目だな)


 妄想のギアがかかるにつれ、宵闇ヤミによるグレイヴリーパーの攻撃が素早く正確になっており、開いていた差が徐々に詰められて来た。


 (もうすぐ終わる。逃げ切るんだったら…)


 鬼童丸は再びイミテスターに【不幸爆発バッドエクスプロージョン】を発動させ、広範囲のゴーストを倒すと同時にタイムアップを迎えた。


『終了! 勝者は鬼童丸が使役するイミテスターだぁぁぁぁぁ!』


『イミテスターがLv52からLv54まで成長しました』


『イミテスターの【麻痺狙撃パラライズスナイプ】が【麻痺砲弾パラライズシェル】を会得しました』


 システムメッセージが届いたら、その次にリザルト画面が鬼童丸の視界に表示される。



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ミニゲーム⑦アンデッドラピッドファイア-2

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順位:1位:鬼童丸(103体)

   2位:宵闇ヤミ(97体)

報酬:10万ネクロ(ノーミスボーナス)

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 (流石にアビリティチケットは連続で手に入ったりしないか)


 思いの外宵闇ヤミに追い上げられていたことよりも、鬼童丸の興味はアビリティチケットが手に入らなかったことに向いていた。


「残念、アビリティチケットは1種目につき1枚しか貰えないっぽいわ」


『ヤミよりもアビリティチケットに興味を持ってるってこと?』


 顔を見ていないけれど、その声を聞くだけでヒエッとするあたり、きっと宵闇ヤミの目からハイライトは消えていることだろう。


 体をブルッと振るわせた時、鬼童丸はミニゲームのトップ画面に気になる通知を見つけた。

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