第152話 俺だ俺だ俺だ俺だ俺だァァァァァ!

 ログインして都庁で生産系デイリークエストを済ませた後、鬼童丸はタナトスから話しかけられる。


「鬼童丸、少し話せるか?」


「大丈夫。何かあった?」


「其方に頼みたい仕事がある」


「クエストか。話を聞くよ」


 鬼童丸が話を聞く意思を見せたため、タナトスは鬼童丸にチャレンジクエストを提示する。



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チャレンジクエスト:茨城県境町と五霞町で暴れるネクロマンサーの拘束

達成条件:目的とするネクロマンサーを無力化した上で拘束

失敗条件:使役するアンデッドモンスターの全滅

報酬:属性ポーション1セット

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「気になることがある」


「聞こう」


「害悪ネクロマンサーじゃなくてと表示されてるのはなんで?」


 鬼童丸の疑問をぶつけるのに対し、タナトスが取った行動はフレンド申請だった。


 既にタナトスがNPCではないと理解しているため、フレンドチャットでないと答えられないような事情があると判断し、鬼童丸はタナトスのフレンド申請を受け入れた。


 その直後に送られて来たフレンドチャットを見て、鬼童丸の表情が引き攣る。


「マジで言ってる?」


「未確定だがその可能性は高い。だからこそ、討伐ではなく拘束をクエストクリア条件としている」


「…穏やかじゃないな」


「まったくだ。本来なら運営側である私が動くべき案件なんだが、動けない事情がある」


 そう言ったタナトスは、口にできない事情をフレンドチャットにて鬼童丸に伝える。


 その内容とは、現在の境町と五霞町では親人派の悪魔及び師匠キャラのアカウントが立ち入れない結界が張られているというものだった。


 (獄先派の仕業としか考えられないが、何か企ててるなら早い内に潰しておくべきだよな)


 時間を置けば置くだけ碌なことにならないと判断し、鬼童丸は転移魔法陣がある古河市まで移動した。


召喚サモン:ドラクール」


 ドラクールを召喚したら、鬼童丸は【憤怒竜ラースドラゴン】でドラゴン形態になってもらい、その背中に乗って境町に侵入する。


 外から見た景色はただの境町だったが、境町の中に入るとその中は霧がかかっていた。


『翼で霧を払ってみます』


「頼む」


 ドラクールが翼を動かして霧を払ってみるが、すぐに霧が戻って来てしまう。


 どうやら不思議な力が働いているらしい。


「ドラクール、【深淵支配アビスイズマイン】でソナーを放てるか?」


『やってみます』


 深淵の波動を全方位に薄く放ってみたところ、ドラクールは前方に何かが急接近して来るのを感知した。


『マスター、何か来ます』


「鬼童丸ゥゥゥゥゥ!」


「この声…、誰?」


「俺だ俺だ俺だ俺だ俺だァァァァァ!」


 聞き覚えがあるような気がするけれど、誰だかわからない声が聞こえて鬼童丸は首を傾げた。


 その直後に霧の中からUDS内では久し振りに見た顔が現れる。


「こんな鬱陶しいこと言う知り合いなんていたかな。誰だっけ?」


「俺だよ俺! きたくぶちょーだよ!」


「…お前、きたくぶちょーのアカウントを使ってる別の何かだろ」


「ハァン!? 俺は俺で俺に決まってんだろォ? マイネームイズきたくぶちょー!」


 (絶対きたくぶちょーじゃねえよ。新人戦の様子からして、こんなハイテンションな奴じゃなかったし)


 目の前のきたくぶちょーはスケリトルワイバーンに乗っており、新人戦でUDSを卒業したと知られているきたくぶちょーが手に入れているとは考えにくい従魔である。


 それに加えて違和感しかないテンションだから、鬼童丸はきたくぶちょーを名乗る何者かに無言のままジト目を向けた。


 流石にこれ以上足掻いても無駄だと判断したのか、きたくぶちょーのアカウントを使う何者かが悪い笑みを浮かべる。


「フン、やはり騙されぬか。では、児戯はここまでにしよう」


 次の瞬間、きたくぶちょーの体から大量の黒い靄と共に両性具有で黒山羊の頭と黒い翼を持つ悪魔が飛び出す。


 その黒い靄が放出されるにつれて、きたくぶちょーの体は空気の抜けた風船のようにどんどん萎れていく。


 放出された黒い靄は悪魔の手の中にあるヘルオブシディアンに吸い込まれ、それが地獄の門を開く。


 門の内側にいる何かが萎れたきたくぶちょーとスケリトルワイバーンを吸い込み、ガリボリと鈍い音を立てて咀嚼する。


 それから門の外に新たなアンデッドモンスターが現れたが、それは首が宙に浮く空飛ぶ灰色の翼竜だった。


 (デュラハンドレイク。こんなアンデッドモンスターもいたのか)


 デュラハンドレイクの方に気を取られている鬼童丸に対し、悪魔が卑猥なポーズを決めて自己紹介を始める。


「改めて名乗ろう。朕がバフォメットであると!」


「うわキッショ。ドラクール、【混沌吐息カオスブレス】」


「キショいって言うギャァァァァァ!」


 鬼童丸が容赦なくドラクールに攻撃指示を出せば、ドラクールはバフォメットとデュラハンドレイクに向けて【混沌吐息カオスブレス】を放つ。


 今回は深淵属性に氷属性が上乗せされており、デュラハンドレイクは体が凍り付いて地上に落下してしまう。


 バフォメットは途中で離脱できたから完全に凍り付かずに済んだが、デュラハンドレイクは凍り着いた体が落下の衝撃で粉砕してしまい、そのまま力尽きてしまう。


「貴様ァ! よくも朕のデュラハンドレイクの出番を奪ったなァ!」


「お前こそよくもきたくぶちょーを唆して体を奪ったな」


「ハァン、騙される方が悪いんだよ! あれだけ負の感情をため込んでて騙しやすい奴は騙して下さいと言ってるようなものさ! ちょろいもんで簡単に奴の体を奪えたぞ!」


 (リアルで体を奪われたっぽいけど、バフォメットに目を付けられるとはね)


 鬼童丸が戦闘を始めた時、敵が2体に対して鬼童丸はドラクールだけで戦っていたから、ターン制ではなく乱戦モードでの戦闘になっている。


 そして、鬼童丸はわざと最初の攻撃を声に出して命じたから、バフォメットはコマンド入力で命じられたドラクールの攻撃に気づくのが遅れてしまう。


「おしゃべりはここまでだ! 朕は貴様を倒して名をあげェェェ!?」


「ようやく気付いたか」


 コマンド入力で鬼童丸がドラクールに命じたのは【透明多腕インビジブルアームズ】である。


 現在、バフォメットは自分に何が起きているのがわからず叫んでいるけれど、実際にはドラクールと同じ能力値の複数の透明な腕がバフォメットの全身を握っているのだ。


「貴様、朕に何をしギャァァァァァ!」


「騒ぐなよ、鬱陶しい」


 鬼童丸がゴミを見るような視線を向ければ、ドラクールは腕の本数を増やしてバフォメットの体を握り潰しにかかる。


 激痛のあまり何もできないバフォメットに対し、鬼童丸はドラクールに頷いてとどめを刺させる。


「ギャァァァァァァァァァァ!」


 バフォメットには【入替土産シャッフルスーヴェニア】があったのだが、ドラクールが【憤怒竜ラースドラゴン】を保有していたおかげで嫌がらせの効果を受けずに済んだ。


 悲痛な叫びと共にバフォメットのHPが尽きれば、霧が晴れると同時にシステムメッセージが鬼童丸に届く。


『鬼童丸が称号<境町長>を獲得し、称号<鏖殺侯爵(冥開)>に吸収されると共に境町が冥開に吸収されました』


『鬼童丸が称号<五霞町長>を獲得し、称号<鏖殺侯爵(冥開)>に吸収されると共に五霞町が冥開に吸収されました』


『一定数の悪魔を下したため、鬼童丸の称号<鏖殺侯爵(冥開)>と称号<死賢者>、称号<先駆者>が称号<鏖殺選帝侯(冥開)>に統合されました』


『ドラクールがLv70からLv76まで成長しました』


『属性ポーション1セットとデュラハンドレイク、バフォメットを1枚ずつ手に入れました』


『境町と五霞町にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、境町と五霞町全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (<鏖殺選帝侯(冥開)>って何? なかなかヤバそうな称号なんだが)


 称号の画面を確認してみたところ、従魔やNPCからの好感度大上昇に加えて地獄の存在から注目される効果があった。


 それに加え、UDSのどのエリアにおいても獲得経験値と戦闘によって敵に与えるダメージが1.5倍になるという破格の性能である。


 無論、この称号を会得するための難易度が高過ぎるため、誰でも手に入れられるという称号ではない。


 <鏖殺選帝侯(冥開)>の説明を読み終えた時、タナトスがファントムホークに乗って鬼童丸のいる場所にやって来た。

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