第144話 目を泳がせずに俺の目を見てもう一度どうぞ

 新従魔のお披露目が終わったため、宵闇ヤミは進行に戻る。


「最初から見どころがあった訳だけど、今日のコラボ配信ではレンタルタワー攻略戦後から追加された要素について触れるよ」


「新要素? なんだっけ?」


 本当はちゃんと運営のお知らせを読んでいるから知っているけれど、鬼童丸は配信の進行に必要だから敢えて惚けてみせる。


 そのフォローに宵闇ヤミは心の中で感謝しつつ、デーモンズソフトから紹介を頼まれた新仕様について触れる。


「地獄で親人派と獄先派の争いが激しくなってるのは、鬼童丸もヤミんちゅ達も知ってるよね?」


「そりゃヘルストーンとかちょくちょく巻き込まれてるから知ってるよ」


「愉悦ぜ、オホン、中立派ってどんな立ち位置かわかる?」


 ほとんど愉悦勢と言ってしまっている宵闇ヤミに対し、コメント欄のヤミんちゅ達は草を生やす。


 中立派のことを中立派とちゃんと表現しているのはデーモンズソフトぐらいで、プレイヤー達には専ら愉悦勢という通称の方が知られているのだから無理もない。


「どっちつかずだから親人派と獄先派に味方につけって言われてるんじゃないの?」


「そうなの。それで、共同代表だったオリエンスは親人派に合流してアマイモンは獄先派に合流したんだけど、その配下が全て親人派と獄先派に分かれた訳じゃないんだよ。愉悦ファーストを掲げて独自でこの世界に干渉する迷惑な存在が出て来たんだ」


「つまり、愉悦勢死すべし慈悲はないとヤミ虐されるヤミは言いたい訳だ」


「どぼじでぞう゛い゛う゛ごどい゛う゛の゛~?」


 ポンと手を打ってサラッと自分のことをいじる鬼童丸に対し、宵闇ヤミはポカポカと鬼童丸の胸を殴る。


 愉悦勢のヤミんちゅ達は赤ワインのスタンプの他、「ヤミ虐助かる」や「ヤミ虐捗る」なんてコメントを次々に投稿しており、その中にはわざわざスーパーチャットで愉悦アピールをする者もいた。


「ごめんて。でも、要は愉悦勢の残党がこの世界に散り散りに現れたから、そいつ等を仕留めれば良いってことだろ?」


「…うん。師匠曰く懸賞金が出てるらしいから、倒せば経験値だけじゃなくてネクロも稼げるんだよ」


「そして、稼いだネクロでヤミはギャンブルを行うと」


「そうそうって違うよ!? ヤミは鬼童丸の良妻であるために無駄遣いはしないって決めたもん!」


 ノリツッコミをする宵闇ヤミに対し、コメント欄のヤミんちゅ達は疑うコメントを次々に投稿していった。


「ふぅん、ヤミが鬼童丸と結婚するのを邪魔するヤミんちゅ達がいるんだね。だったら、ヤミにも考えがあるよ」


「おーい、今日は落穂拾いをするんだろ? エリア争奪戦はしないんじゃないの?」


「オホン、そうだね。今までは取るに足らない愉悦勢だったけど、この機会にヤミ虐の原因は取り除きたいから正しく落穂拾いだね。さっきヘカテーに訊いたら、残党の1体が茨城県坂東市にいるらしいの倒しに行こう」


「良いね。すぐ行こう」


 鬼童丸と宵闇ヤミはお披露目した新従魔を送還して常総市に転移してから、鬼童丸が召喚したビヨンドカオスに【乗物変型ヴィークルチェンジ】で車に変形してもらってから、それに乗り込んで茨城県坂東市に向かった。


 坂東市はまだ誰の領地になっていないらしく、鬼童丸達は普通に坂東市に侵入できた。


 プレイヤーに統治されていないエリアの場合、大抵はアンデッドモンスターがわらわらと群れているのだが、坂東市では一般的な未統治エリアとは異なる様子である。


 何が起きていたのかと言えば、坂東市の路上のあちこちでスッカランがギャンブルをしていたのだ。


 ビヨンドカオスを停めて送還した後、鬼童丸は目の前の光景を見て苦笑する。


「アンデッドモンスター達のカジノに来ちゃったのかね? ヤミにとってはテーマパークみたいなものかな?」


「ち、違うよ?」


「目を泳がせずに俺の目を見てもう一度どうぞ」


「えへへ、違うもん♡」


 鬼童丸にジト目で言われれば、宵闇ヤミは目を泳がせて否定したものの宵闇ヤミの目が鬼童丸と合わない。


 鬼童丸の両手で顔を固定されれば、宵闇ヤミは嬉しそうに笑身を浮かべながら否定する。


 急に雌を出す宵闇ヤミだが、鬼童丸は冷静に宵闇ヤミの顔から手を離して近くでカードゲームをしているスッカラン達の様子を伺う。


「スッカランがアンデッドポーカーしてるぞ」


「ポーカーで勝負できるみたいだね。やってくよね?」


「そんな生き生きとした顔で言うんじゃないよ。やらなきゃ進めないならやるけどさ」


 アンデッドポーカーで勝たなければ先に進めないようだから、鬼童丸達はスッカラン達とアンデッドポーカーで勝負する。


 正直な気持ちを言えば、鬼童丸は視界に映るアンデッドモンスター達を攻撃して一掃したいのだが、従魔を召喚できても戦う選択肢はグレーアウトされているから戦えない。


 そうであるならば、アンデッドポーカーで勝負するしかないのである。


 鬼童丸と宵闇ヤミがアンデッドポーカーで勝負すると決まった途端、近くで別の勝負をしていたスッカラン達がぞろぞろと集まって来て囲まれてしまう。


「ギャンブルに興味あり過ぎだろ」


「だってスッカランだもの」


「坂東市に逃げ込んだ悪魔ってのはギャンブル好きなのは間違いないな」


「だよね。さあ、勝負だよ」


 宵闇ヤミがそういった瞬間、ディーラー役を務めるスッカランがカードを配り始める。


 ミニゲームと同様に、アンデッドポーカーはトランプの絵柄がアンデッドモンスターなだけで、ルールはテキサスホールデムが採用されている。


 したがって、手札は2枚で最初のコミュニティカードは3枚あり、ベットかフォールドをしながらコミュニティカードが5枚まで増えていき、最終的に2枚の手札と5枚のコミュニティカードの中から5枚を選んで役を作る。


 鬼童丸も宵闇ヤミもネクロに困っていないから、まずは参加料アンティを1万ネクロスタートとして、1ゲーム当たりの賭け金の上限を10万ネクロに定めた。


 スッカランはスッカランゆえに1万ネクロなんてもっていない。


 どうするのかと言えば、観客として集まっていたスッカラン達が突如カードになり、1万ネクロ分のスッカランのカードが2体のスッカランの前に積み上げられた。


「戦う前から身売りする覚悟があるってか。覚悟決まり過ぎだろ」


「鬼童丸、これが決闘者デュエリストだよ」


「それは違うね。それっぽく言ってもただのギャンブラーだから。しかも末期の」


 真顔の鬼童丸はそう言いつつ手札を確認する。


 (ハートのQとクローバーのQ。既にワンペアとは幸先が良いね)


 鬼童丸の手札は悪くなかった。


 順番はディーラー役のスッカランから見て時計回りであり、鬼童丸、宵闇ヤミ、スッカランA、スッカランBと続く。


「3万ネクロをベット」


「強気だね。1万ネクロをベット」


 鬼童丸が最初から3万ネクロを賭けたところ、宵闇ヤミは様子見で1万ネクロだけベットした。


 スッカランAとスッカランBはどちらも5万ネクロベットしたことで、観客のスッカラン達がカードに換えられて賭け金として積み上げられていく。


 そのタイミングでコミュニティカード3枚がオープンされる。


 内訳はスペードの5とクローバーの5、ハートの9である。


 (ツーペアは確定。フォーカードかフルハウスが狙えると良いんだが)


 次のターンということで、鬼童丸から自分の意思を宣言していく。


「ベット。3万ネクロ追加」


「ベット。1万ネクロ追加」


 スッカラン達に勝てるように賭け金を上乗せする鬼童丸に対し、宵闇ヤミは慎重に1万ネクロだけ上乗せした。


 驚くべきことに、スッカランAとスッカランBの両方共限度額に達する5万ネクロをベットした。


 気づけば観客のスッカランは1体たりとも残っておらず、全て賭けのテーブルに載せされてしまったらしい。


 コミュニティカードの4枚目が開かれ、スペードのQが出た。


 (フルハウス確定だな。5のペアに不安はあるけど、フォーカードを除いて現状考え得る最強の手札ってところか)


 結局、鬼童丸も宵闇ヤミも10万ネクロまで賭け、最後のコミュニティカードはダイヤの2が出て手札公開の時間が来た。


 鬼童丸の手札はハートのQとクローバーのQ、コミュニティカードのスペードのQ、スペードの5、クローバーの5でフルハウス。


 宵闇ヤミの手札はダイヤの9とのダイヤのQであり、コミュニティカードのスペードのQ、ハートの9、クローバーの5でツーペア。


 スッカランAの手札はクローバーの9とのスペードの3であり、コミュニティカードのハートの9、スペードの5、クローバーの5でツーペア。


 スッカランBの手札はハートの10とのスペードの9であり、コミュニティカードのハートの9、スペードの5、クローバーの5でツーペア。


 鬼童丸が一人勝ちして、宵闇ヤミの賭けていた10万ネクロが鬼童丸の手に渡ると共に、戦っていたスッカランAとスッカランBがカードになり、賭けられていたカードと共に光の粒子になって消えた。

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