第138話 サプラァァァァァイズ!

 3階に移動した鬼童丸が目にしたのは、囚人の死体が放置された刑務所の内装である。


 ただし、檻の中に入れられている囚人は囚人服を着た者ではなく、鬼童丸にとって見覚えのある者もいた。


 (害悪ネクロマンサーのなれの果てか)


 どうして鬼童丸がそのように思ったかだが、それは一番近くの檻の死体が鬼童丸が最初に対峙したクロウのものだったからだ。


 融合フュージョンして戦力を強化しようとした時、檻が一斉に空いて死体が一斉に動き出す。


 死体をチェックするとディペンデンスデビルと表示され、死体に悪魔の幼体が憑依したアンデッドモンスターであることがわかった。


召喚サモン:フリーメズ」


 乱戦モードでの戦闘が始まり、鬼童丸はレンタル従魔達に指示を出してディペンデンスデビルを倒していく。


 少数精鋭のレンタル従魔達のおかげで、ディペンデンスデビル達は問題なく倒せた。


『ダンピールがLv32からLv44まで成長しました』


『ダンピールの【暗黒砲弾ダークネスシェル】が【暗黒砲ダークネスバースト】に上書きされました』


『ヨモツイクサがLv28からLv40まで成長しました』


『ヨモツイクサの【威圧プレッシャー】が【威圧空間プレッシャースペース】に上書きされました』


『グレイヴオーガがLv20からLv26まで成長しました』


『グレイヴオーガの【罪業衝撃カルマインパクト】が【罪業重力カルマグラビティ】に上書きされました』


『フリーメズがLv1からLv18まで成長しました』


『フリーメズの【青霊凍風ブルーウインド】が【青霊氷結ブルーフリーズ】に上書きされました』


 経験値を大量にゲットできたことは良かったのだが、別の点で問題が生じていた。


 倒したディペンデンスデビルが黒い靄に変換され、通路の奥に吸い込まれていったのだ。


『サプラァァァァァイズ! 3階にヘルストーンが検知されました! ヘルストーンの効力が発揮される前に見つけるか、それによって開いた地獄の門から現れる敵を倒して下さい!』


 タワー全体に対するメッセージが聞こえ、その声がパイモンの声だったことに鬼童丸は顔を引き攣らせる。


 (レンタル従魔だけで獄先派のアンデッドモンスターを倒せってか? パイモンさんよ、スパルタ過ぎじゃないか?)


 この状態がデーモンズソフトの予定通りなのか、想定外の状況を予定通りを装っているのかはわからないが、決勝にしても張り切り過ぎだと鬼童丸は言いたくなった。


 事前の説明で予選より決勝の方が高難易度だと聞かされていたが、自分が今まで育てて来た従魔を使えない状況下でヘルストーンの処理までさせるとはなかなかスパルタだから、鬼童丸じゃなくても文句は言いたくなるだろう。


 仮にこれが想定外の状況ならば、レンタルタワー攻略戦の優勝がどうとか言っていられないのではと思い、後ろから来るであろう他の3人を待った方が良いと思った鬼童丸だったが、そうはさせないという意思がタワーのギミックを作動させる。


 3階全体が揺れたかと思ったら、鬼童丸の後方から床が崩れ始めたのだ。


「ダンピール、俺を抱えて飛んでくれ!」


 慌ててダンピール以外を送還し、鬼童丸はダンピールに抱えられて3階の奥に飛んで行く。


 これがただの演出で地面が時間経過と共に修復されるなら良いのだが、ヘルストーンの存在が明らかになった以上、鬼童丸達を驚かせるためだけの演出とは考えにくい。


 崩れる床に追い詰められるようにして通路を抜けた先では、広間のような刑場があった。


 その中心に地獄の門が現れており、そこから細長い脚と7対の発達した棘を持つ不気味なアンデッドモンスターが出て来た。


 (ハルキジャミデス。やれやれ、これでもまだイベント続行だってのか?)


 全体へのアナウンスがない以上、鬼童丸は本来使役している従魔を召喚できない。


 ゲーム内ではドラクールとリビングフォールン、ヨモミチボシとテレパシーによる連絡が取れないから、この状況を自力でどうにかするしかないのだ。


召喚サモン:オール」


 ヨモツイクサ達を召喚し、鬼童丸はハルキジャミデスとの戦闘を始める。


 ハルキジャミデスのAGIが早く、【付与領域エンチャントフィールド】を先に発動される。


 【付与領域エンチャントフィールド】とは属性付与や状態異常のアビリティの効力を増す広範囲を対象とした支援系アビリティであり、この戦闘においては刑場全体が効果範囲のようだ。


「まずはヨモツイクサ、【威圧空間プレッシャースペース】だ」


 【威圧空間プレッシャースペース】は指定した空間に集中してプレッシャーを送り込み、空間内にいる敵を怯ませる効果がある。


 そのおかげでハルキジャミデスが怯み、展開されていた【付与領域エンチャントフィールド】が解除された。


「次はグレイヴオーガだ。【罪業重力カルマグラビティ】でハルキジャミデスを地面にキスさせろ」


 【罪業重力カルマグラビティ】は受けたモンスターが背負う業の分だけ体を動かせないぐらいの重力負荷のかかるアビリティだが、抵抗すればするだけ重力が強まって動きにくくなる。


 その点、ハルキジャミデスはなんとか抜け出そうと必死に藻掻き、藻掻けば藻掻く程自分にかかる重力で地面に押し付けられてダメージを受けていた。


「続いてフリーメズは【青霊氷結ブルーフリーズ】」


 【青霊氷結ブルーフリーズ】は青い霊を操作し、その霊に触れられた箇所から氷結する効果である。


 その氷結の侵食は青い霊が消滅するか、効果時間が終わるまで続く上に継続ダメージも生じ、今は地面に押さえつけられているハルキジャミデスにべったりとくっ付くことで、青い霊がハルキジャミデスの全身を凍えさせながら継続ダメージを与えている。


 【青霊氷結ブルーフリーズ】の効果が切れた瞬間を狙い、鬼童丸はダンピールに指示を出す。


「ダンピール、【暗黒砲ダークネスバースト】で打ち砕け」

 

 【暗黒砲ダークネスバースト】がハルキジャミデスの体を砕き、一見して鬼童丸の狙い通りに事が運んでいるように見えた。


 ところが、砕けたのはハルキジャミデスの殻であり、砕けた殻の中から腕サイズ小さなハルキジャミデスが飛び出した。


 無論、ノーダメージということはなくHPは残り半分を切っているのだが、ハルキジャミデスが反撃を始める。


 ハルキジャミデスが【出血針雨ブリードレイン】を発動し、ハルキジャミデスの棘から針が次々に射出されてそれがダンピール達に命中して出血状態を招く。


 出血状態は時間限定とはいえ継続ダメージを引き起こすから、レンタル従魔全てが出血状態になるのは厄介だ。


 こうなった以上、ハルキジャミデスの討伐を急ぐ必要が出て来た。


 鬼童丸はダンピールに【暗黒砲ダークネスバースト】、ヨモツイクサに【剛力飛斬メガトンスラッシュ】、グレイヴオーガに【剛力打撃メガトンストライク】、フリーメズに【吹雪刺突ブリザードスタブ】を使わせて一気にダメージを稼ぐ。


 幸運なことに、フリーメズの【吹雪刺突ブリザードスタブ】でハルキジャミデスが凍えて動けなくなったため、再び同じ攻撃を仕掛けることで鬼童丸はハルキジャミデスのHPを削り切ることに成功した。


『ダンピールがLv44からLv57まで成長しました』


『ダンピールの【暗黒鉤爪ダークネスクロー】が【深淵鉤爪アビスクロー】に上書きされました』


『ヨモツイクサがLv40からLv55まで成長しました』


『ヨモツイクサの【剛力飛斬メガトンスラッシュ】が【破壊飛斬デストロイスラッシュ】に上書きされました』


『グレイヴオーガがLv26からLv50まで成長しました』


『グレイヴオーガの【剛力打撃メガトンストライク】が【破壊打撃デストロイストライク】に上書きされました』


『フリーメズがLv18からLv48まで成長しました』


『フリーメズの【物理耐性レジストフィジカル】が【全耐性レジストオール】に上書きされました』


『ハルキジャミデスを1枚手に入れました』


 (ふぅ、上手いこといったな)


 鬼童丸が短く息を吐いた時、視界がぐにゃりと変化して先程まで存在しなかった4階に続く階段が現れた。


 (獄先派にしてやられた帳尻合わせと判断しろってことか。了解)


 明らかに不自然な内装変更を目の当たりにして、デーモンズソフトは獄先派にしてやられたのをサプライズとして自分に処理させ、その帳尻を合わせるために3階の階段をこの場に移動させたのだと鬼童丸は確信した。


 後ろの通路は崩れたまま修復されておらず、後ろから来るはずの宵闇ヤミ達を待っていても駆けつけて来ることは難しいだろう。


 仕方がないから、鬼童丸はこのまま全てのレンタル従魔を引き連れて4階に移動した。


 階段を登り切ってここから4階というエリアだが、そこには鬼童丸が自分の目を疑いたくなるものがあった。


 (地獄の門が開いてるんだが。まさかこの先に進めと?)


 3階までがゲームだとして、4階からは別次元の話になって来るとなれば鬼童丸も軽い気持ちで足を踏み出すことはない。


 その時、本来この場に持ち込めないはずだった地獄指針ヘルコンパスが鬼童丸の目の前に出現し、鬼童丸はそれを手に取る。


 地獄指針ヘルコンパスが門の中を指し示すということは、パイモンかオリエンスが自分を導こうとしているのかもしれない。


 腹を括った鬼童丸は、地獄の門を潜って4階に挑む。

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