第132話 それは言わない約束だろ

 夕食や風呂、寝る前の支度を済ませたら、久遠はUDSにログインした。


 今日も午後8時から鬼童丸と宵闇ヤミとのコラボ配信があるのだが、それよりも早くログインして都庁で生産系デイリークエストをこなす。


 そこにタナトスが現れる。


「あっ、丁度良かった。タナトスに質問したいことがあったんだ」


「質問か。何を訊きたい?」


「七つの大罪以外に喋れる従魔を増やす研究をしてるってデビーラから聞いたんだけど、虚飾と憂鬱を司る従魔を喋れたり現実に連れ出せるようにしようと考えてる?」


 鬼童丸は今日の昼休みに聞いた検証班の仮説をぶつけ、タナトスが言葉にして答えてくれなくてもリアクションで何か少しでも情報を貰えないかと思ったのだ。


 それに対するタナトスの反応は落ち着いていた。


「ふむ。そこに辿り着けるのは良いことだ。公にはしていないが、このゲームにおいて2体のアンデッドモンスターに大罪武装に並ぶ武装を実装したとだけ伝えておこう。ついでに言えば、この話は伯爵以上じゃないと上手く聞き取れないはずだから、広めるのは難しいだろう」


「了解。独占しようとは思ってないけど、わざわざ広めようともしてないから大丈夫。それよりも、まだ約束まで少し時間があるから新しい10体目の従魔を融合フュージョンで誕生させようと思う」


「良いんじゃないか。戦力は整えておくべきだ。1つアドバイスをするならば、ドラクールとリビングフォールンがいない時の回復役ヒーラーを増やしてはどうだ? 何かしらの条件でメイン戦力が封じられた時のことを考えれば、回復役ヒーラーは必要だと思うが」


「それは思った。チャレンジクエストでクエイクドラゴンゾンビと戦った時に回復役ヒーラーがいなかった時に不安があったから、今回の融合フュージョンでは回復役ヒーラーを意識してみるよ」


 タナトスにアドバイスされ、鬼童丸はその内容を意識しながら新たな融合アンデッドを誕生させるべく、アンデッドモンスターのカード一覧を見て組み合わせを検討する。


 そして、ジャック・ザ・リーパーとリビングパラディン、メディレイスの3体を素材として融合フュージョンを始めた。


 強力な従魔が誕生する時特有の輝きを放ち、ジャック・ザ・リーパーとリビングパラディン、メディレイスが重なり合う。


 そのシルエットはそれぞれの手に巨大な注射器を持った女医なのだが、医者の癖に不健康そうである。


 鬼童丸は早速新しく誕生した融合アンデッドのステータスを確認する。



-----------------------------------------

種族:メディーパ Lv:1/100

-----------------------------------------

HP:6,000/6,000 MP:6,000/6,000

STR:5,900 VIT:5,900

DEX:6,200 AGI:6,000

INT:6,200 LUK:6,000

-----------------------------------------

アビリティ:【深淵回復アビスヒール】【剛力刺突メガトンスタブ

      【被弾蓄積ダメージストック】【被弾注入ダメージインジェクション

      【倦怠波動アンニュイインパルス】 【魔法吸収マジックドレイン

装備:ダメージシリンジ

備考:なし

-----------------------------------------



 【深淵回復アビスヒール】と【剛力刺突メガトンスタブ】、 【魔法吸収マジックドレイン】については知っているアビリティだから確認しなかったが、【被弾蓄積ダメージストック】と【被弾注入ダメージインジェクション】、【倦怠波動アンニュイインパルス】は新出なので鬼童丸はそれらを詳しくチェックする。


 【被弾蓄積ダメージストック】と【被弾注入ダメージインジェクション】はダメージシリンジやそれに類する武器ありきのアビリティだ。


 【被弾蓄積ダメージストック】はパッシブアビリティであり、味方の受けたダメージをダメージシリンジが満たされるまでカウントする。


 ダメージシリンジが満たされた時、アクティブアビリティの【被弾注入ダメージインジェクション】を発動して任意の味方を選択し、一度攻撃するまでSTRとINTを100上昇させる。


 【倦怠波動アンニュイインパルス】は波動を放つアビリティであり、この波動に触れると鈍足状態かつ触れたアンデッドモンスターの能力値を5%減少させる効果がある。


 (支援のできる回復役ヒーラーになったか。ありがたい)


 デバフに加えてクセはあるがバフが使えることを考えれば、ただの回復役ヒーラーよりも使い勝手が良い。


「面白い融合アンデッドだな。ただ、また女型従魔か…」


「それは言わない約束だろ」


 タナトスに痛い所を指摘されてしまい、鬼童丸は苦笑しながら触れないでくれと伝えた。


 実際のところ、女型かどうかは二の次で役に立つかどうかを最も重視して融合フュージョンに臨んだから、結果的に女型従魔になってしまったことは仕方がないじゃないかと訴えたいのである。


 とりあえず、コラボ配信の時間が近づいて来たのでメディーパについて宵闇ヤミに話すのはまた今度にすると決め、都庁からホーム画面に戻った。


 それからコネクトの通話を始めて簡単な打ち合わせを行い、午後8時を迎えて宵闇ヤミの配信が始まる。


『こんやみ~。今日も裏でレンタルタワー攻略戦の特訓をしてた悪魔系VTuber宵闇ヤミだよ〜。よろしくお願いいたしま~す。そして~?』


「どうも、日中は働いててレンタルタワー攻略戦の練習ができない鬼童丸だ。よろしく」


 鬼童丸の発言を受け、半数以上のヤミんちゅ達から共感を得られ、残りのヤミんちゅ達からは「働きたくないでござる」とか「働いたら負け」なんてコメントが次々に投稿された。


 コメント欄に寄せられるコメントをさらりと見て、宵闇ヤミがどこぞのロボカスのような発言をする。


『みんな趣味を仕事にすれば良いのに』


 この宵闇ヤミの発言に刺されるヤミんちゅが多かったようで、「止めてくれ。その発言は俺に効く」や「ゆ゛る゛さ゛ん゛」というコメントの他に宵闇ヤミに虐められるなんてと愉悦勢が逆襲をされていた。


「ヤミ、趣味と実益を兼ねた仕事で生きていけるのはほんの一握りなんだ。配慮を忘れるのは良くないな」


『…みんなごめんね。ロボカスを意識して言っちゃったけど、みんなの仕事のおかげで社会が成り立ってるのはちゃんとわかってるよ。いつもありがとう』


「素直に謝れて偉いぞ」


『うん』


 このやり取りで鬼童丸の好感度が上昇しただけでなく、普段はヤミ虐を楽しんでいた愉悦勢のヤミんちゅ達も自身の言動を反省した。


 なんとも優しい世界である。


 その後、鬼童丸と宵闇ヤミはミニゲームのレンタルタワーの併走対決を始める。


 レンタルタワーは自身の従魔を1体たりとも連れて行けず、ミニゲーム開始前に選んだ従魔1体を連れてタワーを登っていくタイムアタックのゲームだ。


 使役できる従魔の数は本編と同じなので、借りた従魔で敵アンデッドモンスターを倒して成長させつつ、倒して手に入れたカードで使えそうなアンデッドモンスターを従魔として召喚していく。


 更に言えば、進化や融合フュージョンも可能なのでこれも上手く使いこなすと頂上まで早く到達できる。


 ちなみに、最初のレンタル従魔は3体の内から選ぶのだが、ランダムではなく全員固定でスケルトンとゾンビ、ゴーストのいずれかから選ばなくてはならない。


 鬼童丸と宵闇ヤミがそれぞれミニゲームを始めると画面が変わり、どちらが早く頂上に到着できるか競う。


 2人が最初に選んだレンタル従魔は、鬼童丸がスケルトンで宵闇ヤミがゾンビだった。


『3,2,1, Go!』


 勝負開始の合図が聞こえ、鬼童丸はスケルトンと共にタワーを進んで行く。


 なお、ミニゲームで練習できるコースと本番のコースは違うと発表されており、ミニゲームの練習はあくまで感覚を掴んで当日どのように自身の従魔を揃えていくかイメージするためのものだ。


 鬼童丸と宵闇ヤミは何度か対戦したのだが、結果は鬼童丸の全勝に終わった。


 無論、全て大差をつけて鬼童丸が勝った訳ではなく、終盤まで宵闇ヤミがリードしている時もあったのだが、鬼童丸が機転を利かせて逆転勝利を勝ち取ったのだ。


『ぐすん、悔しい』


「日中仕事してるのに勝っちゃってごめん」


『許せねえ! 許せねえよなぁ!』


 ある意味定番となったこのやり取りを見て、ヤミんちゅ達はコメント欄に草を生やすか「ヤミ虐助かる」と投稿し、中にはスーパーチャットで宵闇ヤミを煽る愉悦勢までいた。


 わちゃわちゃした雰囲気の中、今日のレンタルタワー攻略戦の練習コラボ配信は幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る