第128話 今更注目度が上がったところでって話だ

 寧々が持って来た引っ越しの挨拶の食材も使い、3人で昼食を取った後に買い物や家事を済ませてから久遠はUDSにログインした。


 新しいVRゴーグルを使ったことで、中立派や獄先派が鬼童丸に対して直接干渉されることはなくなり、鬼童丸としてスムーズにログインできた。


 宵闇ヤミとのコラボ配信は夜からだから、今の久遠はフリーで動ける。


 都庁からゲームをスタートしたら、日課の生産系デイリークエストを済ませたタイミングでタナトスに声をかけられる。


「鬼童丸、師匠が悪かったな」


「うん、パイモンは制御不可アンコントローラブルだからしょうがないよ。ゴーグル自体は良い物だし」


「そう言ってもらえて良かったよ。それはさておき、鬼童丸を鍛えるべくクエストを用意したのだがやってみる気はあるか?」


「クエスト? 詳細を教えてくれ」


「良いだろう」



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チャレンジクエスト:獄先派のアジトを制圧せよ

達成条件:茨城県常総市の獄先派のアジトを制圧して獄先派の悪魔を無力化

失敗条件:獄先派の悪魔を市外に逃がす

報酬:専用武装交換チケット1枚

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 常総市はまだムリムラが過去に統治していたエリアであり、今は無法地帯と化しておりNPCの生存者も存在しない。


 獄先派がアジトにするには丁度良い環境と言えよう。


「引き受けた」


「そうか。把握している限りじゃ大物は出て来ないはずだが、気を付けて臨むように」


「了解」


 タナトスと別れた鬼童丸は、茨城県八千代町まで転移魔法陣で移動してから常総市を目指す。


召喚サモン:ドラクール」


 召喚したドラクールに【憤怒竜ラースドラゴン】を使ってもらい、ドラゴン形態になったドラクールの背に乗って鬼童丸は常総市に入った。


 常総市はアンデッドモンスターが跋扈しているのではと思ったが、その予想とは真逆でゴーストシティと化しているのか静かだった。


 (アンデッドモンスターがいない? そんな馬鹿な)


 そう思った瞬間、常総市内に地獄の門が開いてそこから1体のアンデッドモンスターが姿を現した。


 そのアンデッドモンスターの見た目はエルダーリッチだったが、通常のエルダーリッチと違って魔導書を持っている。


 (アンフェアリッチ。何が不公平なんだ?)


 アンフェアという単語から、何かしらアンフェアリッチが不条理な強さを持つのだろうと思ったが、その強さはすぐに明らかになる。


 アンフェアリッチの魔導書が怪しく光り、鬼童丸とドラクールに向かって隕石の雨が降り注ぐ。


 このアビリティは【隕石雨メテオレイン】であり、MPを消費して創造した隕石を雨のように降らせる。


 つまり、魔法系アビリティなのだ。


 というころは、アンフェアリッチは自分以上に理不尽な存在を知ることになる。


 【憤怒竜ラースドラゴン】で魔法系アビリティは吸収され、ドラクールのMPに還元されていく。


 折角初手ぶっぱしたにもかかわらず、自身の攻撃が敵のMPを回復させるための攻撃となってしまい、アンフェアリッチは怒りに震えて【軍団召喚レギオンサモン】を発動する。


 【軍団召喚レギオンサモン】で配下のアンデッドモンスター軍団を召喚し、大技で駄目なら数の暴力で鬼童丸を倒そうという魂胆だ。


 だがちょっと待ってほしい。


 鬼童丸には頼もしい従魔がまだまだ控えているのだ。


召喚サモン:オール」


 乱戦モードでの戦いだから、全ての従魔の経験値稼ぎをさせてもらおうということで鬼童丸は残り9体の従魔も召喚した。


 コマンド入力でお決まりの戦術を始めれば、リビングフォールンが【栄光舞踏グロリアダンス】で味方全体へのバフと敵全体へのデバフをかける。


 続いてアビスライダーの【暴君威圧タイラントプレッシャー】とダイダラボッチの【猿叫モンキークライ】で敵を更に鈍らせる。 


 ヨモミチボシが【気分空間テンションスペース】で敵全体を沈黙状態にして下準備が完了すれば、レギネクスの【爆轟空間デトネスペース】とフロストパンツァーの【呪氷支配アイスイズマイン】による氷属性のレーザー、イミテスターの【不幸爆発バッドエクスプロージョン】、ベガイラズの【地獄火炎ヘルフレイム】がアンフェアリッチの召喚したアンデッドモンスター軍団を一掃してしまう。


 しかし、倒したアンデッドモンスター軍団は黒い靄に変換され、アンフェアリッチに吸い込まれていく。


 身を潜めて奇襲を狙うアンフェアリッチだったが、黒い靄を吸い込むせいで居場所がバレバレだから、ミストルーパーの【追尾魔弾ホーミングバレット】が命中して隙が生じる。


「ドラクール、アンフェアリッチに身の程を知らせてやれ。【拒絶リジェクト】だ」


「かしこまりました」


 圧倒的な能力値の差を見せつけられ、ドラクールの【拒絶リジェクト】でアンフェアリッチは地面にクレーターができる勢いで押し付けられた。


 その際にHPが全損してしまい、アンフェアリッチも力尽きてしまう。


『鬼童丸がLv100に到達しました』


『鬼童丸が日本サーバーで初めてLv100に到達したため、称号<先駆者>を獲得しました』


『ドラクールがLv54からLv58まで成長しました』


『アビスライダーがLv48からLv52まで成長しました』


『リビングフォールンがLv44からLv50まで成長しました』


『レギネクスがLv40からLv48まで成長しました』


『フロストパンツァーがLv40からLv48まで成長しました』


『ヨモミチボシがLv38からLv46まで成長しました』


『ヨモミチボシの【憎魔変換ヘイトイズマジック】と【憎悪付替ヘイトリプレイス】が【憎源変換ヘイトイズエネルギー】に統合されました』


『ヨモミチボシが【憎悪砲弾ヘイトシェル】を会得しました』


『イミテスターがLv34からLv44まで成長しました』


『ミストルーパーがLv34からLv44まで成長しました』


『ダイダラボッチがLv18からLv30まで成長しました』


『ベガイラズがLv18からLv30まで成長しました』


『アンフェアリッチを1枚手に入れました』


 (経験値ウマウマじゃね? もう一度戦いたいんだが)


 アンフェアリッチとその配下を倒しただけで従魔が一気にレベルアップしたものだから、鬼童丸はもう1体現れないかと期待した。


 もっとも、そんなに物事は上手く行かないと思っているから現れればラッキーぐらいにしか思っていないのだが。


 それはそれとして、称号とヨモミチボシの新アビリティについてサラッと確認する。


 <先駆者>はプレイヤーの誰よりも先にLv100に到達した者のみに与えられ、地獄からの注目度が上がる。


 (今更注目度が上がったところでって話だ)


 もう地獄の各派閥の代表から十分に注目されているので、<先駆者>の効果なんてただのおまけである。


 ヨモミチボシの【憎源変換ヘイトイズエネルギー】だが、味方に向けられたヘイトを吸い取ってエネルギーを溜められる効果がある。


 そのアビリティは【憎悪砲弾ヘイトシェル】のためにあるようなもので、自らのヘイトを込めた砲弾を発射するから、【憎源変換ヘイトイズエネルギー】でヘイトを吸い上げれば吸い上げる程【憎悪砲弾ヘイトシェル】の威力が上がる。


 称号とヨモミチボシの新アビリティについて確認した後、ふとアンフェアリッチのカードをチェックして戦闘では使わなかったアビリティにどんなものがあったのか調べようとしたら、鬼童丸は想定外の発見をした。


「嘘だろ? 融合フュージョンできるじゃん。この組み合わせってマジ?」


 鬼童丸が驚いた融合フュージョンの組み合わせとは、レギネクスとフロストパンツァー、アンフェアリッチの3体である。


 レギネクスとフロストパンツァーなんて全然方向性が違うから、この組み合わせは鬼童丸にとって衝撃的だった。


 それでも確実に強くなるとわかったから、鬼童丸は融合フュージョンのボタンをタップする。


 強力な従魔が誕生する時特有の輝きを放ち、レギネクスとフロストパンツァー、アンフェアリッチが重なり合う。


 そのシルエットはレギネクスを彷彿させるローブを着た色白で女型のリッチであり、立派な杖を持つ手は機械になっていた。


 鬼童丸は早速新しく誕生した融合アンデッドのステータスを確認する。



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種族:ビヨンドカオス Lv:1/100

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HP:6,000/6,000 MP:6,000/6,000

STR:5,800 VIT:6,200

DEX:6,000(+400) AGI:6,000

INT:6,200(+400) LUK:6,000

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アビリティ:【緋霊降雨スカーレットレイン】【呪氷支配アイスイズマイン

      【隕石雨メテオレイン】【魔法吸収マジックドレイン

      【乗物変型ヴィークルチェンジ】 【全耐性レジストオール

装備:レギネクスローブ

   ロッドオブレッドソーサラー

備考:なし

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 (顔が女性なのは置いておくとして、良いアビリティ構成なのは間違いない。これは思わぬ成果だな)


 ビヨンドカオスのステータスチェックを終え、鬼童丸は融合フュージョンして良かったと思った。

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