第129話 行儀の良い妹分でホッとしました

 ビヨンドカオスの融合フュージョンが終わった後、鬼童丸はドラクールとミストルーパー以外を送還して空から獄先派のアジト探しを再開する。


 アンフェアリッチとの戦闘が派手に行われたから、その音に反応して外に出て来る者がいてもおかしくないと思ったのだが、【観察眼オブザーブアイ】を使ってもそれらしき敵は見当たらなかった。


 ところが、本来お目当てではないマッシュルームヘアの人物が豊田城の前に仁王立ちしているのを見つけた。


 その頭上にあるアイコンからしてNPCなのは間違いないが、鬼童丸達プレイヤーにとっては邪魔な害悪ネクロマンサーのようである。


 ドラクールに乗って飛んで豊田城に近づけば、豊田城には害悪ネクロマンサーの接近に気づき、何処からともなくわらわらとワイトロイヤルガードの集団が現れて各々の武器を構える。


 そんな事お構いなしという様子で、害悪ネクロマンサーはニヤリと笑う。


「良い城だな! 気に入った! ここを俺様の拠点とする!」


 馬鹿みたいな大声でそんなことを言うものだから、豊田城の中にいた者達にも聞こえたようで、異議を唱えるべく城の外に出て来た。


 (おっ、釣れた。害悪ネクロマンサーで獄先派の悪魔が釣れるなんてラッキー)


 獄先派にとって人間は捨て駒か邪魔者という認識でしかないから、自分達の拠点を自分の物にすると大声で宣言されれば地雷を踏んだようなものだ。


「黙れドカスが。召喚サモン:リベンジリッチ」


「ハッハッハ。俺様の覇道の邪魔をするなら薙ぎ払うのみよ! 召喚サモン:ロトンマッシュアーミー」


 それぞれ復讐に囚われたリッチと腐った茸の群れという見た目で初見だが、チャレンジクエストをクリアする絶好の機会を逃す鬼童丸ではないからすぐに参戦する。


召喚サモン:オール」


 三つ巴の戦いになっても、自分達の勢力が数で勝るならば全ての敵を取り囲んでしまえという考えに基づき、鬼童丸は全ての敵を取り囲む。


「おのれ、親人派のネクロマンサーか!」


「何ィ!? 俺様の拠点を奪う気かァ!?」


「貴様のではない! 獄先派の拠点だ!」


 獄先派の悪魔と害悪ネクロマンサーが言い合っている隙に、鬼童丸はコマンド入力でお決まりの戦法を仕掛けていく。


 リビングフォールンが【栄光舞踏グロリアダンス】で味方全体へのバフと敵全体へのデバフをかけたら、アビスライダーの【暴君威圧タイラントプレッシャー】とダイダラボッチの【猿叫モンキークライ】で敵を更に鈍らせる。 


 これだけでもかなり鬼童丸に有利だが、ヨモミチボシが【気分空間テンションスペース】で敵全体を沈黙状態にして下準備が完了することで、獄先派の悪魔と害悪ネクロマンサーの従魔、ワイトロイヤルガード達はただの的と化した。


 ビヨンドカオスの【緋霊降雨スカーレットレイン】とイミテスターの【不幸爆発バッドエクスプロージョン】、ベガイラズの【地獄火炎ヘルフレイム】がワイトロイヤルガード達を一掃し、リベンジリッチとロトンマッシュアーミーに大ダメージを与える。


 ロトンマッシュアーミーはダメージを受けた後に赤く染まっている。


 リベンジリッチと同じで火傷状態になっているのは間違いないが、体の色が露骨に変わったことから鬼童丸は攻撃方法を工夫する。


「ドラクール、【拒絶リジェクト】でリベンジリッチをロトンマッシュアーミーにぶつけろ」


「かしこまりました」


 圧倒的な能力値の差を利用し、ドラクールはリベンジリッチを弾き飛ばしてロトンマッシュアーミーにぶつけた。


 衝突の瞬間にリベンジリッチとロトンマッシュアーミーの両方が大ダメージを受け、憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールの追加効果まで加わればそのままHPが尽きて倒れた。


 精神的な繋がりのせいで害悪ネクロマンサーは気絶してしまい、鬼童丸は劣勢に立たされて逃げようとする悪魔を逃がすまいとミストルーパーに指示を出す。


「ミストルーパー、【追尾魔弾ホーミングバレット】だ」


 この場から飛んで逃げる獄先派の悪魔だが、ミストルーパーの攻撃が命中して撃墜される。


『鬼童丸が称号<常総市長>を獲得し、常総市が冥開に吸収されました』


『鬼童丸の称号<常総市長>が称号<鏖殺伯爵(冥開)>に吸収され、称号<鏖殺伯爵(冥開)>が称号<鏖殺侯爵(冥開)>に上書きされました』


『ドラクールがLv58からLv62まで成長しました』


『アビスライダーがLv52からLv56まで成長しました』


『リビングフォールンがLv50からLv54まで成長しました』


『ビヨンドカオスがLv1からLv16まで成長しました』


『ヨモミチボシがLv46からLv52まで成長しました』


『イミテスターがLv44からLv50まで成長しました』


『ミストルーパーがLv44からLv50まで成長しました』


『ダイダラボッチがLv30からLv38まで成長しました』


『ベガイラズがLv30からLv38まで成長しました』


『専用武装交換チケットとリベンジリッチ、ロトンマッシュアーミーを1枚ずつ手に入れました』


『常総市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、常総市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (予想通り、<鏖殺侯爵>になったか)


 20ヶ所目のエリアを統治することで、侯爵になれるということはタナトスも認めていたから鬼童丸は当初の目的を達成できてホッとした。


 常総市には生存者がいないと聞いており、豊田城は鬼童丸が倒した悪魔がアジトにしていたとわかっているから、イベントなしでこのままタナトスを待って常総市の拠点として転移魔法陣を設置してもらえば良い。


 そう考えている内にタナトスがファントムホークに乗って現れた。


「害悪ネクロマンサーと獄先派の悪魔をまとめて倒したようだな」


「まあね。先にこいつ等を引き渡した方が良いよな?」


「その通りだ。すぐに引き渡そう」


 鬼童丸の言う通りで、害悪ネクロマンサーと獄先派の悪魔の対処は先に済ませるべきだから、タナトスが地獄の門を開いて親人派の使者にそれらを引き渡す。


 それから、タナトスが転移魔法陣を豊田城に設置してすぐに鬼童丸に訊ねる。


「専用武装交換チケットを交換するか?」


「勿論だ」


 鬼童丸の返事を聞き、タナトスは現在交換可能な専用武装をショップの画面を通じて紹介する。



○専用武装

 ・ビヨンドカオス専用武装:爆魔杖ばくまじょうエクスプロム

 ・ヨモミチボシ専用武装:暴食髪姫装束グラトニーオブヨモミチボシ

 ・イミテスター専用武装:激流砲げきりゅうほうソウソウ

 ・ミストルーパー専用武装:双静銃そうせいじゅうメイスイ

 ・ダイダラボッチ専用武装:鬼哭刀きこくとうチェスト

 ・ベガイラズ専用武装:憑仮面ひょうかめんシュンカン



 (ヨモミチボシが暴食グラトニー? 有り得なくは…、ないのか)


 鬼童丸がそのように考えたのは、ヨモミチボシのルーツである黄泉醜女よもつしこめにまつわる古事記や日本書紀の描写を思い出したからだ。


 古事記と日本書紀で伊耶那岐命いざなぎのみこと黒鬘くろみかずらを投げて生えた物は異なれど、黄泉醜女よもつしこめは生えて来た物を食べてから出ないと動かなかったという記述は共通である。


 そこにデーモンズソフトが暴食要素を見出したというのならば、とりあえず納得できる根拠だと言えよう。


 ちなみに、暴食髪姫装束グラトニーオブヨモミチボシの効果だが、周囲の者の感情を感知するとヨモミチボシのHPが自動で回復するというもので、HPの回復量は感情の強さに比例する。


「タナトス、暴食髪姫装束グラトニーオブヨモミチボシとチケットを交換する」


「そうだろうな。では、受け取れ」


 タナトスも鬼童丸に対してショップ画面を開く時、暴食髪姫装束グラトニーオブヨモミチボシがあるのを見つけてこれを交換するだろうと思っていたから、すぐに交換が行われた。


 専用武装交換チケットと暴食髪姫装束グラトニーオブヨモミチボシが交換されるのと同時に、ヨモミチボシの呪髪艶衣から暴食髪姫装束グラトニーオブヨモミチボシに装備が自動で変更された。


 これで全ての大罪武装が親人派の手に渡った訳だが、鬼童丸は白を基調とした姫装束を装備し、隠れていた片目も見えるようになったヨモミチボシに声をかけてみる。


「ヨモミチボシ、気分はどうだ?」


「大変よろしゅうございます、マスター」


 上品な言葉遣いで応じたヨモミチボシを見て、【憤怒竜ラースドラゴン】を解除したドラクールが満足した表情で頷く。


「行儀の良い妹分でホッとしました」


「ちょっと~、それって私が行儀の悪い子ってこと~?」


「それ以外の何がありますか?」


「酷~い。姉貴分なら妹分に優しくして~」


 (義兄弟ならぬ義姉妹的関係だったのか)


 鬼童丸はドラクールとリビングフォールンの関係性が先輩後輩ではなく、姉妹のような者であると初めて知った。


 ドラクールとリビングフォールンのやり取りを見て安心したのか、ヨモミチボシから空腹を告げる音が鳴った。


「…失礼しました。わたくし、お腹が空いてしまったようです。マスター、何か食べるものをいただけないでしょうか?」


「携帯食料しかないけどそれでも良ければ」


「いただきます」


 この後、鬼童丸達はヨモミチボシが携帯食料を20個食べてようやく落ち着いたのを見て、暴食を司るとアンデッドモンスターもこんなに食べるようになるのかと衝撃を受けた。

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