第118話 ようこそ我がニュートラリティサロンへ。申し遅れましたな。儂の名はアマイモン
翌日の金曜日、久遠が
「久遠さん、今日はデーモンズソフトと初めて顔合わせをしたよ。Web会議だったけど」
「おぉ、どうだった?」
「めっちゃ福利厚生が充実してた。それと、デビーラのアカウントは中の人じゃなくてデビーラのまま会議に参加してて、素顔を見せてくれなかったの。もう、デビーラがデーモンズソフト専属のVTuberで良いんじゃないのって思っちゃったよ」
「喋った感じじゃ恥ずかしがり屋ってこともないだろうから、素顔を見せられなかった理由でもあるんだろうよ。それで、福利厚生が充実してたってのはプラスに捉えてるんだと思うけど、桔梗さんはデーモンズソフトの専属VTuberになるの?」
正直なことを言えば答えは最初からわかっていたけれど、久遠は今後のことを考える上でも桔梗の口から答えを言ってもらおうと訊ねた。
桔梗も答えはちゃんと自分の口から言うつもりだったようで、躊躇うことなく久遠の問いに答える。
「なるって答えたよ。個人勢は気楽だけど後ろ盾があるのとないのじゃえらい違いだからね。今日も案件を貰えて、その最後に宵闇ヤミがデーモンズソフトの企業VTuberになるって発表になったの」
「急な話だな。2日連続での案件配信って準備は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。今日はミニゲーム紹介とミニゲームを縛りプレイする配信だから、ログインして時間まで待機してれば良いんだもん。ちなみに、縛りプレイをすると報酬が追加されるようになってたらしくて、それを紹介したいんだって」
「なるほどね。じゃあ、今日も俺は気の向くままUDSで遊ぶよ」
そのように久遠が言った時、桔梗は立ち上がった。
「私、この家から出て行かないからね!」
「そうか」
「軽いよ! もっと喜んで!」
「いや、別にデーモンズソフトがガチガチに束縛しないなら、桔梗さんが出て行くことはないんだろうなって思ってたし」
桔梗としては久遠のリアクションが物足りなくて抗議したが、久遠からすれば予想通りだったので軽いと言われても仕方あるまい。
そこにドラクールとリビングフォールンが久遠にコメントする。
『マスター、流石にそのリアクションは乙女心に対する配慮がないかと存じます』
『マスター、宵闇ヤミはマスターと結婚するためなら他の雌を容赦なく蹴落とせる目をした重い女だよ? キープ扱いされてると勘違いされたら大変。もうちょっと上手くリアクションして』
(リビングフォールンの考え方が怖いんだが)
ドラクールの発言を受けて自分も反省しないといけないと思う久遠だったが、リビングフォールンの発言に久遠はブルッと震えた。
昨日も桔梗は寧々と戦っており、遠くない将来にその争いが激化しそうだと思ったから、リビングフォールンの言う通りに桔梗がとんでもないことをやらかすのではと不安に思ったのだ。
そんな主従会議を行っている一方で、桔梗は久遠の言葉を聞いてデレッとした表情を浮かべる。
「それって久遠さんは私がいることを当然だと思ってるってこと? エヘヘ、そんなのもう結婚してる夫婦じゃん」
『…訂正します。宵闇ヤミは常識的な乙女とは言えませんでした』
『流石はマスター。宵闇ヤミのツボをちゃんとわかってる~。もしかして、マスターの貞操の危機なんじゃな~い? 部屋の鍵は大丈夫~?』
(止めてくれ。そのフラグは俺に効く)
ドラクールは自分の考え方が桔梗に通じなかったため、自分もまだまだ頭が固いと反省した。
リビングフォールンは久遠を煽るような発言をしつつ、久遠の貞操を心配する様子を見せた。
とりあえず、勘違いしたまま進ませていくと不味い展開になるから、食後のお茶を飲みながら久遠は桔梗に訂正する。
「結婚してないから。シェアハウスだから」
「え~? もう私に身も心も委ねてよ~? 私、尽くす女だよ? 久遠さん以外の男なんて路傍の石としか思ってないぐらい久遠さんのことしか見てないよ?」
(父親が路傍の石扱いされてて泣けるんだが)
この話は続ければ続ける程不味い展開に進んで行くから、どうにか切り上げて久遠は風呂に入ってUDSをプレイする前の身支度を済ませていく。
準備が整って鬼童丸としてUDSにログインしたのだが、本編に入ると都庁に移動するはずだったのに見知らぬ列車の中に飛ばされた。
内装は宇宙のようになっており、正面にはうさん臭くて黄色いスキンヘッドの悪魔占い師がカードの山が乗ったテーブルの奥に座っていた。
「ようこそ我がニュートラリティサロンへ。申し遅れましたな。儂の名はアマイモン」
「その名乗りやっちゃって大丈夫か?」
「面白ければそれで良いではないか。ここでは儂がルールなのだから」
『マスター、気を付けて下さい。奴はオリエンス並みに危険です』
(そうだろうな。だって、中立派のもう1体の代表なんだから)
どっちつかずの中立派はオリエンスとアマイモンが代表であり、目の前にいるアマイモンは自分が面白いと思うボケのためならギリギリのラインを責めるのも厭わないようだ。
オリエンスはツンデレで興味のある相手でとことん遊ぶ傾向にあるが、ギリギリのネタを使わないという点では評価できるのかもしれない。
ドラクールの注意に心の中で頷き、鬼童丸はアマイモンを警戒する。
「そんなに警戒するとは心配性のようだね。儂はただ地獄でバズってるお主のことが気になったから、カードゲームをしに来ただけだ」
「カードゲーム?」
「そんなに胡散臭く見えるかね?」
「悪魔ってのは人間を揶揄って楽しむからな。カードゲームと言いつつ命を懸けたデスゲームとか平然と仕掛けて来るんじゃないかって警戒するのは何もおかしくない。そもそも、ただカードゲームをするだけなら拉致するような真似をしなくて良いだろ?」
鬼童丸に疑問をぶつけられてアマイモンはとても悪そうな笑みを浮かべる。
「Good」
そう言いながら指パッチンした瞬間、鬼童丸の正面に椅子が現れてそこに座れとアマイモンは視線で促す。
(こいつも話を聞かねえタイプか。各派の代表ってのはどいつもこいつも…)
自分勝手に話を進めようとするアマイモンに対し、鬼童丸はふとあることを思いついて試してみる。
その思い付きとは、懐から
「オリエンス、アマイモンからちょっかいをかけられてるんだが」
次の瞬間、
「アマイモン、妾の玩具に手を出すとはどういうこと?」
「早い到着だなオリエンス。折角66個の罠を仕掛けて待っていたというのに、全て力業で炭化させるだなんて実に野蛮じゃないか」
「妾の質問に答えろって言ってんのよクソ爺!」
「フォッフォッフォ!」
(中立派同士でも仲が良いとは限らない。どうやら俺の予想が当たったらしい)
まだルールを聞いていないけれど、おそらく持ち掛けられるカードゲームはとんでもない罠が仕掛けられているに違いない。
そうやすやすとアマイモンの思う通りに動いては堪らないので、鬼童丸はオリエンスを呼び出してぶつける作戦に出たがそれは場の流れを変えるのに十分だった。
オリエンスとアマイモンが向かい合っている間に、鬼童丸は自分の守りを固める。
「
この空間で大罪武装を持たない従魔を召喚するのは危険な予感がして、鬼童丸は召喚するのをドラクールとリビングフォールンだけに留めた。
その選択は正しかったようで、アマイモンが感心した様子を見せる。
「ほう、ここで冷静な判断ができるとは大したものだ。少しでも多くの戦力が欲しいと欲張り、使役する全てのアンデッドモンスターを召喚すれば、全て奈落送りにする罠を用意していたのだが」
「妾が認めた玩具なのよ? クソ爺の仕掛けたバレバレな罠に引っかかるはずないじゃないの」
「言ってくれるではないか。老体を虐めるでないと日頃から言っておろうに」
「知ったこっちゃないわ。とにかく、妾の玩具をちょっとのミスで悲惨な目に遭うクソゲーに誘うんじゃないわよ。やるなら妾が納得できる楽しいゲームにして」
(おっと、その風向きは俺の望むものじゃないんだが…)
オリエンスの発言にそれもそうだとアマイモンが頷き、テーブルの上にあったカードの山が別のものに変わる。
これには鬼童丸もやってしまったと苦笑するしかなかった。
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