第119話 我のいないところで面白い遊びをしてるじゃないか
テーブルの上に現れたものに鬼童丸は見覚えがあった。
それはアンデッドポーカーで使われるトランプだったからだ。
「フォッフォッフォ。では、ディーラーをオリエンスに任せてアンデッドポーカーをするのはどうだね?」
「アンデッドポーカーなら妾も異論はないわ」
「いや、俺はやる気ないんだけど」
「勝負しないとここから出さぬぞ?」
(是が非でも勝負するつもりかよ)
ニュートラリティサロンから帰りたいなら勝負しろと言って来るアマイモンに対し、鬼童丸は心の中で悪態をつきながら椅子に座った。
オリエンスもアンデッドポーカーなら異論はないと答えた以上、都庁に帰してくれるとは思えないから戦うしかないのだ。
「何を賭けさせるつもりだ?」
「Good. アンデッドモンスターのカードを賭けてもらおう」
「従魔のカードを賭けろって言うんなら、この勝負はなしだ。お遊びで賭けられる物じゃないんでね」
「構わぬよ。鬼童丸が賭けるのは使役していないが保持しているカード。それを奪えるだけで我としてはお主の未来を奪えるから十分だ」
(嫌な言い方だな。でも、間違ってはいない)
まだ使っていないアンデッドモンスターのカードだが、
だからこそ、鬼童丸は
「逆にアマイモンは何を賭けてくれるんだ?」
「お主の持っていないアンデッドモンスターのカードを賭けてやろう」
「なるほど。イカサマがバレた場合はどうする?」
「フォッフォッフォ。儂に堂々とそんなことを聞いて来るとは面白いな。バレたらペナルティとして、場のカードを全て没収して相手に渡すだけでなく、イカサマを見破った者に相手の持っているカードを1枚選択する権利が与えられるとしよう」
(好条件に聞こえるけど、それだけアマイモンはイカサマを見破られないという自信があるってことだ。油断ならねえな)
鬼童丸はアマイモンの言い分に喜んだりせず、冷静にアマイモンの自信を察した。
チラッとオリエンスの方を見ると、オリエンスは鬼童丸の視線に気づいて口を開く。
「妾は勝負に対して公平よ。イカサマをばらすような真似はしないから、お互いに騙し合いをすれば良いわ。でも、妾の玩具はネクロマンサーなのだから、アマイモンは妾の玩具がアンデッドモンスターの力を借りるのを認めなさい」
「構わぬとも。脆弱な人間には限界がある。その2体の力を借りてもお咎めなしとしよう」
(オリエンスがハンデをくれたか。ってことは、それだけアマイモンと俺には実力の差があるってことだ)
そのように考えていると、鬼童丸にドラクールとリビングフォールンの声が届く。
『マスター、何かご指示があれば念じて下さい』
『私にも何かあったら念じてね。ばっちり応えるから』
(助かる。ん? 待てよ? さっきもそうだったけど念じるだけで会話ができるってことは、ニュートラリティサロンはゲームの中ではないってこと?)
ドラクールとリビングフォールンの声が直接頭に響く現象は、ゲームでは起こり得ないことぐらい検証している。
それゆえ、ニュートラリティサロンに拉致されたばかりのタイミングでは気づけなかったが、ここは地獄の中にあるアマイモンの拠点であり、ゲームにも干渉できる実在する場所ということになる。
(俺の部屋にある体がここに転移させられたってこと? いや、今は難しいことを考えてる場合じゃない。アンデッドポーカーに集中しよう)
「それじゃ、始めるわね」
ニュートラリティサロンにおいても、アンデッドポーカーのルールはテキサスホールデムが採用されているらしい。
手札は2枚で最初のコミュニティカードは3枚あり、ベットかフォールドをしながらコミュニティカードが5枚まで増えていき、最終的に2枚の手札と5枚のコミュニティカードの中から5枚を選んで役を作るのはUDSと変わらないようだ。
まずは
(クローバーの4とダイヤのA。ブタだな)
鬼童丸の手札は良いとは言えないものだった。
ディーラーであるオリエンスから見て時計回りの順番でゲームが進むから、アマイモンが先に宣言する。
「ジェリーレイスをベット」
(ドラクール、【
『お任せ下さい。訓練の成果をお見せします』
ドラクールはリアルに来てからというもの、【
初戦ということでアマイモンもイカサマも手を抜いているだろうから、鬼童丸はイカサマを見破るならここだと思ってドラクールに指示を出した。
その結果、アマイモンが持っている2枚のカードは変色した。
「それはイカサマと断定しても構わないよな?」
「フォッフォッフォ。流石にお主を舐め過ぎていたようだ。勿論だとも。何が欲しい?」
リビングパラディンとジェリーレイスが鬼童丸に譲渡され、その上で鬼童丸はアマイモンからアンデッドモンスターのカードを1枚貰う権利を得た。
鬼童丸はアマイモンが宙に浮かべた無数のカードを順番に見て、これだと思う1枚を指差す。
「メディレイスを貰おう」
「良いだろう。さあ、受け取るが良い」
メディレイスは
鬼童丸の選択により、メディレイスが鬼童丸の手に渡る。
それと同時にゲームがリセットされて手札が回収され、オリエンスがシャッフルしたら再び2枚のカードが配られる。
(ハートのQとスペードのQ。ワンペアじゃん)
「グラッジブリルをベット」
「ジェリーレイスをベット」
コミュニティカード3枚がオープンされ、鬼童丸がカードを確認した時にニュートラリティサロンが一瞬だけ真っ暗になった。
しかし、すぐに元通りになったので鬼童丸は3枚のコミュニティカードがダイヤの10とスペードの7、クローバーのJであることを確認した。
「ちょっと待ったぁ!」
「リビングフォールン?」
「お爺さん、イカサマしたね。一瞬暗くなる間はクローバーのQだったのに、今はクローバーのJに変わってるよ。私じゃなきゃ見逃しちゃってたね」
決め顔で言うリビングフォールンに対し、アマイモンは一瞬だけ目元をピクッとさせたがすぐに笑い出す。
「フォッフォッフォ。驚いたよ。緩そうな見た目の割に鋭いじゃないか。見破られたなら仕方あるまい。鬼童丸、好きなカードを選ぶと良い」
「リビングフォールン、よくやった」
「ドヤァ」
ドラクールだけではなく、自分だって頼りになるんだとアピールできたことにより、リビングフォールンは渾身のドヤ顔を披露してみせた。
それから、鬼童丸はアマイモンが宙に浮かべた無数のカードを順番に確認し、欲しいと思った1枚を指差す。
「デスレシアを貰おう」
その選択によって、鬼童丸の手にデスレシアが渡った。
3戦目が始まろうとしたその時、音もなく鬼童丸の背後から両肩に手が置かれる。
「我のいないところで面白い遊びをしてるじゃないか」
「うわっ、パイモン」
「もうバレたか。残念だ」
現れたのはパイモンだった。
見上げたその顔は笑顔に見えるけれど、発せられた声には怒りの感情が込められているのがよくわかった。
「鬼童丸の成長のためにしばらく黙って見てたけど、アマイモン、次に仕掛けようとしたイカサマはちょっとやり過ぎだと思わないか?」
「フォッフォッフォ。儂もまだまだギャンブラーなのでな。儂の生み出したアンデッドガチャでヒット率が高く、それでいて二度もイカサマを見破った鬼童丸にギャフンと言わせたかったのよ」
「それをやったら戦争だ。この場を親人派の軍勢に囲まれてハチの巣にされたくなかったら、今日のところはお開きにするんだね」
「…仕方あるまい」
(アンデッドガチャの開発者はお前かアマイモン。というか、ガチャの結果が良いのはまぐれなんだが)
そう思っている間にアマイモンが姿を消し、オリエンスは鬼童丸に声をかける。
「妾の玩具、まあまあ楽しめたわ。次も妾を楽しませなさい」
それだけ言ってオリエンスも姿を消した。
「やれやれ。君は本当に厄介な連中に好かれてるね。今は我にじっくり話す時間がないから、鬼童丸達を都庁に戻すよ。じゃあね」
パイモンが指パッチンをした瞬間、鬼童丸とドラクール、リビングフォールンはUDSの都庁に戻って来た。
アマイモンとのアンデッドポーカーで疲れてしまったため、鬼童丸は生産系デイリークエストだけささっと済ませてログアウトしてそのまま眠った。
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