第117話 弟子が師匠に似るんじゃなくて、師匠が弟子に似るのかよ

 ヘルストーンによって現れたらしいモンスターの外見は、デスサイズを装備したカボチャ頭の死神といった様子だ。


 (ジャック・ザ・リーパーか。ジャック・オ・ランタンとジャック・ザ・リッパーを掛け合わせたって感じだな)


 表示されるアンデッドモンスターの名前を見て、鬼童丸はそのように判断した。


 ジャック・ザ・リーパーは雑魚モブアンデッドモンスターを見つけてはその首を刈り取ることを繰り返し、経験値を獲得して強くなっている。


 統率できない雑魚モブがいくらいても使えないので、それなら自分の経験値にしてしまえという考え方なのだろう。


 実際、雑魚モブアンデッドモンスターを統率できるアビリティがないならば、そう考えるのは妥当である。


 どんどん動きのキレが良くなっていくから、追いつくまでにジャック・ザ・リーパーは目につく雑魚モブアンデッドモンスターを狩り尽くしてしまった。


 最後の1体を倒した隙を狙い、鬼童丸はドラクールに指示を出す。


「ドラクール、【混沌吐息カオスブレス】でジャック・ザ・リーパーに攻撃してくれ」


『お任せ下さい』


 ドラクールはドラゴン形態でしか使えない【混沌吐息カオスブレス】を放つ。


 深淵属性の他にランダムで決まるもう1つの属性は雷であり、AGIの差でドラクールの【混沌吐息カオスブレス】を避け切れず掠ったジャック・ザ・リーパーは麻痺状態に陥った。


 その隙に宵闇ヤミ達も自身の従魔を召喚する。


召喚サモン:ヴィラ」


召喚サモン:ネクロノミコン」


召喚サモン:ファンタズマ」


 各々1体ずつ従魔を使役し、ジャック・ザ・リーパーと戦う。


 袋叩きにしてしまうのも手だが、獲得経験値が分散されてしまうので1人1体のみ召喚して戦わせる訳だ。


「ファンタズマ、【加算攻茨アッドソーン】だ」


「ヴィラ、【破壊飛斬デストロイスラッシュ】よ」


「ネクロノミコン、【爆轟空間デトネスペース】」


 ファンタズマの【加算攻茨アッドソーン】は特殊なアビリティであり、任意の対象の足元から5本の茨が生えてその対象に絡みつき、攻撃が絡みついた対象に命中する毎に茨が1本消え、それと同時に500の固定ダメージが加わる。


 それゆえ、ヴィラの攻撃とネクロノミコンの攻撃で2体の与えたダメージに加え、1,000のダメージがジャック・ザ・リーパーに与えられた。


 着陸したドラクールは【憤怒竜ラースドラゴン】を解除したため、鬼童丸は更に次の攻撃を支持する。


「ドラクール、カボチャ頭に【極限打撃マキシマムストライク】だ」


「承知しました」


 鬼童丸の指示を受け、ドラクールはジャック・ザ・リーパーの頭部目掛けて憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールをフルスイングする。


 それがクリーンヒットしたことにより、ジャック・ザ・リーパーのHPが半分まで減少し、追加で500ダメージが与えらえる。


 更にカボチャ頭が割れてダウン状態になり、鬼童丸達は当然だが追撃ボタンを押してジャック・ザ・リーパーに追い打ちをかけた。


 追撃と【加算攻茨アッドソーン】の1,000ダメージが加わり、ジャック・ザ・リーパーのHPが残り3割まで削られる。


 ところが、ダウン状態から立ち直ったジャック・ザ・リーパーに変化が生じる。


 カボチャ頭は被り物だったようで、額に見敵必殺と書かれた札が張られており、札の両端から覗く目は血走っていた。


 【狂暴化バーサクアウト】を発動してジャック・ザ・リーパーが攻めに転ずるが、ジャック・ザ・リーパーのヘイトを一番稼いだのはドラクールであり、ドラクールに向けて【破壊飛斬デストロイスラッシュ】を放つ。


「ドラクール、【拒絶リジェクト】だ」


「かしこまりました」


 ドラクールが【拒絶リジェクト】を使えば、ジャック・ザ・リーパーの放った斬撃が押し戻されて自分に命中してしまう。


 【狂暴化バーサクアウト】でVITが落ちていることもあり、その攻撃は通常時よりもジャック・ザ・リーパーにダメージを与えた。


「ヴィラ、【麻痺眼パラライズアイ】を使って」


「ネクロノミコン、【氷結砲フリーズバースト】」


「ファンタズマ、【遅延操剣スローソード】だ!」


 ヴィラがジャック・ザ・リーパーを麻痺状態にして動きを止め、ネクロノミコンの【氷結砲フリーズバースト】と【遅延操剣スローソード】を受ければこれで戦闘は終わると鬼童丸達は思っていた。


 ところが、ジャック・ザ・リーパーは【執念オブセッション】の効果により、残りHPが1で踏み止まる。


 そこから【復讐衝撃リベンジインパクト】を発動し、ドラクール達に自身が受けたダメージを返す。


 それでも、【憤怒竜ラースドラゴン】のおかげで魔法系アビリティによるダメージはないから、鬼童丸はとどめを刺すよう指示を出す。


「ドラクール、【拒絶リジェクト】でとどめだ」


「仰せのままに」


 ドラクールがジャック・ザ・リーパーを吹き飛ばしたことで、HPの尽きたジャック・ザ・リーパーの肉体は消えてカードになった。


『鬼童丸がLv97に到達しました』


『宵闇ヤミの称号<下妻の主>が鬼童丸に譲渡され、鬼童丸のの称号<下妻の主>が称号<下妻市長>に上書きされました』


『鬼童丸の称号<下妻市長>が称号<鏖殺伯爵(冥開)>に吸収され、下妻市が飛び地として冥開に属します』


『ドラクールがLv50からLv52まで成長しました』


『ジャック・ザ・リーパーを1枚手に入れました』


『下妻市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、下妻市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 システムメッセージの確認を終えたところで、タナトスをはじめとした師匠陣がその場にやって来た。


 タナトスとヘカテーはタナトスのファントムホークに乗って現れ、ヴァルキリーとリバースの師匠はそれぞれ別の従魔に乗って現れた。


 ヴァルキリーの師匠はヘルキャリッジに乗って現れ、リバースの師匠はデメムリオンに乗って現れた。


 ヘルキャリッジはカシャが進化したアンデッドモンスターであり、日本史に出て来る牛車から西洋の豪華な馬車に変わっており、車輪が炎になっている。


 デメムリオンはデメムーストが進化したアンデッドモンスターであり、骨の周りに霊気を纏った出目金と呼ぶべき見た目だ。


 はじめましての相手もいたため、師匠陣と弟子陣はそれぞれ自己紹介することになり、まずは鬼童丸達から始める。


「タナトスの弟子の鬼童丸だ。よろしく」


「ヘカテーの弟子の宵闇ヤミだよ」


「セケルの弟子のヴァルキリーよ」


「モトの弟子のリバースだ」


 鬼童丸と宵闇ヤミはセケルとモトと初対面であり、ヴァルキリーとリバースはタナトスとヘカテーと初対面だった。


 弟子4人が自己紹介をしたら、師匠陣も順番に自己紹介を行う。


「鬼童丸の師匠のタナトスだ」


「宵闇ヤミの師匠、ヘカテー」


「ヴァルキリーの師匠のセケルだよ」


「リバースの師匠のモトと言う」


 セケルもモトも今の自分より強いと見ただけでわかるが、4人の師匠達を比べると贔屓目なしにタナトスが一番強いと感じた。


 そう感じた理由だが、タナトスが大罪武装を装備したベルヴァンプを使役しているのに対し、他の師匠陣が大罪武装を装備した従魔を使役していると聞いたことがなかったからだ。


 少なくとも、ヘカテーが大罪武装を装備した従魔を使役しているという情報は宵闇ヤミから聞いたことがない。


 鬼童丸の思考を読んだのかヘカテーが口を開く。


「鬼童丸、大罪武装を装備した従魔は4人の中でタナトスだけしか使役してない。でも、簡単には負けない」


「その通り。大罪武装がないからと言って弱いと思われたら困るね」


「まあ、タナトスが一番強いのは否定しないがね」


「ベルヴァンプは基本寝てるから、普段は他の従魔が多く活躍してる。そう考えると実力はほぼ横並びだろう」


 タナトスはモトに一番強いと言われたから、ベルヴァンプがいれば確かに自分が一番強いもののそうじゃなければ実力は拮抗すると告げた。


 それをふまえてセケルは鬼童丸達に訊ねる。


「師匠4人じゃタナトスが一番強いけど、弟子を比較してもタナトスの弟子が一番?」


「セケル、私の彼氏だよ? 私より弱いはずないじゃん」


「何言ってんの? 鬼童丸はヤミのパートナーだからね?」


「モト、ポップコーンとコーラを持ってないか?」


「持ってない。なかなか面白いことになってるな」


 (弟子が師匠に似るんじゃなくて、師匠が弟子に似るのかよ)


 この後、タナトスの力を借りて鬼童丸は宵闇ヤミとヴァルキリーの言い争いを止めた。


 それから、下妻市は生存者が誰もおらず拠点になる場所もないことがタナトスに告げられ、とりあえず下妻市が冥開に併合されたものの転移魔法陣は設置できず、今日のプレイはここまでにして鬼童丸達はログアウトした。

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