第112話 興味が湧いたからって玩具扱いしないでほしいんだが

 アビリティが封じられたら、ブレイゴズは通常攻撃しかできないから装備している戦斧バトルアックスでアビスライダーを攻撃する。


 【磁霊化マグネストアウト】のおかげで本来ならば通常攻撃は透過するのだが、ブレイゴズの戦斧バトルアックスはブレイゴズ同様に炎を纏っており、その攻撃は炎属性になるからアビスライダーが霊体になろうとダメージが入ってしまう。


 だからこそ、アビスライダーの【磁霊化マグネストアウト】はブレイゴズを相手に優位に働かない。


「ドラクール、【極限打撃マキシマムストライク】で敵の武器を破壊しろ」


「かしこまりました」


 アビスライダーを目掛けて振り落とされたブレイゴズの戦斧バトルアックスに対し、ドラクールの【極限打撃マキシマムストライク】が決まって武器破壊に成功する。


 その瞬間、得物を失ったブレイゴズが二足歩行から四足歩行に代わり、ドラクールに【破壊突撃デストロイブリッツ】を発動する。


「アビスライダー、【雷撃刺突ボルテクススタブ】でスイッチ! リビングフォールンは【深淵応援アビスエール】を間に合わせろ!」


「はいは~い」


 攻撃直後の隙を突いてドラクールを攻撃するブレイゴズを狙い、アビスライダーの攻撃がブレイゴズに命中する。


 深淵と雷を纏った怨殺槍アイサツが眉間に命中したことで、ブレイゴズが後ろにひっくり返ってダウン状態に陥る。


 表示された追撃ボタンを鬼童丸が押せば、ドラクール達がブレイゴズを袋叩きにしてHPを半分以下まで削り取る。


 その時には時間経過によって沈黙状態が解除され、四足歩行のままブレイゴズが【闘牛気砲ブルキャノン】を放つ。


「ドラクール、【深淵支配アビスイズマイン】の砲撃を見せてやれ」


「承知しました」


 オーラを放つ【闘牛気砲ブルキャノン】と力比べをするべく、ドラクールが【深淵支配アビスイズマイン】で深淵のレーザービームをぶつける。


 リビングフォールンの【深淵応援アビスエール】の応援もあり、ドラクールの攻撃がブレイゴズの攻撃を打ち破ってダメージを与えた。


「アビスライダー、もう一度【雷撃刺突ボルテクススタブ】でスイッチ!」


 攻撃した直後の隙は突かせてはいけないから、鬼童丸はドラクールの攻撃が終わった直後にアビスライダーの攻撃をブレイゴズに命中させる。


 ブレイゴズのHPが残り1割近くまで削れていたけれど、沈黙状態が解除されたことで【自動再生オートリジェネ】が効果を発揮している。


「リビングフォールン、【心酔舞踏カリスマダンス】だ」


「OK」


 リビングフォールンの【心酔舞踏カリスマダンス】により、ブレイゴズは魅了と鈍足の2つの状態異常にかかり、動きがかなり鈍くなった。


 既に【復讐魔砲リベンジバースト】の発射準備を進めていたが、魅了状態になったせいで攻撃ができなくなってブレイゴズの動きが止まる。


「ドラクール、【拒絶リジェクト】でとどめだ」


「仰せのままに」


 動きの鈍ったブレイゴズに接近し、ドラクールが【拒絶リジェクト】を放てばブレイゴズは力尽きてカードとなった。


『鬼童丸がLv94に到達しました』


『鬼童丸の称号<八千代の主>が称号<八千代町長>に上書きされました』


『鬼童丸の称号<八千代町長>が称号<鏖殺伯爵(冥開)>に吸収され、八千代町が飛び地として冥開に属します』


『鬼童丸が称号<オリエンスの玩具>を獲得しました』


『ドラクールがLv44からLv50まで成長しました』


『ドラクールの【魔竜化マギドラゴンアウト】と【自動再生オートリジェネ】、【物理半減ディヴァイドフィジカル】が【憤怒竜ラースドラゴン】に統合されました』


『ドラクールが【混沌吐息カオスブレス】を会得しました』


『ドラクールが【強制行動フォースアクション】を会得しました』


『アビスライダーがLv42からLv48まで成長しました』


『アビスライダーの【絶望放気ディスペアオーラ】と【狂暴化バーサクアウト】が【暴君威圧タイラントプレッシャー】に統合されました』


『アビスライダーが【反射盾リフレクトシールド】を会得しました』


『リビングフォールンがLv32からLv42まで成長しました』


『リビングフォールンの【深淵応援アビスエール】と【脈動応援ビートエール】が【輝星贈物ファンサービス】に統合されました』


『リビングフォールンが【忘却オブリビエイト】を会得しました』


『オリエンスの蝋燭とブレイゴズを1枚手に入れました』


 (わかってたけどメッセージが多い!)


 イレギュラーな緊急クエストが発生したから、それをクリアしたことで通知されるシステムメッセージの量が多くなるのはわかっていた。


 そうだとしても、これだけの量となれば鬼童丸だって多過ぎると言いたくなるのも当然だ。


 オリエンス関連のものは後回しにするとして、鬼童丸はブレイゴズ戦に参加した従魔達の強化について確認する。


 まずはドラクールだが、【魔竜化マギドラゴンアウト】と【自動再生オートリジェネ】、【物理半減ディヴァイドフィジカル】が【憤怒竜ラースドラゴン】に統合された。


 その結果、【憤怒竜ラースドラゴン】はお得パックのようなアビリティになってしまった。


 魔法系アビリティを除く攻撃による被害を半減し、受けた魔法系アビリティはMPの回復に充てられる上、HPが減ればMPをHPに変換して回復できる。


 アビリティ名に憤怒ラースとあるように、ドラクールが怒りを抱くと能力値が高まる効果があり、それは悪魔の姿でもドラゴンの姿に変身しても同様だ。


 アビリティの統合によってドラクールが新たに会得したアビリティは2つあり、【混沌吐息カオスブレス】と【強制行動フォースアクション】だ。


 【混沌吐息カオスブレス】はドラゴンの姿でしか使用できないアビリティだが、深淵+他の属性がランダムで付与されたブレスで敵を攻撃する。


 【強制行動フォースアクション】はどちらの姿でも使用可能で、自身よりも能力値合計が低い者であればある程、ドラクールの命令された行動をしてしまう特殊なアビリティだ。


 次にアビスライダーについてチェックするが、【絶望放気ディスペアオーラ】と【狂暴化バーサクアウト】が【暴君威圧タイラントプレッシャー】に統合された。


 【暴君威圧タイラントプレッシャー】に統合されたことで、敵を恐慌状態にして能力値を10%低下させるだけでなく、自身のSTRとINTを10%上昇させる代わりにVITとDEXが10%低下する。


 ガンガン攻撃する時には持って来いなアビリティだが、防戦が予想されるタイミングでは扱いに注意が必要と言えよう。


 空いたアビリティ枠に追加されたのは【反射盾リフレクトシールド】だ。


 任意の座標に盾を創造し、その盾に当たった攻撃をした者のSTRとINTの合計値が使用者のVITとINTの合計値を下回る場合、その攻撃が攻撃した者に跳ね返る。


 続いてリビングフォールンだが、【深淵応援アビスエール】と【脈動応援ビートエール】が【輝星贈物ファンサービス】に統合された。


 使用者のファンサービスアクションがトリガーになり、味方全員に統合元になった属性の付与と能力値10%上昇、HPの継続回復効果がある。


 深淵属性を使っているリビングフォールンが【輝星贈物ファンサービス】を発動した場合、味方全員に深淵属性を付与した上で能力値10%上昇とHPの継続回復効果が生じる。


 【忘却オブリビエイト】は通常戦闘時に1ターン何もできずスキップされ、乱戦モードでは相手が1分間無気力で待機するだけになる。


 ここまではスラスラと確認できたが、問題は新たな称号と緊急クエストの報酬らしいアイテムだ。


 それらを確認しようとした時、オリエンスがスッと鬼童丸と距離を詰めて顎をクイッと持ち上げていた。


「マスターから離れなさい!」


「騒ぐんじゃないわ。さもないと、お前のマスターを炭化させるわよ?」


 音もなく一瞬で距離を詰められてしまったため、強くなったとはいえ今のドラクールではまだオリエンスには勝てないだろう。


 鬼童丸はドラクールを手で制してオリエンスに訊ねる。


「地獄の悪魔ってのは顎クイが好きなのか? パイモンにも同じことをされたんだが」


「…妾が二番煎じなのは不愉快ね。止めてあげるわ」


 純粋な疑問をぶつけてみたところ、オリエンスは鬼童丸の顎から手を離して少しだけ下がった。


 その隙にドラクールが鬼童丸の前に移動し、何かあっても鬼童丸は守ってみせると態度で示す。


「フン、良い主従関係ね。ネクロマンサーとはいえ、従者にそこまで体を張ってもらえるなんて滅多にないことよ。益々興味がお前に湧いて来たわ」


「興味が湧いたからって玩具扱いしないでほしいんだが」


「むしろ感謝してほしいわね。妾の玩具ってことは、生半可な存在じゃお前に手を出そうとはしない。手を出すとしても、それぞれの派閥の代表ぐらいじゃないかしら。まあ、妾から玩具を奪えば戦争待ったなしだから、ちょっとやそっとのことじゃ狙われないと思うけれど」


「そりゃどーも」


 狙われるリスクが減ったのならば、称号名が<オリエンスの玩具>であっても鬼童丸は礼を言っておく。


 中立派ゆえに全幅の信頼は置けないが、それでもないよりはマシなのは間違いないからである。


「それとお前が今持ってる蝋燭だけど、誰にも譲渡できない妾への連絡手段だから。妾が用事のある時はその蝋燭を通して話しかけるわ。これからもお前は玩具らしく妾を楽しませなさい」


 伝えるべきことは伝えたということなのか、オリエンスは地獄の門を開いてその中に消えていった。


 (面倒なマーキングをされたってことですね、わかります)


 オリエンスが消えてぐったりした表情の鬼童丸は、やれやれと大きく溜息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る