第12章 Neutrality
第111話 様を付けなさい、玩具風情が!
翌日の木曜日、UDSの本編で遊べるようになったから、久遠は仕事から帰って来てやるべきことを済ませたらログインする。
拠点である都庁の外に出たら、そこは人通りが少ないものの見慣れた新宿の街並みに戻っていた。
「生産系デイリークエストだけでここまで復興するとは…」
「鬼童丸、驚いたか」
声がした方向に振り返ったらタナトスがいた。
相変わらず音もせず現れたから、タナトスの隠密性は半端じゃない。
新宿の街並みの復興度合いに驚いたのは事実だが、タナトスと話すなら別にこの話題よりも優先すべきことは他にある。
「タナトス、獄先派の動きが激しくなってる。ムリムラの治めてたエリアって獄先派に奪われてたりする?」
「統治者がいなくなったエリアと同様の状態だ。そこに住んでいた者達は安全な冥開の飛び地に避難したようだ」
「なるほど。じゃあ、今日はそこを統治しに行こうかな」
今日は宵闇ヤミがアップデート終了後すぐにUDSの本編をプレイしたところ、デビーラから仕事の案件を貰って急遽その打ち合わせが行われ、夜の配信はコラボ配信からソロ配信に変わった。
したがって、今日の鬼童丸は気ままに宵闇ヤミの配信を気にせずUDSをプレイできる訳だ。
タナトスと別れた後、鬼童丸は茨城県結城市の山川不動尊に転移して八千代町に向かう。
八千代町は一昨日まで安全地帯だったはずなのに、統治者が消えたことでアンデッドモンスターの徘徊するポストアポカリプスな雰囲気に逆戻りしていた。
「ヒャッハァァァァァ! 八千代町は俺様の縄張りだァァァァァ!」
(この声、世紀末マイコーじゃないな)
言動は世紀末のチンピラロールプレイしている世紀末マイコーのものに似ていたが、声質も滲み出る雰囲気も世紀末マイコーが隠し切れなかった上品さを欠片も感じさせない本物のチンピラである。
どうやら害悪ネクロマンサーのようだが、その人物は車輪が燃えているバイクに乗っており、その後ろには大量の火車を引き連れていた。
害悪ネクロマンサーが乗るバイクはアンデッドモンスターであり、表示された名前はブレイズバイクだった。
火車はカシャとカタカナ表記になっただけで、フレイムバイクの後ろを走って町内を徘徊するアンデッドモンスターを轢きながら進んで行く。
「
鬼童丸は全ての従魔を召喚し、コマンド入力で一掃する。
統治者のいなくなったエリアで新規プレイヤーが遊べるようにレベルが下がっていたからか、鬼童丸達のレベルは1つも上がらなかった。
『鬼童丸は称号<八千代町の主>を獲得しました』
従魔を失ったのと同時に気を失った害悪ネクロマンサーの処遇は、その場にファントムホークに乗ってやって来たタナトスは一任する。
タナトスが正規の手段で地獄の門を開き、親人派の使者に害悪ネクロマンサーを引き渡した。
「ここに来る途中に探ってみたが、ヘルストーンの気配はしなかった。とりあえず、鬼童丸は八千代町民公園に行ってみると良い。既に放棄されているが、生存者達はそこを拠点にしていたからかエリアボスとその取り巻きがいたぞ」
「わかった。これから行ってみる」
ドラクール以外を送還し、鬼童丸は【
八千代町民公園には確かにエリアボスとその取り巻きがいたけれど、鬼童丸にとって想定外の事態が起きる。
エリアボスとその取り巻きは、悪魔の悪役令嬢と表現するのが相応しい赤いのドレスを着た女型悪魔を囲っていたのだ。
「下等アンデッドは知能も下等ね」
そう言った直後、女型悪魔の正面に炎の刃が現れてその周囲をぐるりと回る際に刃を伸ばしてアンデッドモンスター達を一掃した。
その直後に鬼童丸とドラクールが着陸した訳だが、女型悪魔はそれを見つけてニッコリと笑みを浮かべる。
「ウフフ、お前達が噂に聞く妾を楽しませてくれる新しい玩具なのね」
「玩具、ねぇ。そんな言い方をするから愉悦勢って言いたくなるんだよ、オリエンス」
「様を付けなさい、玩具風情が!」
「やらせません!」
【
炎の球はドラクールの読み通りに自身に吸収されてMPに変換される。
また、ドラゴンの姿では小回りが利かないと判断し、ドラクールは【
「フン、生意気な口を利くだけあって最低限の力はあるようね」
「愉悦勢はお呼びじゃないんで地獄に帰ってくれる?」
「つれないことを言わないでくれるかしら? 暇死にしそうなぐらい退屈だったのよ? 親人派と獄先派の戦争、引っ掻き回さなきゃ妾じゃないわ」
「マジで迷惑なんでそのまま暇死にしてくれれば良かったのに」
鬼童丸はオリエンスに対して本心を告げた。
純度100%の塩対応をする鬼童丸に対し、その感情を味わったオリエンスは興味を持つ。
「この味、知ってる味ね。そう、中立派の悪魔と同じ味。周りなんてどうでも良いから自分の遊びを最優先にするこの味。ふむ、ちょっと試させてもらおうかしら」
そうオリエンスが告げた瞬間、地獄の門が開いてその中から肉の代わりに炎を纏ったミノタウロスの骸骨が現れた。
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緊急クエスト:オリエンスがけしかけたブレイゴズを討伐せよ
達成条件:3体以内のアンデッドモンスターを使役してブレイゴズを討伐
失敗条件:使役するアンデッドモンスターの全滅
報酬:???
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(また緊急クエストか。最近緊急クエストばっかり受けてる気がするぞ)
突然目の前に表示されたクエストの説明を読み、鬼童丸は苦笑するしかなかった。
この状況で逃げられるとも思っていないから、鬼童丸はおとなしくドラクール以外に2体の従魔を召喚する。
「
3対1での戦闘だが、エリアボス戦にオリエンスが割り込んで来たせいでこれから始まる戦闘も乱戦モードで行われる。
そうであるならば、鬼童丸はコマンド入力でいつも通りの流れを作る。
リビングフォールンが【
完全とは言わないが下準備ができたため、ドラクールはブレイゴズに対して【
その攻撃はブレイゴズが握る
「フーン、やるわね。もっと楽しませてほしいわ」
オリエンスが感心したように言えば、【
物理攻撃系アビリティではないから、アビスライダーの【
デバフで威力は削られていたはずなのに、アビスライダーのHPが3割も削られてしまった。
ついでに言えば、【
ドラクールでもアビスライダーでもダメージを受けてしまうという点において、それだけでも【
しかも、減ったHPは【
「リビングフォールンは【
「は~い」
「お任せ下さい」
敵が厄介なアビリティ構成ならば、そのアビリティ自体を封じてしまえば良い。
そのように考えてリビングフォールンに【
アビスライダーはヘイトを稼ぎ続けさせるためにも攻撃に専念させる選択をしたが、その選択は正解だったようでブレイゴズは【
ブレイゴズの残りHPは9割近く残っており、倒すにはまだまだ時間がかかりそうだ。
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