第110話 あァァァんまりだァァアァ

 夕食を取って交代で風呂も入って身支度を整えたら、UDSにログインして午後8時を迎える。


 宵闇ヤミの配信が始まり、宵闇ヤミがヤミんちゅ達を待たせずに挨拶をする。


「こんやみ~。UDSの本編ができないならミニゲームで遊べば良いじゃないと考える悪魔系VTuber宵闇ヤミだよ〜。よろしくお願いいたしま~す。そして~?」


「どうも、ヤミにギャンブルで勝負を挑まれた鬼童丸だ。よろしく」


「わ~い、鬼童丸が今日も遊んでくれるよ~」


「信じられるか? ヤミがほとんど毎日俺の夜の予定を埋めに来るんだぜ」


 この発言にはヤミんちゅ達から早く付き合ってしまえなんてコメントも出て来るが、そのコメントが見えているのは宵闇ヤミだけだ。


 だからこそ、目敏くそういうコメントを見つけた宵闇ヤミは鬼童丸にそれを伝える。


「鬼童丸、ヤミんちゅ達から早く付き合っちゃえとか式はいつ挙げるのって質問が来てるよ」


「その件につきましては一旦持ち帰らせていただいた後、十分に検討した上で回答するよう努力いたします」


「急に敬語!? 急に社会人のソーシャルディスタンスを意識しないでよ! しかもお断りになるケース!」


「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。社会人なんだもの」


 鬼童丸が社会人なのは事実だから、悪びれもせずに素のトーンで言う。


 宵闇ヤミは手強いとボソッと呟くが、気を取り直して今日の配信の説明に移る。


「オホン、今日は本編アップデート中に遊べるミニゲームの内、追加実装されたアンデッドポーカーで遊ぶよ。ヤミんちゅ達、#VS鬼童丸@アンデッドポーカーでこの配信の拡散に協力してね」


「ヤミ、2人でポーカーするの?」


「良い質問だね。答えはNOだよ。アンデッドポーカーは4人プレイだから、残り2枠をNPCではなくランダム対戦で集めるよ」


 ランダム対戦をすることで残り2枠もプレイヤーが埋めるとなれば、今日のアンデッドポーカーはPVPの心理戦という訳だ。


 早速部屋を作り、宵闇ヤミと鬼童丸が残り2枠の参加を待っていると運命の悪戯と呼ぶべき事態が起きる。


 なんと残り2枠がヴァルキリーとリバースで埋まったのだ。


 鬼童丸を奪い合う宵闇ヤミとヴァルキリーの図ができあがったため、ヤミんちゅ達は大歓喜である。


「ヴァルキリー、リバース、こんやみ~。ポーカー配信に参戦してくれるかな~?」


 ちゃっかり自分と鬼童丸の配信とアピールすることで、宵闇ヤミはヴァルキリーに先手を打った。


 既に女の戦いは始まっているらしい。


「配信でボコボコにしても良いならOK」


「私は一向に構わんッッ」


「おぉ、なかなか血気盛んな回答をありがとね~。じゃあ、早速始めるよ~」


 アンデッドポーカーはトランプの絵柄がアンデッドモンスターなだけで、ルールはテキサスホールデムが採用されている。


 手札は2枚で最初のコミュニティカードは3枚あり、ベットかフォールドをしながらコミュニティカードが5枚まで増えていき、最終的に2枚の手札と5枚のコミュニティカードの中から5枚を選んで役を作る。


 また、掛け金はプレイヤーが同意すれば何処までも吊り上げられるようになっているから、既にその沼に嵌っているプレイヤーもいたりする。


 画面が変わった時に早速ツッコミポイントがあった。


「なんでディーラーがチートディーラーなんだよ」


「イカサマしてと言わんばかりの茶目っ気ある配役だね」


「バレなきゃイカサマじゃないんだよってことじゃないの?」


「UDSのアンデッドポーカーにディーラーを買収するコマンドなんてなかったよな?」


 鬼童丸が指摘した通り、アンデッドポーカーではディーラーとしてチートディーラーが採用されている。


 この時点でアンデッドポーカーの胡散臭さが加速するのだが、チートディーラーを買収するコマンドは存在しないから、あくまでこの配役はプレイヤー達を揺さぶるためだけのものだ。


 4人共ネクロに困っていないから、まずは参加料アンティを1万ネクロスタートで1ゲーム当たりの賭け金の上限を10万ネクロに定めて始める。


 (スペードのKとダイヤのK。既にワンペアができてるじゃん)


 鬼童丸の手札は悪くなかった。


 とりあえず、アンデッドポーカーにジョーカーはないからスリーカードかフォーカード、フルハウスを狙えるようにと祈るばかりだ。


 順番はチートディーラーから見て時計回りであり、宵闇ヤミ、鬼童丸、ヴァルキリー、リバースと続く。


「様子見だね。1万ネクロをベット」


「弱気だな。3万ネクロをベット」


「強気ね。でも嫌いじゃない。3万ネクロをベット」


「妥当だな。3万ネクロをベット」


 コミュニティカード3枚がオープンされ、ハートの3とダイヤの10、クローバーのKであることがわかった。


 (スリーカード確定。フォーカードかフルハウスが狙えると良いんだが)


 次のターンということで、宵闇ヤミから自分の意思を宣言していく。


「ベット。2万ネクロ追加」


「急に強気じゃん。ベット。4万ネクロ追加」


「嘘でしょ? チェック」


「そいつはヤバいぜ。フォールド」


 強気な鬼童丸に他の3人が押されている。


 コミュニティカードの4枚目が開かれ、スペードの3が出た。


 (フルハウス確定。フォーカードを除いて現状考え得るほぼ最強の手札だ)


 リバースは降りたが、宵闇ヤミとヴァルキリーはまだ戦意を維持しているので次のターンの宣言が始まる。


「ベット。5万ネクロ追加」


「掛け金がなくなって来たか。ベット。1万ネクロ追加」


「正気? フォールド」


 ハイペースで賭ける宵闇ヤミと鬼童丸を見て、ヴァルキリーは自分の手札では勝てないと思って降りた。


 最後のコミュニティカードはダイヤの6が出た。


「ベット。1万ネクロ追加」


「ベット。1万ネクロ追加」


 いざ勝負ということで、降りていない宵闇ヤミと鬼童丸の手札が画面上に公開される。


 宵闇ヤミの手札はハートの10とクローバーの3であり、コミュニティカードのハートの3、スペードの3、ダイヤの10を選択してフルハウス。


 鬼童丸は手札のスペードのKとダイヤのK、コミュニティカードのクローバーのK、ハートの3、スペードの3でフルハウス。


 役で言えば鬼童丸も宵闇ヤミも同じだが、その役を構成する数字は鬼童丸の方が上なので鬼童丸の勝ちだ。


「俺の勝ちだな」


「あァァァんまりだァァアァ」


 勝てると思っていた回で鬼童丸に上を行かれてしまい、宵闇ヤミは悲しみを全力で表現した。


 この展開には愉悦勢のヤミんちゅ達がニッコリしており、そうでないヤミんちゅ達も綺麗な流れだったものだから、コメント欄を大草原にしていた。


 それから、何度か対戦して鬼童丸達の掛け金の収支は参加料アンティを除いて以下の通りになった。



 1位:鬼童丸(+78万ネクロ)


 2位:リバース(+11万ネクロ)


 3位:ヴァルキリー(-36万ネクロ)


 4位:宵闇ヤミ(-53万ネクロ)



 ヴァルキリーと宵闇ヤミだが、鬼童丸を意識して張り合ったせいで無駄にネクロを失っている。


 リバースは退き時を弁えていたから、11連ガチャ1回分と少しの稼ぎを得てアンデッドポーカーを終了している。


 鬼童丸はヴァルキリーと宵闇ヤミの自爆に加え、自身の戦法も上手く嵌ったことから荒稼ぎできてしまった。


 ヴァルキリーとリバースがアンデッドポーカーから退出した後、鬼童丸と宵闇ヤミは配信の締めに移る。


 ぼろ負けした宵闇ヤミは鬼童丸に向かって言う。


「笑えば良いと思うよ」


「じゃあ、遠慮なく」


「そこは慰めてよぉぉぉ!」


 とても良い笑みを浮かべる鬼童丸に対し、宵闇ヤミが嗜虐心をくすぐる声を出した。


 愉悦勢のヤミんちゅ達により、コメント欄ではヤミ虐助かるとカラフルなスーパーチャットが次々に透過された。


 実際のところ、ゲーム内でネクロを損しようともスーパーチャットが貰えれば宵闇ヤミの収入的に何も問題ない。


 それゆえ、宵闇ヤミも表情に出している程ショックを受けていなかった。


「はい、ということで今日の配信はここまで。本編で遊べるようになったら、リスナー参加型のエリア争奪戦もまた再開する予定だよ。ヤミんちゅも一緒にUDSにしようね。おつやみ~」


「おつやみ~」


 コラボ配信が無事に終わったことを確認した後、鬼童丸と宵闇ヤミはログアウトした。

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