第106話 ぐうの音も出ない正論だ

 ベガーは現状では自身が不利だとわかったからか、この場から逃走し始める。


「逃がすか! ヤミ、アビスライダーに乗って追うぞ!」


「うん♡」


 宵闇ヤミは鬼童丸から強い口調で名前を呼ばれたのが嬉しかったため、思わず声に雌っぽさが乗ってしまった。


 それはさておき、鬼童丸と宵闇ヤミ、キュラソーがアビスライダーに乗ってベガーを追う訳だが、ベガーは逃げた先にいるアンデッドモンスターに蛇の腕を伸ばし、噛んだ相手を黒い靄に分解して吸収した。


 このアビリティは【存在吸収プレゼンスドレイン】であり、全能力値を吸い取り、その半分が自身に還元される効果がある。


 補足すると、自身に還元される能力値は3分間しか維持されないから、永続的にアンデッドモンスターを倒した分だけ強くなることはできない。


 ベガーは先程の状態では鬼童丸達に勝てないと考え、行く先々の雑魚モブを吸収して回復と強化を行っている訳だ。


 ターン制のバトルが中断され、今は乱戦モードでの追いかけっこに代わっており、ベガーは山川不動尊に向かった。


 【存在吸収プレゼンスドレイン】でHPは8割程回復しており、時間制限はあるものの能力値を他からガンガン奪って短期決戦に持ち込むつもりらしい。


 ベガーが逃げ込んだ山川不動尊の周囲には、デッドキューブの群れとデッドポリへドロンがいた。


「あれを吸収されたら不味い。アビスライダー、【呪紫雷撃カースボルテクス】で足止めだ」


 少し距離は開いているが、射程圏内ではあったので鬼童丸はアビスライダーに【呪紫雷撃カースボルテクス】を放つよう命じた。


 その結果、紫色の雷撃が命中してベガーがダウン状態に陥った。


 当然、そうなれば追撃ボタンが表示されるから、鬼童丸も宵闇ヤミも追撃ボタンをタップする。


 追撃によって何度も攻撃を受けたため、アビスライダーの怨殺槍アイサツの効果が発揮され、恐慌状態と出血状態になる。


 これで時間制限ありで強くなったベガーはバフ分とデバフ分で相殺されてしまった。


 (雷属性の攻撃が弱点なのか? もう一度試してみよう)


 追撃が終わって乱戦モードになり、鬼童丸はアビスライダーに指示を出す。


「アビスライダー、もう一度【呪紫雷撃カースボルテクス】だ」


 アビスライダーの攻撃で再びベガーがダウン状態になったため、ベガーの弱点が雷属性であることは確定した。


 更に追撃を行うことで、ベガーの残りHPが残り4割まで減った。


 この戦いで漁夫の利を得るべく、デッドポリへドロン率いるデッドキューブ達が混ざって来るけれどそちらは宵闇ヤミが対応する。


「鬼童丸、こっちは任せて」


「助かる。アビスライダー、更に【呪紫雷撃カースボルテクス】だ」


 キュラソーがデッドキューブの数を減らしていくのを見て、鬼童丸は安心してベガーの弱点属性で繰り返し攻撃していく。


 出血の状態異常もあってどんどんHPが削られていき、HPが残り1割を切った時にベガーの体が赤く染まり、その体がどんどん膨張していくのがわかる。


「爆発なんてさせて堪るか! アビスライダー、とどめの【呪紫雷撃カースボルテクス】だ!」


 【自爆セルフエクスプロージョン】を発動中のベガーに対し、アビスライダーの【呪紫雷撃カースボルテクス】が命中した瞬間にHPが尽きたため【自爆セルフエクスプロージョン】は強制キャンセルさせられたように思えた。


 ところが、行き場のないエネルギーが爆散してしまい、完全な威力ではないものの周囲に影響が出るぐらいには大きな爆発が生じてしまった。


 結果として、群れていたデッドキューブが全滅して山川不動尊も損傷率が30%まで上がってしまった。


 クエストクリアのシステムメッセージが欲しいところだが、ベガーが山川不動尊に逃げ込んだせいでエリアボス戦も始まってしまったから、クエストクリアのメッセージは先程の爆発でダメージを負っているデッドポリへドロンを倒した後に受け取る羽目になった。


 もっとも、ダメージを負っていようとデッドポリへドロンには関係ない。


 何故なら、デッドポリへドロンは倒されたデッドキューブ達を黒い靄に変換させ、それを吸収して激しく脈動し始めたからだ。


「キュラソー、【多重痺噛マルチプルバイト】よ!」


 宵闇ヤミはデッドポリへドロンが余計なモンスターを体内に創り出せないようにするべく、キュラソーに連続攻撃をかましていく。


 しかしながら、HPをギリギリ削り取れずにデッドポリへドロンが破裂し、その中からイビルクロスが現れた。


「一度倒した敵だ。問題ない。ヤミ、やれるよな?」


「勿論」


 イビルクロスは足立区で遭遇した害悪ネクロマンサーのニコが使役しており、どんなアンデッドモンスターなのか鬼童丸と宵闇ヤミはしっかりと理解している。


 それゆえ、落ち着いて対処することでイビルクロスも倒すことに成功できた。


『鬼童丸がLv91からLv93に成長しました』


『鬼童丸の称号<結城の主>が称号<結城市長>に上書きされました』


『鬼童丸の称号<圧倒する野木町長>と称号<古河市長>、称号<結城市長>が称号<圧倒男爵(野木・古河・結城)>に上書きされました』


『伯爵と男爵は兼任できないため、称号<圧倒男爵>が称号<鏖殺伯爵(冥開)>に吸収され、野木町と古河市、結城市が飛び地として冥開に属します』


『アビスライダーがLv34からLv42まで成長しました』


『アビスライダーの【破壊突撃デストロイブリッツ】が【雷撃刺突ボルテクススタブ】に上書きされました』


『専用武装交換チケットとベガー、イビルクロスを1枚ずつ手に入れました』


『結城市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、結城市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 システムメッセージの確認を終えた後、山川不動尊に立て籠っていた生存者10人が現れ、鬼童丸と宵闇ヤミに感謝を告げた。


 そこにファントムホークに乗ってタナトスとヘカテーが現れる。


「また獄先派が仕掛けて来たみたいだが無事に倒せたようだな」


「まあね。というか、なんで緊急で倒さなきゃいけない敵が現れたのに縛りを設けられるんだ? 相棒だけの力に頼るなって話?」


「その通り。其方の戦術がドラクール頼み一辺倒にならぬようにだ。無論、相棒が強いことに越したことはないが、相棒以外も強くしなければ戦力の底上げに繋がらない」


「ぐうの音も出ない正論だ。じゃあ、転移魔法陣を設置してからで良いから専用武装交換チケットを使わせてくれ」


「良いだろう」


 タナトスは山川不動尊に転移魔法陣を設置した後、鬼童丸が現時点で交換可能な専用武装をショップ画面から見せた。



○専用武装

 ・レギネクス専用武装:爆轟輪ばくごうりんカブーム

 ・フロストパンツァー専用武装:蒼副砲そうふくほうレイゼイ

 ・ヨモミチボシ専用武装:凶星輪きょうせいりんマガツキ

 ・イミテスター専用武装:激流砲げきりゅうほうソウソウ

 ・ミストルーパー専用武装:双静銃そうせいじゅうメイスイ



 (流石に名前を冠する専用武器は連続して出て来ないか)


 ドラクールの憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールやリビングフォールンの色欲堕天霊装ラストオブリビングフォールンのように、名前を冠する大罪武装が見当たらないことから、鬼童丸は順当にレギネクス専用武装の爆轟輪カブームを貰うことに決めた。


 爆轟輪カブームはレギネクスのDEXとINTを400ずつ上昇させ、火属性のアビリティの効果を10%上昇させるから、火力アップに申し分ないのだ。


 専用武装交換チケットをタナトスに渡し、鬼童丸は爆轟輪カブームを貰った。


 自動的に爆轟輪カブームがレギネクスに装備され、レギネクスのカードは足環の見た目をした爆轟輪カブームを装着したレギネクスの絵に変化した。


「タナトス、質問があるんだけど良いか?」


「なんだ?」


「ヘルオブシディアンの効果が発揮される条件って持ち主の感情がトリガーなのか?」


「そうだ。ヘルオブシディアンは持ち主の強い感情を察知して効果が発揮され、地獄の門を強制的にこじ開けるだけのエネルギーを持ち主から奪い去る。獄先派は懐柔したネクロマンサーを捨て駒にして、強制的にこじ開ける予定の場所に実力が強くて暴れたがりなアンデッドモンスターを待機させている」


 (なるほど。じゃあ、ムリムラも獄先派に捨て駒として利用されたってことか。残念だ)


 ムリムラの実力は目を見張るものがあったため、獄先派に心の隙を突かれて捨て駒として利用されたという事実に鬼童丸は残念でならなかった。


 検証班ごっこで迷惑をかけられたパッパラーとフェイクスにはそのような感情を抱くことはなかったけれど、ムリムラに迷惑をかけられたことはなかったからである。


 タナトスとの話が終わり、ヘカテーと話している宵闇ヤミがどうなっているだろうと気になってそちらの方を向いてみたところ、宵闇ヤミのキュラソーに大きな変化が生じていた。

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