第107話 中立派じゃなくて草。改名すれば良いのに
鬼童丸が宵闇ヤミの方を向いた時、キュラソーがスキュラゾンビのアイドルという見た目から病的に色白なラミアの戦士に姿を変えていた。
手には
表示されているアンデッド名はヴィラであり、宵闇ヤミに話しかけてみる。
「ヤミ、キュラソーに何があったんだ?」
「キュラソーとベガーが
「妬ましい…」
「大罪武装を装備すると喋れるってのは確定か。これで4体が親人派とネクロマンサー側にある訳だ」
鬼童丸もここまで来れば確定で良いだろうと思い、喋ることのできる従魔の条件を口にしてみた。
その発言はタナトスとヘカテーに向けられたものだったが、2人ともそれに頷いた。
「大罪武装を得られる条件は正確なところがわかっていない。ただし、ネクロマンサーとその従魔との信頼関係が強固であり、従魔の魂の格が一定以上になれば得られると考えられる。大罪武装を装備した喋れる従魔はいずれも強力だ。獄先派に渡す訳にはいかんよ」
「マジでそれ。敵になったら不味い」
「鬼童丸、ヴィラのステータスを見てみる?」
「見せてくれるなら是非とも」
「わかった」
どうやら宵闇ヤミは自分にヴィラを自慢したかったようなので、鬼童丸はそれに乗っかってヴィラのステータス画面を共有してもらった。
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種族:ヴィラ Lv:1/100
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HP:6,000/6,000 MP:6,000/6,000
STR:6,200(+400) VIT:6,000(+400)
DEX:5,800 AGI:6,000
INT:6,000(+200) LUK:6,000
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アビリティ:【
【
【
装備:
備考:なし
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「ベガーのアビリティも使えるのは強いな」
「フフン、でしょ~?」
「それで、ヴィラって妬ましい以外に喋れるの?」
「どうなのヴィラ?」
「妬ましい」
(ワンフレーズのみのパターンか? それとも嫉妬が強過ぎるだけ?)
喋りたくないのに無理やり喋らせる訳にも行かないから、その辺の検証は後回しにした。
その時、鬼童丸達の耳にワールドアナウンスが届く。
『エリアボス戦にてワールドクエスト「プロジェクトH」が進行しました。それによってアップデートを要するため、誠に申し訳ございませんが、現在ゲームをお楽しみの皆様を拠点に転送した上で強制的にログアウトさせていただきます。なお、調整を要するのは本編のみのため、調整完了までの間はミニゲームをお楽しみ下さい』
(おいおい、またこのパターンかよ)
次の瞬間には鬼童丸と宵闇ヤミが都庁まで転移させられており、そのまま視界が暗くなって強制ログアウトさせられた。
ゲームのスタート画面に戻った鬼童丸の前に、ぐったりしたデビーラが現れた。
「デビーラ、獄先派がやらかしてるんだが調整はどうした?」
「言われなくてもやってるわよー。でも、どうにも中立派が関与して獄先派が親人派を掻い潜ったみたいなの」
親人派で組んだセキュリティに中立派は引っかからないようになっていたから、中立派に手引きされれば獄先派もセキュリティを掻い潜れてしまう。
その仕様を利用されたため、デビーラはうんざりした様子である。
「中立派じゃなくて草。改名すれば良いのに」
「マジでそれ。もう冗談じゃないわよ。折角宵闇ヤミをデーモンズソフト専属VTuberにできて特別ボーナスが出たのに」
「その話ってここでして良いのか? ヤミとコネクトの通話中なんだが」
「それなら問題ないわ。鬼童丸がこの場に来たことで、限定的にコネクトが強制的に切断されるようにしたから」
その口ぶりからして、宵闇ヤミやその配信を見ているヤミんちゅ達には聞かせられないことがあるのは間違いない。
鬼童丸は気になることがあってデビーラに訊ねる。
「デビーラ、ヤミをデーモンズソフトの専属VTuberにした理由の何割が俺の存在?」
「5割ね。宵闇ヤミは本編でもミニゲームでもヤミんちゅ達を盛り上げてるから、青田買いのつもりでスカウトしたの。彼女のポテンシャルを評価してるのも本当だから、そこは信じて」
「その言い分を信じないとは言わんよ。もしそう言ったら、俺がヤミを評価してないってことになるからな。それで、5割が俺なのか」
「まあね。鬼童丸は親人派に絶対に必要な存在だから、宵闇ヤミを味方にすれば鬼童丸もついて来ると思ってのことよ。親人派がデーモンズソフトの設立に協力してからそこそこの年月が経った。本来ならまだ時間的猶予はあったはずだけど、獄先派が力をつけて地球に侵攻しようとしてる。【Undead Dominion Story】はその時に自衛できる戦力を育成するゲームだったんだけど、いつまで育成の時間を貰えるかは怪しいわ」
(前回は聞けなかった内容が解禁されてる。開示できる情報が増えたらしいな)
最初にUDSでバグが生じて強制ログアウトされた時、鬼童丸はデビーラと話しても教えてもらえない情報がまだまだあった。
メインの称号である<鏖殺伯爵(冥開)>的には変わっていないのだが、統治エリアが広がったことで情報を開示してもらえたのかもしれない。
それならばと鬼童丸は質問を続ける。
「デーモンズソフトで働く人間と悪魔の割合は?」
「3:3:4ね。3が人間と半魔。4が悪魔ね。その4割の悪魔の中の1割が中立派。だから、今回の件でやらかしたと思われる中立派の1体はこの件を起こしてから消息を絶ってるわ」
「なんで中立派なんてデーモンズソフトで雇ってるの? 疑わしきは雇わなければ良いのに」
「そういう取り決めが結ばれてるの。中立派は親人派と獄先派に自陣営から悪魔を送る約束なのさ。これを破った場合、中立派が完全に敵に回るから、疑わしくても雇い続けねばならないの」
「取り決めねぇ…」
地獄の悪魔が日本企業で働いていると知り、鬼童丸はどうしてこんなことになっているんだと疑問に思った。
地獄の取り決めで社内を引っ掻き回されたら堪ったものではないし、その影響が現時点で社外に出ているのだから勘弁してほしいところだ。
「言っておくけど、鬼童丸達がNPCだと思ってるネクロマンサーの師匠達は全員親人派の悪魔との混血の半魔だから。NPCの振りをしてるけど、キャラの中身は鬼童丸達と同じくあるんだからね」
「そこまで言っちゃって良いの? 越権行為になってない?」
「中立派が許容範囲を超える肩入れをしたおかげで、私がこうやって喋っても規制がかからなくなってるの。むしろ、今喋られるだけの情報を喋った方が良いわね」
「じゃあ、今まで聞けなかった質問をする。リアルの地球に地獄の門が開いた時、俺が使役できるのはドラクールとリビングフォールンだけか?」
ドラクールとリビングフォールンはリアルでも味方として戦ってくれるだろうが、それ以外のUDSで使役していた従魔はリアルに連れて来れないのかと鬼童丸はずっと疑問に思っていた。
それゆえ、鬼童丸はデビーラにその疑問をぶつけてみたのだ。
「今はそうなるね。あくまで【Undead Dominion Story】は育成装置に過ぎないもの。ただ、私達の力で実体化させられる者達もいる」
「それが大罪武装を装備した従魔ってことか」
「そうね。それ以外の従魔をリアルに連れて来る研究も続けてるけど、本格的に獄先派が侵攻を始めるまでに完成するかは怪しいわ。とりあえず、限られた時間で少しでも強くなってほしいわね。幸い、宵闇ヤミだけじゃなくてヴァルキリーも喋る従魔を使役できたみたいだし」
「そうか。リバースは?」
「あともう少しってところで本編を調整しなきゃいけなくなっちゃったの。ミニゲームでテコ入れするつもりよ。あっ、そろそろ時間だわ。また会いましょう」
デビーラはそう言った直後に姿を消し、鬼童丸はリアルで確認したいことがあるからログアウトした。
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