第104話 ヤミと鬼童丸のデートを邪魔したんだよ? それだけで万死に値するよね

 結城市に入ったら安全地帯ではなくなったため、早速アンデッドモンスターの大群が視界に映る。


「デッドキューブか。なんとも不気味だな」


 鬼童丸と宵闇ヤミが見つけたのは、骨の枠組みと赤黒い膜で構成された立方体のアンデッドモンスターであり、どうにも膜の中に何か隠れているようだった。


 敵の数が多いのなら2人の取る手段は決まっている。


「「召喚サモン:オール」」


 道に溢れるぐらいいるデッドキューブに対し、総力戦を仕掛ける判断をした訳だ。


 どちらとも乱戦モードゆえにセットコマンドでガンガン攻撃して敵の数を減らすが、倒されたデッドキューブ達は黒い靄に変換されて攻撃の当たっていないデッドキューブ達に吸い込まれて変化が起きる。


 それぞれのデッドキューブが脈打ち始め、その脈がどんどん激しくなっていくのだ。


 そして、脈動の激しさに耐えられなくなったデッドキューブが破裂し、その中からオーカスゾンビが残っていたデッドキューブの数だけ現れる。


「オーカスゾンビのバーゲンセールだね」


「きたくぶちょーがUDSを見たら号泣しそう」


 新人戦で棄権した後、UDSから姿を消したきたくぶちょーが新人戦で最後に出した従魔がオーカスゾンビだったが、それが雑魚モブとして現れたのを見れば自分の苦労はなんだったのかとなくのではと鬼童丸は思ったのである。


 この光景を配信画面越しに見たヤミんちゅ達も、概ね鬼童丸と同じ意見をコメントしていた。


「敵がデッドキューブだろうとオーカスゾンビだろうと関係ないよね、鬼童丸」


「その通りだ。敵は全て倒す」


 オーカスゾンビの群れは鬼童丸と宵闇ヤミ率いる従魔達に倒され、経験値の足しになる運命を辿った。


 (なんでだ? システムメッセージが届かないぞ?)


 戦闘が終わったらシステムメッセージが流れるのだが、どういうことなのか流れて来ない。


 それが意味するところはまだ戦闘が終わっていないということなので、鬼童丸も宵闇ヤミも警戒心を強める。


「マスター、上です」


 ドラクールが憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールで示した上空には、ぽっちゃりした害悪ネクロマンサーの首根っこを掴んでいる異形の存在がいた。


「おい、ボクチンを放せ。泣く子も黙るフトシ様だぞ」


「…」


「おぉぉぉぉ!?」


 フトシに放せと言われて異形の存在はその手を放した。


 その結果、フトシは3階よりも高い上空から落ちて死んでしまった。


「なんのために現れたんだ?」


「ヤバいアンデッドモンスターである演出のためじゃない?」


「舞台装置過ぎて草」


 自分の抱いた疑問に宵闇ヤミが答え、鬼童丸はその通りだと頷いた。


 異形の存在の見た目だが、人体模型にスケルトンの外骨格が備えられ、腰から翼を生やした悪魔だ。


 鬼童丸と宵闇ヤミの視界に表示された敵の名はオッドバディモンである。


 オッドバディモンは墜落死したフトシの死体の上に着地する鬼畜ぶりを発揮し、下卑た笑みを浮かべる。


「うわぁ、キモ~い」


 リビングフォールンが正直な感想を述べた瞬間、オッドバディモンの赤く光る目がリビングフォールンに向いた。


「一気に仕掛けるぞ」


 オッドバディモンが着地した時には既にセットコマンドを入力していたから、宵闇ヤミよりも先に鬼童丸だけがオッドバディモンへの攻撃を始めていた。


 アビスライダーが【絶望放気ディスペアオーラ】でリビングフォールンが【栄光舞踏グロリアダンス】、ヨモミチボシが【沈黙空間サイレントスペース】、イミテスターの【麻痺狙撃パラライズスナイプ】でオッドバディモンをデバフと状態異常漬けにする。


 そこにレギネクスの【死体爆発ネクロエクスプロージョン】とフロストパンツァーの【氷結砲フリーズバースト】、ミストルーパーの【追尾魔弾ホーミングバレット】でHPを一気に削った。


 とどめにドラクールの攻撃というのが鬼童丸のセットコマンドだったけれど、HPが残り僅かになったオッドバディモンの沈黙状態が解除されて【復讐魔砲リベンジバースト】が放たれる。


「ドラクール、吸収して【拒絶リジェクト】でとどめを刺せ」


「お任せ下さい」


 ドラクールは【魔竜化マギドラゴンアウト】を会得しているから、その効果の1つとして魔法系アビリティで攻撃されてもダメージを受けずにMPを回復できる。


 MPを満タンにしたところで、ドラクールは【拒絶リジェクト】を発動してオッドバディモンを粉砕した。


 【拒絶リジェクト】は自身の能力値の合計と敵の能力値の合計を引き算し、残った数値分のダメージを与える衝撃波を放てるアビリティだ。


 ドラクールに能力値の合計で劣るオッドバディモンが粉砕されたことにより、結城市に入ってすぐの戦闘がやっと終わった。


 それを証明するかのように、システムメッセージが鬼童丸と宵闇ヤミに届き始める。


『鬼童丸がLv89からLv91に成長しました』


『鬼童丸が称号<結城の主>を獲得しました』


『ドラクールがLv40からLv44まで成長しました』


『アビスライダーがLv30からLv34まで成長しました』


『リビングフォールンがLv26からLv32まで成長しました』


『レギネクスがLv20からLv28まで成長しました』


『フロストパンツァーがLv20からLv28まで成長しました』


『ヨモミチボシがLv20からLv28まで成長しました』


『ヨモミチボシの【興奮霧エキサイトミスト】が【興奮空間エキサイトスペース】に上書きされました』


『イミテスターがLv10からLv22まで成長しました』


『ミストルーパーがLv10からLv22まで成長しました』


『オーカスゾンビを40枚、オッドバディモンを1枚手に入れました』


 (一気に強くなったもんだ)


 敵の数が多かった上に連戦だったから、自分の従魔が8体いても得られる経験値量は膨大だったようだ。


 正確には宵闇ヤミもフルメンバーだったから、経験値は十五等分されているがそれでも経験値の量は半端じゃなかった。


 戦力の底上げに繋がったため、鬼童丸は一連の戦闘で儲けた気分になった。


「鬼童丸、すごいよ! 経験値ウマウマ!」


「それな。もう一度出て来ないかな? 周回したい」


 鬼童丸の発言にコメント欄のヤミんちゅ達はざわついた。


 【復讐魔砲リベンジバースト】は発動するまでに受けたダメージの倍の威力で発射するから、ドラクールのような魔法系アビリティを吸収できなければ即死してしまう。


 それをわかっているからこそ、ヤミんちゅ達の中でもUDSプレイヤーはざわついた訳である。


「周回出来たら美味しいけど、そう簡単には上手くいかないよね」


「自分で言っててなんだけど、そこまで効率的には進められないだろうよ」


「だよねー。これから何処に向かう?」


「一旦空からアンデッドモンスターが群れてる場所を調べよう。ドラクール、【魔竜化マギドラゴンアウト】だ」


「かしこまりました」


 ドラクールがドラゴンの姿になるのと同時に、鬼童丸はドラクール以外を送還した。


 宵闇ヤミも全ての従魔を送還し、鬼童丸に手を引かれてドラクールの背中の上に乗る。


 空からアンデッドモンスターが集まっている場所を探していると、山川不動尊にアンデッドモンスターが群れているのを見つけた。


 山川不動尊はそこまで広くないから、生存者がいてもそこまで多くないのだろう。


「とりあえず、山川不動尊に行ってみるか」


「うん」


 目的地を決めて移動しようとした時、鬼童丸達は地上から攻撃される。


 幸いにもその攻撃は魔法系アビリティだったため、ドラクールが【魔竜化マギドラゴンアウト】によって吸収できたが、鬼童丸達でなければ危なかっただろう。


 (攻撃した奴は誰だ?)


 自分達を狙った存在がいることを察し、攻撃を仕掛けた者がいただろう場所を見下ろして探したのだが、鬼童丸も宵闇ヤミも見つけられなかった。


召喚サモン:ミストルーパー」


 こういう時こそミストルーパーの出番なので、鬼童丸はミストルーパーを召喚して【千里眼クレヤボヤンス】を使わせる。


 ミストルーパーと鬼童丸の視界が共有され、先程の攻撃をした存在を鬼童丸は探す。


 すぐに攻撃して来た者の位置が掴めたため、鬼童丸は宵闇ヤミに訊ねる。


「攻撃して来た奴を見つけた。山川不動尊に行く前にそっちの対処をしたいと思うけど構わないよな?」


「ヤミと鬼童丸のデートを邪魔したんだよ? それだけで万死に値するよね」


「デートじゃないんだが?」


「ヤミと鬼童丸のデートを邪魔したんだよ? それだけで万死に値するよね」


「目のハイライトを消して繰り返すのは止めて落ち着け」


 目がヤバいことになっている宵闇ヤミがそう言えば、鬼童丸以上に攻撃されたことに対してキレているようなのでとりあえず鬼童丸はクールダウンさせる。


 それから、鬼童丸はドラクールに指示して自分達を攻撃して来た存在のいる場所に向かった。

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