第97話 策士策に溺れる? いや、自分の策を利用される時点で策士じゃない

 野木町に来た鬼童丸は、【竜化ドラゴンアウト】を使ったドラクールの背中に乗り、そこから南下して茨城県古河市に向かう。


 北上しなかった理由だが、北上してしまうとヤサーイ王子の攻略しようとしているエリアと被るからだ。


 わざわざフレンドの攻略の邪魔をするのも悪いから、鬼童丸は南下した訳である。


 安全地帯である野木町から出た瞬間、古河市の上空に地獄の門が開いてそこから霧で形成された魔術師と呼ぶべき存在が現れた。


 (ミストレイス。物理攻撃が通用しない見た目っぽいな)


 ミストレイスが現れた直後に地獄の門は閉じて消えたということは、古河市内にいる雑魚モブは既に何かしらの要因で倒され、ヘルストーンの効果が発揮された可能性が高い。


 その証拠に、鬼童丸はミストレイスに話しかける害悪ネクロマンサーの女性を見つけた。


「やっと来たわね、私の新たなる下僕が。すぐに手に入れてやるから待ってなさい!」


 その害悪ネクロマンサーの傍らには従魔達が控えており、それは金棒を握り締めた4体のオーガゾンビだった。


 (あのオーガゾンビ達は魔法系アビリティを使えるのか?)


 物理攻撃が効かないだろう相手に対し、見るからに物理攻撃しかできなさそうな従魔を戦わせようとしているから、鬼童丸は害悪ネクロマンサーの女性を馬鹿なのではないかと思った。


 現状ではミストレイスは誰の従魔でもないから、自分に向けて敵意を向けているオーガゾンビに襲い掛かる。


 害悪ネクロマンサーが万が一ミストレイスを使役できると面倒なので、鬼童丸はまとめて倒すことにした。


「ドラクール、敵全体にまとめて【深淵支配アビスイズマイン】で攻撃」


『かしこまりました』


 ドラクールは深淵の剣を雨のように降らせ、ミストレイスもオーガゾンビ達もまとめて攻撃する。


 オーガゾンビ達はミストレイスよりも弱かったため、憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールの効果もあってHPがガリガリと削られて力尽きた。


 従魔を一気に倒されたことにより、害悪ネクロマンサーは耐え切れない精神的ダメージを負って気絶した。


 これで鬼童丸はミストレイスとの戦いに集中できる。


 ミストレイスは複数の自身の分身を創り出し、それをドラクールに向けて発射する。


 このアビリティは【贈霧爆弾プレゼントボム】という霧の分身自体が爆弾になるもので、複数の分身はいずれもドラクールに向かって来ていた。


「ドラクール、さっきと同じように全て蹴散らせ」


『仰せのままに』


 再びドラクールは深淵の剣を雨のように降らせ、ミストレイスの【贈霧爆弾プレゼントボム】全てを撃ち落としてみせた。


 しかも、倒した分身の1体がミストレイスの近くにおり、爆発によってミストレイスにもダメージを与えた。


 ミストレイスは自分の攻撃が防がれてダメージまで受けたから不快そうであり、【沈黙霧サイレントミスト】でドラクールのアビリティを封じようとする。


「ドラクール、霧を吹き飛ばすんだ」


『かしこまりました』


 霧の中では沈黙状態になってしまい、アビリティが封じられてしまうから鬼童丸はドラクールに霧に触れぬよう先に吹き飛ばせと命じた。


 ドラクールが翼を羽ばたかせることにより、霧はミストレイスに跳ね返されてミストレイスが沈黙状態に陥った。


 (策士策に溺れる? いや、自分の策を利用される時点で策士じゃない)


 鬼童丸は頭の中でそのように結論付け、ドラクールにそろそろ終わらせるように指示を出す。


「ドラクール、【深淵支配アビスイズマイン】でとどめだ」


『かしこまりました』


 【深淵支配アビスイズマイン】で深淵のレーザーをミストレイスに命中させれば、ドラクールとの能力値の差もあってミストレイスはHPを全損した。


『鬼童丸がLv87に到達しました』


『鬼童丸が称号<古河の主>を獲得しました』


『ドラクールがLv34からLv36まで成長しました』


『オーガゾンビを4枚、ミストレイスを1枚手に入れました』


 システムメッセージが収まったところで、タナトスがファントムホークに乗ってこの場にやって来る。


「愚か者のせいでまたヘルストーンが使われてしまったか」


「そうらしい。俺が古河市に来てすぐに地獄の門が開いたし」


「これでは本格的に地獄とこちらが混じり合いかねない。まったく、獄先派には困ったものだ。まあ、今はこの愚か者を親人派に渡すことが先決だろう」


 そう言ってタナトスが正規の手順で地獄の門を開けば、そこに親人派の使者が現れて害悪ネクロマンサーを地獄に回収していった。


 地獄の門が閉じられた後、鬼童丸はタナトスに質問してみる。


「タナトス、生存者達は何処に立て籠ってるかわかる?」


「道の駅だ。まくらがの里こがにいるようだぞ」


「わかった。後で宵闇さんと行ってみるわ。もう1つ質問して良い?」


「構わぬ。何が訊きたい?」


 タナトスは鬼童丸を正しい方向に教え導く使命があるから、鬼童丸から質問されることに対して拒否したりしないし、鬼童丸に期待しているので答えられる範囲でなんでも答えるつもりだ。


 それゆえ、タナトスはほとんど笑うところを見せないが、鬼童丸はタナトスを頼りになると思っているし、実際に頼っている。


「飛び地で統治エリアが増えた場合、その飛び地も冥開扱いになるの?」


「基本的には地続きの統治エリアでないと新たな命名権は発生せず、ある程度の広さになったら元の領地の飛び地になる。領地の名前を変えても面倒な手続きが増えるだけだしな」


「そうなのか。了解した」


 鬼童丸の質問が終わり、タナトスはファントムホークに乗って去っていった。


 それから、鬼童丸は先程手に入れたミストレイスをスカベンジャーとヘルスカウトと融合フュージョンする。


 ログインしてから鬼童丸が融合フュージョンを連続して行う理由だが、UDSが現実に影響を及ぼしているからだ。


 自身の戦力を強化しておけば、獄先派がヘルオブシディアンを使っても勝ち残れる可能性が高くなる。


 UDSでキャラロストするような何かが起きた場合、それが現実にフィードバックされるとわかった以上、少しでも強くなっておくに越したことはない。


 融合フュージョンのエフェクトは通常時よりも激しく、イミテスターが誕生した時と同じぐらいだった。


 エフェクトが収まったところで、鬼童丸の手には新たな融合アンデッドのカードが現れる。


召喚サモン:ミストルーパー」


 その外見は拳銃を持ち髑髏マスクで素顔を見せない女性工作員であり、イミテスターと比べたかなり地味な印象だ。


 ヘルスカウトの時は弓を遣っていたが、ミストルーパーになって武器が拳銃に変わったから身軽に見える。


 早速、鬼童丸はミストルーパーのステータスを確認し始める。



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種族:ミストルーパー Lv:1/100

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HP:6,000/6,000 MP:6,000/6,000

STR:6,000 VIT:6,000

DEX:6,000 AGI:6,100

INT:6,000 LUK:6,100

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アビリティ:【追尾魔弾ホーミングバレット】【霧化ミストアウト

      【吸収触手ドレインテンタクルス】【変身シェイプシフト

      【千里眼クレアボヤンス】【記録撮影ログレコード】 

装備:消音銃カーム

備考:なし

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 (偵察向きなのは変わらず、戦う力もちゃんと強化されてる。良いね)


 ミストルーパーのアビリティについて、新出のものだけ鬼童丸はチェックしていく。


 【追尾魔弾ホーミングバレット】は読んだ通りで敵に当たるまで追尾する魔力弾だ。


 【霧化ミストアウト】は自身の体を霧に変えることにより、純粋な物理攻撃を無効化しつつ普通の体では忍び込めない場所にも静かに忍び込める。


 【吸収触手ドレインテンタクルス】は触手を形成して触れた者のHPとMPを奪えるが、奪える量は触れている時間に比例する。


 【変身シェイプシフト】は姿をプレイヤーの見たことがある存在に変えられるアビリティであり、見たことのない存在には変身できない。


 【千里眼クレアボヤンス】はプレイヤーと視界を共有することができて、その場にいながら遠くのことも監視できる索敵や物探しにぴったりなアビリティだ。


 しかも、気になるものを凝視すれば詳細情報もわかる。


 とりあえず、ミストルーパーのチェックを終えたらそろそろ昼食の準備をしなければならなかったため、鬼童丸は野木ホフマン館に戻ってからログアウトした。


 午後のコラボ配信では宵闇ヤミと古河市の攻略することになるから、久遠は桔梗に午前中に知った情報を昼食を取りながら共有するのだった。

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