第70話 高過ぎる壁でごめんね

 赤く染まったガシャドクロはSTRが上がってDEXが下がったらしく、アビリティが大振りになって狙いが雑になった。


 (このままだと東京スタジアムの破損率が上がってしまう)


 折角ボスを倒したのに拠点が壊されては困るから、鬼童丸はアビスライダーを東京スタジアムから離れるように動かす。


 第二形態になろうと【磁霊化マグネストアウト】の効果は健在で、アビスライダーに釣られてガシャドクロは東京スタジアムから距離を取り始める。


 その結果、ガシャドクロは攻撃よりも移動を優先して検証班の回復できる隙が生じる。


 現状、この場において鬼童丸に着いて来れるだけの戦力があるのは宵闇ヤミだけであり、移動中も宵闇ヤミの従魔達はガシャドクロに攻撃を続ける。


 勿論、鬼童丸の従魔達も攻撃しているから、移動している間もガシャドクロのHPは削れていく。


 ただし、第二形態になったことでVITも上昇したらしく、ダメージの入り方が鈍くなった。


 (フレッシュゴーレムと比べるとガシャドクロの方が強いか?)


 そんな風に思いつつ、鬼童丸は効果が切れていたからリビングバルドには【栄光舞踏グロリアダンス】、アビスライダーには【絶望放気ディスペアオーラ】でガシャドクロにデバフをかける。


 先程から【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】や【破壊威圧デストロイプレッシャー】のような範囲攻撃を使っていたガシャドクロだが、デバフのおかげで威力が落ちたせいで鬼童丸と宵闇ヤミの従魔達が受けるダメージが軽減された。


 個人を攻撃するアビリティならアビスライダーが真っ先に狙われるけれど、範囲攻撃アビリティだとアビスライダー以外にもダメージが入る。


 いくら【磁霊化マグネストアウト】が効いているからとはいえ、流石に袋叩きにされる現状を打破しようとガシャドクロが動くのは何もおかしくない。


「ドラクール、【暗黒薔薇ダークローズ】で敵の動きを阻害しろ」


「承知しました」


 ドラクールが【暗黒薔薇ダークローズ】を使ったことで、ガシャドクロを中心にいくつもの暗黒の薔薇が咲き誇ってガシャドクロにダメージを与えていく。


 それによってガシャドクロのHPが2割を切り、今度はガシャドクロの体の色が黒く染まる。


「宵闇さん、ラストスパートはかけられそう?」


「かけるよ! 鬼童丸さんには負けないんだから!」


 第三形態のガシャドクロはSTRとVITが更に上がり、DEXだけでなくINTまで下がったようだ。


 更に動きが雑になったけれど、攻撃の破壊力は上がって鬼童丸達が与えられるダメージ量は落ちた。


 そうだとしても、もう少しでガシャドクロのHPは残り1割しかないから、鬼童丸達は最大火力のセットコマンドで多少の被弾は覚悟して一気に攻め立てる。


 2人合わせて10体以上の従魔からの攻撃を受ければ、ガシャドクロのHPは遂に0になった。


 (今の感じ、ラストアタックは宵闇さんが取ったっぽいけどどうだろう?)


 そんな疑問を抱いていると、鬼童丸の耳にシステムメッセージが届く。


『鬼童丸がLv69からLv71まで成長しました』


『鬼童丸が称号<調布市長>を獲得しました』


『鬼童丸の称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並・武蔵野・三鷹)>と称号<調布市長>が称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並・武蔵野・三鷹・調布)>に統合されました』


『ドラクールがLv1からLv6まで成長しました』


『アビスライダーがLv4からLv8まで成長しました』


『リビングバルドがLv72からLv75(MAX)まで成長しました』


『鬼童丸が称号<掃除屋殺し>を保持した状態でリビングバルドがレベル上限に達したため、リビングバルドがリビングフォールンに特殊進化しました』


『リビングフォールンが【能力封印アビリティシール】を会得しました』


『レギマンダーがLv72からLv75(MAX)まで成長しました』


『鬼童丸が称号<掃除屋殺し>を保持した状態でレギマンダーがレベル上限に達したため、レギマンダーがレギネクスに特殊進化しました』


『レギネクスが【代償回復ペイヒール】を会得しました』


『フロストヴィークルがLv60からLv70まで成長しました』


『フロストヴィークルの【氷武装アイスアームズ】が【氷結武装フリーズアームズ】に上書きされました』


『ヨモミーナがLv58からLv68まで成長しました』


『ヨモミーナの【憎悪強奪ヘイトスティール】が【憎悪付替ヘイトリプレイス】に上書きされました』


『スッカランを50枚とチートディーラー、ガシャドクロを1枚ずつ手に入れました』


『調布市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、調布市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (うん? なんでガシャドクロが? いや、それは後回しだ)


 ラストアタックは宵闇ヤミだったように思ったけれど、どういう訳かガシャドクロのカードが手に入ったので首を傾げたが、鬼童丸にはそれよりも先に確認すべきことが他にあった。


 それは進化したリビングフォールンとレギネクスだ。


 リビングフォールンは堕天使アイドルの幽霊と呼ぶべき見た目で、今までは目隠ししていた顔も遂に解禁された。


 (なんとなくだけど、デビーラがリビングフォールンを見たら悔しがる気がする)


 リビングフォールンの外見は新人戦の司会を務めたデビーラを大人っぽく成長させたみたいだから、鬼童丸はデビーラがリビングフォールンを嫉妬の眼差しで見るのではないかと思った。



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種族:リビングフォールン Lv:1/100

-----------------------------------------

HP:6,000/6,000 MP:6,000/6,000

STR:6,000(+200) VIT:6,000

DEX:6,100(+200) AGI:6,000

INT:6,000 LUK:6,100

-----------------------------------------

アビリティ:【破壊蹴撃デストロイシュート】【栄光舞踏グロリアダンス

      【魅了舞踏チャームダンス】【暗黒応援ダークネスエール

      【遅延円陣ディレイサークル】【能力封印アビリティシール】 

装備:フォールンクロス

   ダムネブーツ

備考:なし

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 ステータスを見てみると、リビングフォールンのアビリティ欄に新しく【能力封印アビリティシール】が追加されている。


 その効果だが、任意のアンデッドモンスターを戦闘が終わるまでアビリティ封印状態にするというものだった。


 強力なアビリティである分、消費MPは多いので使うタイミングの見極めが重要と言えよう。


 続いてレギネクスだが、サラマンダーの幽霊からフェニックスの幽霊に変わった。



-----------------------------------------

種族:レギネクス Lv:1/100

-----------------------------------------

HP:6,000/6,000 MP:6,100/6,100

STR:6,000 VIT:6,000

DEX:6,000 AGI:6,000

INT:6,100 LUK:6,000

-----------------------------------------

アビリティ:【死体爆発ネクロエクスプロージョン】【緋霊降雨スカーレットレイン

      【呪纏緋炎カーススカーレット】【炎吸収フレイムドレイン

      【爆轟空間デトネスペース】【代償回復ペイヒール】 

装備:なし

備考:なし

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 ステータスをチェックしてみたところ、レギネクスのアビリティには【代償回復ペイヒール】が加わっている。


 その効果は、HPが0になった時に経験値を捧げることで全回復した状態で復活するというものだった。


 従魔を復活する手段が確立されていない今、経験値なんてまた稼げば良いのだから貴重なアビリティだと考えられる。


 それ以外の従魔については、フロストヴィークルが【氷武装アイスアームズ】の上位互換である【氷結武装フリーズアームズ】を会得しただけでなく、ヨモミーナの【憎悪強奪ヘイトスティール】が【憎悪付替ヘイトリプレイス】に上書きされた。


 【憎悪強奪ヘイトスティール】は他の従魔の稼いだヘイトを自分が奪うだけだったが、【憎悪付替ヘイトリプレイス】はその場にいるアンデッドモンスターのヘイトを調整できるから、ヘイト管理の自由度が上がった訳だ。


 これにより、ヨモミーナはアビスライダーから適度にヘイトをいただいて安全にMP回復できるようになった。


 さて、従魔の確認が一通り終わったところで、鬼童丸は先程からそわそわしている宵闇ヤミに話しかける。


「宵闇さん、ガシャドクロのカードはゲットできた?」


「うん! 良いでしょ~? ドヤァ」


「ごめん、俺も貰ったわ」


「なんで!?」


 鬼童丸がガシャドクロのカードを見せたら、ドヤ顔だった宵闇ヤミはびっくりして目を見開いた。


 その様子がおかしくて笑いつつ、鬼童丸は自分の推測を宵闇ヤミに告げる。


「多分、掃除屋のカードはレイドの貢献度1位とラストアタッカーに与えられるんだ。前回はどっちも俺だったから1枚しか手に入んなかった。そういうことなんだろうよ」


「なるほどね…。クッ、鬼童丸さんに勝ったと思ったのに」


「高過ぎる壁でごめんね」


「許せねえ! 許せねえよなぁ!」


 ポカポカと鬼童丸を叩く宵闇ヤミを見て、配信のコメント欄ではヤミんちゅ達がまたイチャイチャし始めたかと生暖かく見守った。


 そして、検証班に根掘り葉掘り聞かれる前に鬼童丸達は撤収した。

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