第64話 祭囃子の音が聞こえたぜ!

 新人戦の予選で登場した掃除屋のフレッシュゴーレムが現れ、事態は割とカオスな状況になってしまった。


 (邪魔者はさっさと倒す)


 いち早く立ち直ったのは鬼童丸であり、短期決戦を意識したセットコマンドを発動した。


 リビングバルドの【偉大舞踏グレートダンス】で味方全体へのバフと敵全体デバフをかけた後、デスライダーの【絶望放気ディスペアオーラ】で更にデバフをかける。


 続いてアッシュレックスが【呪渇灰カースアッシュ】でデッドトレントの水分を奪ってから、レギマンダーの【赤霊降雨レッドレイン】とヨモミーナの【髪弾乱射ヘアガトリング】で範囲攻撃をすれば、デッドトレントに大ダメージを与えると共にデッドツリーの大群が一気に倒れていく。


 最後にフロストヴィークルの【呪氷結棺フリーズコフィン】でカサカサになったデッドトレントを氷漬けにしたら、ドラピールが【深淵砲アビスバースト】でその氷を砕いてデッドトレントの討伐に成功する。


 その時には宵闇ヤミもヴァルキリーも頭を切り替えており、フレッシュゴーレム迎撃戦を始めていた。


 1つのセットコマンドだけを使い、エリアのボスとその取り巻きを倒してしまった鬼童丸に思うところはあったけれど、その気持ちを鬼童丸にぶつけるよりも先にフレッシュゴーレムをどうにかしなければならない。


 今までの戦闘で鬼童丸が大きく活躍したため、少しでも自分が活躍しないと何も称号を貰えないかもしれないと判断し、少しでもフレッシュゴーレムにダメージを入れることを優先したのだ。


 どちらもセットコマンドを使って攻撃したのだが、鬼童丸のリビングバルドとデスライダーのデバフ効果が入ってなお、フレッシュゴーレムが受けたダメージは1割に届くかどうかだった。


「生肉の癖に硬い」


「鬼童丸のデバフがあってこれは酷いなぁ」


 プレイヤー側全体が1回は攻撃したところで、フレッシュゴーレムが大きく跳躍して着地した際に衝撃波が生じる。


 これは【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】というアビリティであり、物理系全体攻撃だから実体を持って地に足を着けているアンデッドモンスターにダメージが入る。


 広範囲に等しくダメージを与えるから、デスライダーの【引力体グラビボディ】があろうとなかろうと関係ない。


 (一撃のダメージがデカいんよ)


 鬼童丸の従魔でダメージを受けたのは、デスライダーとフロストヴィークル、アッシュレックス、ヨモミーナだ。


 レベルが低いモンスター程ダメージを受けており、一番弱いヨモミーナは4割以上ダメージを受けてしまった。


 ついでに言えば、フレッシュゴーレムの【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】で美術館の破損率が20%まで上がってしまった。


 この調子で4回【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】を使われたら、美術館が倒壊して生存者達は生き埋めになってしまう。


「場所を変える。2人共ついて来い」


「「了解!」」


 鬼童丸はフロストヴィークルを【乗物変型ヴィークルチェンジ】でヘリコプターに変形させ、ヨモミーナにはデスライダーに【憎悪強奪ヘイトスティール】を使わせて共にフロストヴィークルに乗せる。


 フロストヴィークルとヨモミーナ以外の従魔を一旦送還し、鬼童丸達は空を移動して暴れても良さそうな場所に移動する。


 当然、デスライダーが稼いでいたヘイトを全てヨモミーナが奪ったから、フレッシュゴーレムが狙うのはヨモミーナである。


 ヨモミーナの乗るフロストヴィークルを狙って移動するから、これでフレッシュゴーレムは美術館を狙わずに鬼童丸達を追いかけて来る。


 仙川平和公園が戦う場所として丁度良さそうだと思っていたから、鬼童丸達はそこに向かう。


 ところが、そこには先客がいた。


「あそこにいるのって害悪ネクロマンサーじゃない?」


「あんな所にいたのか。もう面倒だしフレッシュゴーレムに踏みつぶしてもらうか」


「良いんじゃない?」


 宵闇ヤミが最初に害悪ネクロマンサーの存在に気づき、鬼童丸がそれを聞いてフレッシュゴーレムに害悪ネクロマンサーを処理させることを提案したところ、ヴァルキリーは異議なしと答えた。


 無論、鬼童丸の提案に宵闇ヤミも反対するつもりはなかったから、鬼童丸は満場一致ということでフロストヴィークルを害悪ネクロマンサーの頭上を通過するように進ませ、フレッシュゴーレムに害悪ネクロマンサーと対面させた。


「おいおいおいおい! なんでこんなとこにヤベえアンデッドモンスターがいるんだよ! ザッケンナコラー! 召喚サモン:オール!」


 害悪ネクロマンサーはトロールゾンビを3体召喚してフレッシュゴーレムに立ち向かおうとしたが、その3体を敵とみなしたフレッシュゴーレムが【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】を使ったことで一掃された。


 使役していたトロールゾンビ3体が一掃され、精神的ショックが大き過ぎて害悪ネクロマンサーはその場で泡を吹いて気絶した。


「これで邪魔者が1人減った。後はあいつだけだ。召喚サモン:ドラピール! 召喚サモン:デスライダー! 召喚サモン:リビングバルド! 召喚サモン:レギマンダー!」


 フレッシュゴーレムと戦うにあたり、【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】を躱せる従魔を召喚してヨモミーナは送還した。


 デスライダーは先程【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】を喰らってしまったが、【霊化ゴーストアウト】を使えば【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】はやり過ごせる。


 ヴァルキリーは鬼童丸と同様に【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】が効かない従魔だけを出すことにしたため、ヘルグリモアとトーチホークだけ召喚する。


 その一方、宵闇ヤミは全体召喚していた。


 宵闇ヤミの場合、霊体のアンデッドモンスターや飛んで戦えるモンスターが少ないからダメージ覚悟なのである。


「デスライダー、【霊化ゴーストアウト】」


 【引力体グラビボディ】でヘイトを稼いでフレッシュゴーレムのターゲットになったから、鬼童丸はデスライダーに【霊化ゴーストアウト】を使わせた。


 戦うべき敵が多くて鬱陶しく感じたようで、フレッシュゴーレムは【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】を発動する。


「レギマンダー、【爆轟空間デトネスペース】」


 差し込むようにレギマンダーの【爆轟空間デトネスペース】が発動し、フレッシュゴーレムにダメージを与えて怯ませて【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】をキャンセルさせた。


「ドラピール、フレッシュゴーレムの顎に【破壊打撃デストロイストライク】だ!」


 鬼童丸が怯んだフレッシュゴーレムをひっくり返そうとドラピールに指示を出せば、ドラピールは期待に応えてフレッシュゴーレムの顎下にアッパー気味に【破壊打撃デストロイストライク】を発動した。


 それにより、バランスを崩したフレッシュゴーレムが背中から倒れてダウンし、追撃可能状態になる。


「追撃行くぞ!」


「「了解!」」


 鬼童丸の合図に宵闇ヤミとヴァルキリーが応じ、3人全員が追撃のボタンを押して総攻撃を行う。


 結果として、フレッシュゴーレムの体力が残り7割になる。


 まだまだ先は長そうだと思った時、戦場に援軍がやって来る。


「祭囃子の音が聞こえたぜ!」


「検証班もデータを取るべく参戦します」


 この場に来たのはリバースとジョブホッパー率いる検証班だった。


 残念ながらきたくぶちょーはいないけれど、これで東京エリアにいるであろう戦えるメンバーは集結したと考えて良い。


 フレッシュゴーレムは掃除屋であり、本来はこのように多くのプレイヤーが集まって戦うことを想定していたアンデッドモンスターだ。


 それゆえ、それぞれの与えるダメージが小さくとも塵も積もれば山となり、フレッシュゴーレムのHPはガリガリと削れて行く。


 途中でフレッシュゴーレムの体から蒸気が吹き出す【融蒸気メルトスチーム】を喰らい、その蒸気に触れたアンデッドモンスターはVITが1割下げられた上にダメージも受けた。


 【融蒸気メルトスチーム】で弱ったところに【巨大踏撃ジャイアントスタンプ】は最悪の攻撃で、検証班の何人かは従魔を倒されてしまった。


 その後も残りHPが減るにつれ、フレッシュゴーレムの反撃は激しくなったが一気にHPを削れるラインまでやって来た。


「そろそろ終わりにしよう」


 そう言って鬼童丸がセットコマンドを使い、最大火力の攻撃を放てばドラピールの【深淵砲アビスバースト】がとどめになってフレッシュゴーレムのHPが尽きた。


『鬼童丸がLv64からLv67まで成長しました』


『鬼童丸が称号<三鷹市長>を獲得しました』


『鬼童丸の称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並・武蔵野)>と称号<三鷹市長>が称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並・武蔵野・三鷹)>に統合されました』


『鬼童丸が称号<掃除屋殺し>を獲得しました』


『ドラピールがLv66からLv72まで成長しました』


『ドラピールの【暗黒回復ダークネスヒール】が【深淵回復アビスヒール】に上書きされました』


『デスライダーがLv64からLv70まで成長しました』


『デスライダーの【霊化ゴーストアウト】と【引力体グラビボディ】が【磁霊化マグネストアウト】に統合されました』


『デスライダーが【呪雷撃カースサンダー】を会得しました』


『リビングバルドがLv62からLv68まで成長しました』


『リビングバルドの【偉大舞踏グレートダンス】が【栄光舞踏グロリアダンス】に上書きされました』


『レギマンダーがLv62からLv68まで成長しました』


『レギマンダーの【赤霊降雨レッドレイン】が【緋霊降雨スカーレットレイン】に上書きされました』


『フロストヴィークルがLv40からLv50まで成長しました』


『フロストヴィークルの【硬化突撃ハードブリッツ】が【剛力突撃メガトンブリッツ】に上書きされました』


『アッシュレックスがLv38からLv48まで成長しました』


『アッシュレックスの【剛力突撃メガトンブリッツ】が【破壊突撃デストロイブリッツ】に上書きされました』


『ヨモミーナがLv34からLv46まで成長しました』


『ヨモミーナの【呪髪操作ヘアコントロール】と【髪弾乱射ヘアガトリング】、【呪髪再生ヘアリジェネ】が【呪髪支配ヘアイズマイン】に上書きされました』


『ヨモミーナが【興奮霧エキサイトミスト】と【沈黙霧サイレントミスト】を会得しました』


『デッドツリーを50枚とトロールゾンビ3枚、デッドトレントとフレッシュゴーレムを1枚ずつ手に入れました』


『三鷹市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、三鷹市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (わかってたことだけど、イベントバトル3つ一気にやるとシステムメッセージの量がヤバい)


 システムメッセージが鳴り止んだ時、鬼童丸は少しぐったりしていた。

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