第63話 アンデッド萌えのヤミンチュ達の霊圧が…消えた…?
三鷹市に到着した鬼童丸達だが、今までのエリアとは違ってデッドツリーが大量発生していた。
「緑と水の公園都市がデッドツリーで溢れるとはね」
「ヤミ的には人気なあの美術館がどうなったか気になるかも」
「それは言えてる。当てもないし、ここを片付けたら行ってみるか」
「うん」
大量発生しているデッドツリーを無視して先に進むのは危険だから、鬼童丸達はフロストヴィークルから降りて他の従魔達を一斉召喚する。
「「
全ての従魔が出揃ったところで、乱戦モードの今はとにかく最大火力のセットコマンドを実行し、デッドツリーを駆逐していく。
「こんなにしつこいデッドツリーがほーらほら、サクサク倒せてるよ~」
「宵闇さん、いつから通販番組を始めたんだい?」
「そのフリをするってことは、鬼童丸さんも某社長の真似をしてくれるってこと?」
「しないよ」
「そんなぁ」
鬼童丸と宵闇ヤミは和やかに話しているけれど、これは強者の身に許された余裕である。
デッドツリーがわんさといるということは、倒し切れない個体がいるとデッドツリーのカードが生き残ったデッドツリーの果実として現れ、それがリスポーンするから永遠にデッドツリーが現れてしまう。
その厄介なデッドツリーを確実に倒し切るだけの力があるから、鬼童丸達は三鷹市での入口での戦闘をあっさりと終えることができた訳だ。
大量発生と表現できるぐらいにはデッドツリーが放置されており、そのレベルも40オーバーだったことから2人のプレイヤーが戦ったとしても経験値もそれなりに多く入る。
『鬼童丸がLv62に到達しました』
『ドラピールがLv60からLv62まで成長しました』
『デスライダーがLv58からLv60まで成長しました』
『リビングバルドがLv56からLv58まで成長しました』
『レギマンダーがLv56からLv58まで成長しました』
『フロストヴィークルがLv26からLv32まで成長しました』
『アッシュレックスがLv24からLv30まで成長しました』
『ヨモミーナがLv10からLv20まで成長しました』
『デッドツリーを100枚手に入れました』
レベルが低いモンスター程次のレベルまでに必要な経験値量が少ないから、フロストヴィークルとアッシュレックス、ヨモミーナが一気にレベルアップした。
鬼童丸の従魔にヨモミーナという女型アンデッドモンスターが増えていたため、宵闇ヤミは鬼童丸をジト目で見る。
「鬼童丸さんって女型のアンデッドモンスターを増やしがちだよね。アンデッドハーレムを作りたいの?」
「偶然だ。それに明確に女型ってわかるのってドラピールとリビングバルド、ヨモミーナだけだろ」
「ヤミンちゅ達は自分の従魔に女型なんて1体もいないって血涙を流してるよ?」
「知らんがな。そんなに女型のアンデッドモンスターが欲しいなら、女性の骨格のスケルトンとか女性のゾンビとか女性の幽霊を使役して進化させれば良いんじゃないの?」
「アンデッド萌えのヤミンチュ達の霊圧が…消えた…?」
先程まで鬼童丸に血涙を流して抗議していたヤミんちゅ達は、コメント欄からパタリと消えた。
どうやら鬼童丸に言われたことを実践するつもりのようだ。
「男って本当に単純だねー。すぐに女の子を侍らせようとするんだから」
「語弊のある言い方をするんじゃないよ。そもそも、俺の従魔は実力重視だから女型じゃなきゃ採用しないって訳じゃない。加えてメタいことを言うのなら、デーモンズソフトがプレイヤーを獲得するために女型のビジュアルが良いアンデッドモンスターを複数用意したんだろ」
「おー、めっちゃ現実に戻されたわ。なるほどね、それは言えてるや」
フロストヴィークル以外の従魔を送還し、鬼童丸と宵闇ヤミはファンの多い美術館を目指して進んで行く。
進む度にデッドツリーの群れがいて、倒しては進みを繰り返すと目的地に着いた時には鬼童丸のレベルが64まで上がり、ドラピールがLv66、デスライダーがLv64、リビングバルドとレギマンダーがLv62、フロストヴィークルがLv40、アッシュレックスがLv38、ヨモミーナがLv34までレベルアップした。
「鬼童丸さん、あそこ見て。美術館が巨大なデッドツリーに取り込まれてる」
「あれはデッドツリーじゃない。デッドトレントだ。デッドツリーの進化した姿だろうよ」
フロストヴィークルから降り、宵闇ヤミが視覚的情報から巨大なデッドツリーと告げたアンデッドモンスターの正体は、鬼童丸がチェックしたところデッドトレントだった。
「あれ、もしかして害悪ネクロマンサーを無視して来ちゃったかな?」
「近くにいないってことはそうなのかもしれん」
「ちょぉっと待ったぁぁぁ!」
いつも害悪ネクロマンサーを地獄行きにさせた後、そのエリアにいる生存者が立て籠もる施設に向かっていた。
しかし、今日に限って言えば宵闇ヤミが気になる場所を優先して向かったから、シナリオガン無視な訳である。
そこに待ったをかける声が聞こえる。
振り返ってみればそこにいたのはヴァルキリーだった。
「なんだヴァルキリーか」
「今回は光の壁に遮られたくないからね。声をかけさせてもらったわ」
「あー、文京区の時ってリバースと一緒にハブられてたっけ」
「言い方ァ!」
鬼童丸が容赦ない発言をすれば、ヴァルキリーがそれはないだろうとツッコんだ。
鬼童丸とヴァルキリーが楽しそうに話していると、宵闇ヤミの目からハイライトが消える。
「鬼童丸さん、今はヤミとのコラボ配信中だよね?」
声に圧がかかっていることを感じ取り、ヤミんちゅ達はコメント欄で「修羅場だ」とか「きちゃ」と軽くお祭り騒ぎになっている。
現在配信を見ているヤミんちゅ達の中には愉悦勢もそこそこいて、鬼童丸が修羅場な状況を楽しんでいるのだ。
「まあまあ。これは俺と宵闇さんだけのゲームじゃないんだから」
「ごめんねぇ。リアルだけでなくゲームでも鬼童丸と私が一緒にいたら宵闇さんが鬼童丸と一緒にいられないか。でも、何処にも行かないけど」
「おい、ヴァルキリー。わざと喧嘩を売るんじゃない」
リアルのことを持ち出すのはよろしくないから、鬼童丸はヴァルキリーに対して言外にそれ以上喋るなと告げた。
ヴァルキリーだって鬼童丸を見つけたから、宵闇ヤミに独り占めされるのは嫌なのでここに混ざったし、うっかりリアルでも会っているなんてマウントを取った。
ちなみに、ヴァルキリーは鬼童丸と宵闇ヤミのそれぞれの中身が高校時代の同級生だったとは知らない。
その一方、折角邪魔者のいないコラボ配信だと思ったら、乱入して来たヴァルキリーに鬼童丸との時間を奪われてしまうのではと焦り、宵闇ヤミも目のハイライトが消えたまま鬼童丸の手を握っている。
ヴァルキリーと違って自分は鬼童丸のリアルの家を知っているし、その中に入ったこともあると言いたかったが自分の発言で鬼童丸に誹謗中傷が集まってはいけないと踏み止まるだけの理性は残っているようだ。
宵闇ヤミとヴァルキリーが睨み合っているが、その向こうにいるデッドトレントが動き始めた。
「話の途中で悪いけど、デッドトレントが来るぞ」
ヤミんちゅ達の中には、鬼童丸がこの空気の中でゲームを続ける気満々であることに戦慄したコメントもあったが、そもそもUDSをプレイしている以上リアルの事情はゲームをすることより優先されることはないので鬼童丸が正しいとコメントする者もいた。
大量のデッドトレントの果実が地面に落ちた時、デッドツリーの群れが現れて乱戦モードが始まる。
「「「
戦闘が始まってしまえばそちらが優先なので、鬼童丸と宵闇ヤミ、ヴァルキリーが出せる従魔全てを出してみせた。
「乱戦モードなら早い者勝ちってことでおけ?」
「勿論」
「おけ!」
新人戦の上位陣が集まって戦うということは、デッドトレントとデッドツリーの大群がいてもあっという間に終わってしまうのではないかと誰もが思ったその時、予想外の事態が起きる。
『掃除屋フレッシュゴーレムが三鷹市に現れました』
「「「え?」」」
ワールドアナウンスが聞こえたその直後に、デッドトレントの陰からフレッシュゴーレムが現れて鬼童丸達の目がキョトンとした。
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