第60話 私、ヤミさん。今、鬼童丸さんの後ろにいるの

 タナトスが去った後、鬼童丸はLv60に到達して7体目の従魔を使役できるようになったから、今手持ちのモンスターカードで融合アンデッドを誕生させられないか調べ始める。


 いくつもの組み合わせの中で、鬼童丸がこれはという組み合わせを見つけて融合フュージョンを実行してみる。


 鬼童丸が融合フュージョンの素材に選んだのは、アンデッドディスコで手に入れたラメントアイドルと先程手に入れたヨモツシコメだ。


 この2種のアンデッドモンスターのカードが合体するエフェクトが発生し、新たな融合アンデッドが誕生する。


召喚サモン:ヨモミーナ」


 召喚されたヨモミーナだが、その見た目はアイドル衣装を着たヨモツシコメである。


 (こいつはまたインパクトが強いな)


 そう思いつつも鬼童丸はヨモミーナのステータスを確認する。



-----------------------------------------

種族:ヨモミーナ Lv:1/75

-----------------------------------------

HP:2,400/2,400 MP:2,400/2,400

STR:2,300 VIT:2,300

DEX:2,300 AGI:2,300

INT:2,200 LUK:2,200

-----------------------------------------

アビリティ:【呪髪操作ヘアコントロール】【髪弾乱射ヘアガトリング

      【呪髪回復ヘアヒール】【憎魔変換ヘイトイズマナ

      【憎悪強奪ヘイトスティール

装備:アイドルクロス

備考:なし

-----------------------------------------



 (普通ならアイドルとヨモツシコメは結び付かない。デーモンズソフトはぶっ飛んでるね)


 どちらかというとキラキラした印象のアイドルという要素は、陰気臭いイメージのあるヨモツシコメとマッチしないように思う。


 それがそうならないように調和させているあたり、デーモンズソフトのUDSへの力の入れようには驚かされる鬼童丸だった。


 ヨモミーナのステータスチェックも済ませたら、ドラピールだけ残して他の従魔を送還して武蔵野プレイスに向かう。


 武蔵野プレイスに向かう途中にアンデッドモンスターはおらず、害悪ネクロマンサーのアキヨがヘルストーンを使うために多くのアンデッドモンスターを犠牲にしたことがわかった。


 到着した武蔵野プレイスの周囲には、目が死んでいる巨大な金魚の幽霊と鰯の幽霊の群れがぐるぐる泳いでいた。


 (デメムーストとサーディストアーミーか。空を泳ぐ魚の幽霊ってのは不思議な感じだ)


 骨だけの魚が水場に出てくるかもしれないとは思っていたが、まさか魚の幽霊が出て来るとは思っていなかったから、鬼童丸はそう来たかと静かに驚いた。


 とは言っても驚いてぼうっとする訳にもいかず、すぐに戦闘態勢に移る。


召喚サモン:デスライダー! 召喚サモン:リビングバルド! 召喚サモン:レギマンダー! 召喚サモン:ヨモミーナ!」


 鬼童丸は全ての従魔を召喚すると経験値が分散されてしまうから、ここでの戦闘において必要最低限のメンバーを召喚してターン制の戦闘に挑む。


 サーディストアーミーは群体型のアンデッドモンスターであり、ゲームのシステム上1体として扱われるから乱戦モードではなくターン制の戦闘になるのだ。


「リビングバルドは【偉大舞踏グレートダンス】。デスライダーは【絶望放気ディスペアオーラ】。レギマンダーは【死体爆発ネクロエクスプロージョン】」


 まずは下準備が必要だから、鬼童丸はリビングバルドに味方へのバフと敵へのデバフをかけさせる。


 更にデスライダーの【絶望放気ディスペアオーラ】により、能力値合計の差があればある程、追い打ちをかけるようにデバフがかかる。


 具体的には、能力値が100開く度に5%ずつHPとMPを除く能力値が下がる。


 リビングバルドの【偉大舞踏グレートダンス】の後で使うことにより、デスライダーの【絶望放気ディスペアオーラ】の効果が増幅された訳だ。


 それから、群体型ならばそれぞれのHPは少ないと判断し、レギマンダーの【死体爆発ネクロエクスプロージョン】でサーディストアーミー全体を爆発で包み込んだ。


 その結果、鬼童丸の読みが当たって一撃でサーディストアーミーは力尽き、残るはデメムーストのみになった。


「ドラピール、【深淵砲アビスバースト】!」


 【暗黒砲ダークネスバースト】よりも威力の強い【深淵砲アビスバースト】を使い、ドラピールの装備も鬼竜牙棍から怒龍棍ヴラドに変えたこと、バフとデバフが重なったことにより、ドラピールの一撃でデメムーストは力尽きた。


 (ここまで圧倒的な差になるとはな)


 一気にどれだけダメージを与えられるかと思ったら、一撃必殺の結果になって鬼童丸はびっくりした。


 そのすぐ後にシステムメッセージが鬼童丸の耳に届く。


『鬼童丸がLv61に到達しました』


『鬼童丸の称号<武蔵野の主>が称号<武蔵野市長>に上書きされました』


『鬼童丸の称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並)>と称号<武蔵野市長>が称号<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並・武蔵野)>に統合されました』


『ドラピールがLv58からLv60まで成長しました』


『デスライダーがLv56からLv58まで成長しました』


『リビングバルドがLv54からLv56まで成長しました』


『レギマンダーがLv54からLv56まで成長しました』


『ヨモミーナがLv1からLv10まで成長しました』


『ヨモミーナの【呪髪回復ヘアヒール】が【呪髪再生ヘアリジェネ】に上書きされました』


『デメムーストとサーディストアーミーを1枚ずつ手に入れました』


『武蔵野市にいる野生のアンデッドモンスターが全滅したことにより、武蔵野市全体が安全地帯になりました』


『安全じゃない近隣地域のNPCが避難して来るようになります』


 (おぉ、一気にクリアじゃん)


 鬼童丸はシステムメッセージを聞き、武蔵野市の統治権を得ただけでなく武蔵野市を安全地帯にできてすっきりした気持ちになった。


 この場が安全地帯になったことにより、武蔵野プレイスから生き残ったNPC達がやって来て鬼童丸に感謝を告げた。


 タナトスがやって来て、転移魔法陣を設置してくれた後に鬼童丸のフレンドリストのフレンドコールの通知が出る。


 別に出られないタイミングでもなかったから、鬼童丸はフレンドコールに応じる。


「もしもし?」


『私、ヤミさん。今、墨田区にいるの』


 プツリとフレンドコールが切れたけれど、すぐにまたフレンドコールの通知が表示される。


「もしもし?」


『私、ヤミさん。今、文京区にいるの』


 フレンドコールがプツリと切れ、流石に宵闇ヤミが何をしたいのか鬼童丸は察した。


「もしもし?」


『私、ヤミさん、今、武蔵野市にいるの』


 それだけ言ってフレンドコールが切れたため、鬼童丸は武蔵野プレイスの外に出て空を見上げる。


 高速で場所を移動できるということは、ぎりぎりまで拠点の転移魔法陣を使って近づき、そこから空を飛ぶ手段で武蔵野市まで飛んで来たと考えたからだ。


 そう思った時、またしてもフレンドコールの通知が表示される。


「私、ヤミさん。今、鬼童丸さんの後ろにいるの」


 鬼童丸は後ろを見ると確かに宵闇ヤミがおり、鬼童丸の驚いた顔を見られてとても嬉しそうにしている。


「宵闇さん、どうやってここに? 途中までは拠点の転移魔法陣を使ったと思うんだけど」


「正解。スニーキング逆凸に成功したのはこの従魔のおかげだよ。召喚サモン:トリックウィスプ」


 そう言って宵闇ヤミが召喚したのは、ピエロの顔っぽい人魂であった。


 トリックウィスプの見た目からして、通常の戦闘とは違うところで実力を発揮しそうである。


「どんなアビリティで瞬間移動したんだ?」


「【座標交換シャッフル】ってアビリティだよ。移動中に使えば座標Aにいる自分と座標Bにある物体の位置を入れ替えられるの」


「その移動性能はゲームバランスバグってない?」


「座標の交換範囲も限定されてて、フレンド登録したプレイヤーの近くには移動できるけど、そうじゃなければ一度も行ったことのない場所や視界に映らない座標には移動できないの」


「なるほど、移動先は限定されてるのか」


「そゆこと」


 宵闇ヤミの説明を聞き、鬼童丸は自分を驚かせるためだけにトリックウィスプを使役してるんじゃないかと思ったが、配信者ならそういった進行効率を無視した遊び方もありだと感じたのでジト目にはならなかった。


 それはそれとして、鬼童丸は宵闇ヤミの進捗が気になって訊ねてみる。


「ところで、墨田区は統治できたの?」


「できたよ。<奮闘女男爵(文京・荒川・台東・墨田)>を獲得したの。その時に倒したアンデッドモンスターとガチャで手に入れたアンデッドモンスターを融合フュージョンしたら、トリックウィスプになったんだよね。それで鬼童丸さんにメリーさんネタを試してみたの」


「その行動力は評価するよ」


 この後、鬼童丸は宵闇ヤミの配信に付き合うことになって配信終了まで雑談するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る