第58話 親方、空から鬼童丸が!

 桔梗が自宅に帰った後、久遠は夕食を簡単に用意してから寝る前の準備を済ませ、そこからUDSに鬼童丸としてログインする。


 朝は本編で遊べずにアンデッドディスコをプレイしたが、今はもう本編のアップデートが終わったから本編のプレイを始める。


 拠点の都庁でゲームを再開したところ、タナトスが鬼童丸の正面にいて話しかけて来る。


「鬼童丸、よくやった。新人戦で優勝したそうだな」


「知ってたのか。情報が早いな」


「弟子が大会でどんな結果を残したのか気にならない師匠はいない。優勝したと聞いて私も鼻が高いぞ。まあ、それは置いておくとして、専用武装交換チケットを貰ったのだろう? 早速使ったらどうだ?」


「それも知ってるのか。じゃあ、ショップを見せてもらおうかな」


 タナトスに促され、鬼童丸はショップから専用武装交換チケットで交換できる武装一覧を確認してみる。



○専用武装

 ・ドラピール専用武装:怒竜棍どりゅうこんヴラド

 ・デスライダー専用武装:騒怨剣そうおんけんソウウツ

 ・リビングバルド専用武装:艶美衣えんびいプリマ

 ・レギマンダー専用武装:爆撃魔ばくげきまエンドレス

 ・フロストヴィークル専用武装:薄氷剣はくひょうけんレイテツ

 ・アッシュレックス専用武装:呪渇爪じゅかっそうサストサースト



 (1つしか交換できないのが残念だな)


 専用武装交換チケットは1枚しかないから、交換できる専用武装は1つだけだ。


 そうであるならば、鬼童丸が交換する専用武装は決まっている。


「タナトス、このチケットは怒竜棍ヴラドと交換する」


「わかった」


 タナトスは鬼童丸から専用武装交換チケットを受け取り、怒竜棍ヴラドと交換した。


 その瞬間、強制的にドラピールの怒竜棍ヴラドが鬼竜牙棍と交換される。


 怒竜棍ヴラドの見た目は竜の頭部が先端にあるメイスであり、その機能は2つある。


 1つ目はドラピールのSTRとINTを300ずつ上昇させることで、2つ目は攻撃によって与えたダメージの5%分だけ敵にダメージが追加されることだ。


 鬼竜牙棍がSTRとINTを100ずつ上昇させるだけの性能だったことを考えると、かなりアップグレードされたと言えよう。


 ドラピールの強化が終わった時、鬼童丸のフレンドリストに通知が入った。


 その通知とは、検証班のジョブホッパーが取材をさせてほしいというメッセージだった。


 新人戦の時にフレンド登録したため、鬼童丸はジョブホッパーとメッセージのやり取りができる。


 逆に言えば、鬼童丸はジョブホッパーと繋がったため、他の検証班から煩わされることもなくなった。


 どこかのタイミングで時間を取るとジョブホッパーに言っていたため、鬼童丸はこのタイミングでその約束を果たすことにした。


 こういう話はさっさと済ませてしまうのが鬼童丸のスタンスなのだ。


 港区の拠点は東京タワーであり、鬼童丸は東京タワーに招待された。


召喚サモン:ドラピール」


 ドラピールを召喚した鬼童丸は、空から港区の東京タワーに向かって出発した。


 鬼童丸が空からやって来た時、港区にいる検証班は衝撃を隠せなかった。


「親方、空から鬼童丸が!」


「まさかここまでとは…」


 ドラピールが空を飛べることは知っていたが、鬼童丸を抱えたままエリアを跨いで飛べるとは思っていなかったため、検証班のメンバーから呼び出されたジョブホッパーの表情は引き攣っていた。


 着陸したドラピールは鬼童丸を地面に立たせ、それから鬼童丸のボディーガードのように同行する。


「早い到着だったね、鬼童丸さん」


「まあね。タスクは寝かせず積み上げずサクサク片してく方針なもんで」


「それは良い方針だね。タスクが積み上がると気分が滅入る。じゃあ、早速色々と話を訊かせてもらいたい。立ち話では失礼だから、こちらに来てほしい」


 ジョブホッパーに案内され、鬼童丸は東京タワーに用意された応接室に移動した。


 ここはジョブホッパーを含む検証班が取材したいプレイヤーを招き、話をするために用意されたのだ。


 応接室にはテーブルを挟んで向かい合うようにソファーが並べられており、鬼童丸とジョブホッパーが向かい合って座る。


 ドラピールは何があってもすぐ対応できるように立っており、ボディーガードとしての振舞いは続行するようだ。


「そんなに警戒しなくとも何もするつもりはないんだがね」


「まあ、ジョブホッパーはそうかもしれないけど、その仲間がそうとは限らないからな。検証班って言っても、UDSでギルドやクランを設立できる訳じゃない。あくまで有志の集団だから、この前の偽者騒動みたいな何かが起こらないとも限らん」


「その件は本当に申し訳なかった。我々の活動を利用し、新人戦で名を上げようとした不届き者達はちゃんと我々が予選で潰してケジメはつけた。鬼童丸さんにちょっかいを賭けたのはパッパラーとフェイクスというプレイヤーだったよ」


「ケジメは大事だ。今後も検証班が他のプレイヤーから受け入れられる集団であり続けるためにはね」


 これで情報を広く伝えるため、情報収集の協力を周囲に強要するようならば検証班は一種の自治厨になってしまう。


 あくまでUDSの謎を解き明かすことを目的とし、必要に応じて情報を自分達以外と情報の共有あるいは売買をするから目的が一致した時に協力しようというプレイヤーが現れる。


 無理矢理情報を寄越せと言って近づいて来るプレイヤーが検証班を名乗ろうものなら、実力者は無視するか物理的に黙らせるだろう。


「そういうことだ。ところで、今日は私の方から準備した質問をさせてもらいたい。それが答えてもらえるものなら答えてもらい、答えられない場合は答えられないと言ってくれ。話を聞いた後、聞かせてもらった情報に相応しい対価を情報またはネクロで払おう。この条件で構わないかな?」


「構わない」


 ジョブホッパーの提示した条件はどちらかが著しく不利になるものではなかったから、鬼童丸はそれで良いと頷いた。


「ありがとう。まず聞きたいのは、鬼童丸さんの持つ称号だ。答えてもらえるかい?」


「それぐらいは良いよ。<鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並)>と<新人戦チャンピオン>の2つだ」


「やはり男爵の上には子爵があったか。子爵になる条件は5つ以上のエリアを治めることかい?」


「多分そうだろうな。とは言っても、統治してるエリアの総面積で決められてる可能性もあるが」


「なるほど。その点は検証が必要だね。私も含め、他の爵位持ちのプレイヤーにも協力してもらうとしよう」


 ジョブホッパーが知る限りにおいて、現時点で子爵は鬼童丸しかいない。


 それゆえ、ジョブホッパーは他の男爵や女男爵のプレイヤーの協力が必要と判断した。


「次の質問だ。ミニゲームはやったかい?」


「一通り触れた」


「宝探しが本編と同じタイミングまでアップデートになった理由は知ってる?」


「さあね。昨日は大会の後にほとんどUDSをプレイしてないし、今日も用事があって朝に少ししかプレイしてないからなんとも言えんよ」


 この質問で答えられないと言えば、ほとんど答えを言ったようなものだ。


 それでは自分が不利になるから、鬼童丸は事実を織り交ぜて答えないという選択をした。


 リアルの仕事柄ポーカーフェイスは得意だったため、鬼童丸は自分にはよくわからないというポーズを自然に取ってみせた。


「そうか。ちなみに、検証班の調査ではアンデッドスロットにドハマりしたプレイヤーが多くを占めていたよ。目押しができるとわかってからは、動体視力と反射神経に自信のあるプレイヤーが荒稼ぎしようとして失敗に終わった」


「そうなのか。俺も適当に儲けたところで切り上げたが、もしかして儲け過ぎたら難易度アップする仕様だったのかね?」


「どうにもそうらしい。メダルを換金して50,000ネクロ以上手取りが増えると難易度が急激に変わったり理不尽なミスを強いられて損させられたと報告が集まった」


「なるほどね。ミニゲームでがっぽり稼ぐってのは無理があった訳か」


 (50,000ネクロか。昨日の俺の儲けが45,000ネクロだったから割とギリギリだったな)


 鬼童丸は自分の昨日のプレイ結果を思い出し、丁度良いところで切り上げたものだと心の中で自分の直感を褒めた。


「そのようだね。アンデッドディスコはどうだい? リビングサンバとリビングシンガーのバトルをS評価でクリアするとエクストラバトルに挑戦できるのは知ってるかい?」


「ああ。挑戦した。ラメントアイドルは強敵だったよ」


「鬼童丸さんから見ても強敵だったか。ちなみに、評価はどれぐらいまでいけた? チャレンジ回数は?」


「チャレンジ1回でA評価だ。アドリブタイムのアレンジで減点があったのか、S評価は貰えなかった」


 鬼童丸の話を聞き、ジョブホッパーは一瞬だけ口をポカンと開けた。


 もっとも、すぐに咳払いして表情を引き締めたのだが。


「オホン、なるほど。ラメントアイドルを最小回数でゲットしたのは鬼童丸さんだったか。流石だよ」


「そりゃどーも」


 その後もいくつか質問を受け、鬼童丸はその報酬として必要な情報を貰ってから東京タワーを発った。

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