第48話 テンプレ乙

 賭けの準備も終わったところで、デビーラが3位決定戦と決勝戦について説明を始める。


「決勝トーナメントが始まる前にも行ったけど、3位決定戦と決勝戦はこれまでとちょっとルールが違って2点追加されるよ。1点目は戦闘に参加するアンデッドモンスターが2体になること。2点目は通常のターン制戦闘じゃなくて、乱戦モードで戦うこと。つまり、最後の2試合は自由度が高くなったんだ。わかったかな?」


 特に難しくない内容だったから、わからないと声を発した者はいなかった。


 このまま進めて良いと判断したらしく、デビーラが指パッチンしてリバースとヴァルキリーをバトルステージの両端にある塔に転移させる。


「さて、先に3位決定戦を行うよ」


 そのようにデビーラが告げた瞬間、リバースとヴァルキリーの目の前に2体の従魔を選択しろと表示された。


 直前の戦闘に出した従魔は選択できないから、それを考えて2人は戦わせる従魔の組み合わせを考えている。


 宵闇ヤミは鬼童丸の隣に座っており、鬼童丸の意見が聞きたくて質問してみる。


「鬼童丸さんはどっちが勝つと思う?」


「今まで一緒にやって来たゲームの戦績で言えばリバースの方が強いけど、UDSでの戦いぶりを見てるとヴァルキリーの方が強そう。タッグバトルで組ませる2体でかっちり型に嵌れば、ヴァルキリーが勝つかもしれないな」


「ふーん。鬼童丸さんはヴァルキリーのことをよく見てるんだね」


「やけに張り合おうとするじゃん。どうしたの?」


 鬼童丸は宵闇ヤミがヴァルキリーに張り合おうとするものだから、何がそこまで対抗心を煽るんだろうかと気になって訊ねた。


 できればゲームで面倒事を発生させたくないから、解消できるなら解消しておきたいというのが鬼童丸の正直な気持ちだ。


「別に、鬼童丸さんとコラボできなくて寂しい訳じゃないんだからね」


「テンプレ乙」


「はいはい、そこの決勝戦対戦カードの2人、イチャイチャしないで。3位決定戦が始まるんだから」


 イチャついているつもりは少なくとも鬼童丸にはないのだが、デビーラに注意されたのでおとなしくした。


 宵闇ヤミも配信許可を取り下げられると困るから、デビーラの言う通りおとなしくした。


 選定時間が過ぎて、リバースとヴァルキリーが選んだ従魔を2体ずつ召喚する。


召喚サモン:ファントムソード! 召喚サモン:ファントムシールド!」


召喚サモン:ヘルグリモア! 召喚サモン:ライカンデスロープ!」


 ファントムソードとファントムシールドを召喚したのがリバースで、ヘルグリモアとライカンデスロープを召喚したのはヴァルキリーだ。


 ファントムシールドは盾版のファントムソードであり、怨念がシールドに憑かれている見た目になっている。


 攻撃がファントムソードならば、守備はファントムシールドに任せるスタンスなのだろう。


 その一方、ヴァルキリーが召喚したライカンデスロープはアンデッド化した狼人間ライカンスロープと表現するのが相応しい。


「2人共、3位を目指して頑張ってね。試合開始!」


「「言い方ァ!」」


 デビーラの発言に悪意を感じ取り、リバースとヴァルキリーはシンクロツッコミを披露してしまう。


 気持ちを切り替え、両者は乱戦モードの戦闘に意識を向ける。


 セットコマンドを使い、相手にバレないように仕掛けるのが乱戦モードでの対人戦である。


 リバースが最初に使ったセットコマンドは、ファントムシールドが【耐久強化ヴァイタリティライズ】でファントムソードが【螺旋突撃スパイラルブリッツ】を使うものだ。


 ファントムシールドは【引力体グラビボディ】を会得しているらしく、ヴァルキリーのヘルグリモアとライカンデスロープが自然とファントムシールドの方を向いている。


 それはつまり、2体の攻撃を一身で受け止めるということであり、ダメージを減らすべくVITを上げられる【耐久強化ヴァイタリティライズ】を使った訳だ。


 一方、ファントムソードはファントムシールドに気を取られているライカンデスロープに【螺旋突撃スパイラルブリッツ】を発動したのだが、AGIの高いライカンデスロープはそれに応じてヴァルキリーのセットコマンドにより、【潜影鉤爪シャドウクロー】を発動してファントムシールドを攻撃する。


 【潜影鉤爪シャドウクロー】はアビリティの過程で敵の陰に潜り込むから、それを利用してファントムソードの攻撃を躱してライカンデスロープはファントムシールドに攻撃する。


 その上、ヘルグリモアが【暗黒砲弾ダークネスシェル】を放ってファントムシールドに攻撃するから、VITを高めていてもファントムシールドのHPが削れていく。


「【潜影鉤爪シャドウクロー】使えんのかよ。面倒だな」


「あれれ~? 物理攻撃しかない感じなのかにゃ~?」


「うわっ、腹立つ!」


 煽るような物言いのヴァルキリーに対し、リバースはイラっとした。


 今度はヴァルキリーが別のセットコマンドを使い、ライカンデスロープが【挑発咆哮タウントロア】で敵2体のヘイトを稼ぎ、ヘルグリモアが【暗黒乱射ダークネスガトリング】を薙ぎ払うように放つ。


 ライカンデスロープとヘルグリモアのタッグで戦う時は、ライカンデスロープが回避盾の役割を担うようで、【挑発咆哮タウントロア】のおかげでヘルグリモアは安心して攻撃できる。


 それに対し、リバースも別のセットコマンドで応じる。


 ファントムシールドは【護衛移動カバームーブ】でファントムソードの盾になり、その間にファントムソードは【斬撃置罠スラッシュトラップ】を発動して敵の行動を制限した。


 【斬撃置罠スラッシュトラップ】は敵の周囲に見えない斬撃を配置する罠である。


 触れた瞬間に斬撃を喰らってダメージを受けるのだが、一度の発動で複数の罠が仕掛けられるからダメージを受けたくない場合、不用意に動かない方が得策なのだ。


 無論、セットコマンドで発動しているから、リバースが【斬撃置罠スラッシュトラップ】をファントムソードに使わせたとわかったのは、ライカンデスロープが斬撃によるダメージを受けた時だった。


「巧みな攻防が繰り広げられてるね! ルール変更して良かったよ!」


 デビーラはリバースとヴァルキリーの戦闘を楽しんでいるらしく、声が今までの決勝トーナメントのどの試合よりも弾んでいるように鬼童丸の耳には届いた。


 (セットコマンドはやっぱり大事だな)


 この後の宵闇ヤミとの戦いを考えると、ちゃんとセットコマンドも用意しなければならない。


 既にどの2体を決勝戦で使うか決めているため、鬼童丸は状況別でセットコマンドを設定しながら3位決定戦を見る。


 【斬撃置罠スラッシュトラップ】はそのままではヘルグリモアに通じないから、ダメージを受けるのはライカンスロープということになる。


 リバースのファントムシールド、ヴァルキリーのライカンデスロープのHPがじわじわと減っていった。


 ライカンデスロープの方がHPは少ないが、回避能力があったためHPが削れる速度1位の座はファントムシールドが手に入れていた。


「ヘルグリモア、【暗黒乱射ダークネスガトリング】」


「ファントムシールド、【復讐衝撃リベンジインパクト】」


 セットコマンドではなくヴァルキリーが指示を出したのは、ヘルグリモアだけに指示を出すためだ。


 セットコマンドの場合、複数体の従魔の指示を同時に行ってしまうから、単体に指示を出したい時は口頭の指示になってしまうのだ。


 ファントムシールドのHPもそろそろ削り取れるということで、ヴァルキリーはファントムシールドを倒すべく【暗黒乱射ダークネスガトリング】を一点集中させた。


 リバースはファントムシールドが力尽きる寸前に【復讐衝撃リベンジインパクト】を使わせて、今までに受けたダメージを衝撃波に変換して放ち、そのまま力尽きた。


 ただし、その衝撃波はヴァルキリーのライカンデスロープとヘルグリモアにも命中して一気にHPを削り取り、ライカンデスロープはHPが尽きた。


 これにより、リバースはファントムソード、ヴァルキリーはヘルグリモアを残した状態での戦闘になった。


 ファントムソードには霊体を攻撃する手段がなく、ファントムシールドの【復讐衝撃リベンジインパクト】で倒し切れなかったことから、リバースはピンチに陥った。


 ただし、あと10分逃げ切れば時間切れで残っているHPの量で勝敗が決まるから、今の状態を維持できればリバースが勝ち逃げできる。


 それが理由で鬼ごっこが始まったが、ヘルグリモアが広範囲を攻撃できる【麻痺雨パラライズレイン】を使ったことにより、逃げ切れなくなってそのままとどめまで持っていった。


「そこまで! 新人戦3位はヴァルキリーだよ! おめでとう!」


 観客席からは3位にヴァルキリーを選んだプレイヤー達からの拍手に加え、3位にリバースを選んでいたプレイヤー達の嘆く声が聞こえた。


 ギャンブルが絡むと本当に人は熱が入るから、鬼童丸は決勝で負けたら面倒なことになると思って気を引き締めた。

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