第47話 よっしゃ! 追撃追撃ィ~!
準決勝第一試合が終わり、宵闇ヤミとリバースが転移させられたら鬼童丸は宵闇ヤミがリバースに勝てるか考えてみた。
なんだかんだでリバースは鬼童丸とそこそこ張り合える実力の持ち主だ。
ゲームの種類によってはリバースが勝ち越すこともあるから、宵闇ヤミがリバースに勝てるかどうかは鬼童丸が同行していない2日間の彼女の成長次第である。
鬼童丸の隣に座ったヴァルキリーは、真剣な表情の鬼童丸に声をかける。
「リバースと宵闇さんが戦ったらどっちが勝つと思う?」
「順当に進めばリバースだけど、今回はこのトーナメントのルールのおかげで制限がかかる。リバースが次の試合のために最も強い従魔を取っておくなら宵闇さんにも勝ち目はある」
揶揄うような者ではなく、真面目な質問だったから鬼童丸はヴァルキリーに対して真面目に答えた。
ヴァルキリーも2人の内負けた方が自分の対戦相手になるのだから、鬼童丸と同じぐらいこの試合に対して真剣なはずだ。
そのはずなのだが、ヴァルキリーはニヤニヤしながら余計な質問を鬼童丸に向ける。
「さっき私と鬼童丸で話してた時の宵闇さんの表情の意味ってわかる?」
「試合に集中しようぜ。デビーラが見てるぞ」
「そうだよー。昼ドラは新人戦が終わってから他所でやってねー」
鬼童丸が動じずに告げた通り、デビーラがいつの間にかVIP席に来ており、ヴァルキリーにジト目を向けていた。
流石にこれ以上はやり過ぎだと判断し、ヴァルキリーもおとなしく準決勝第二試合を眺めることにした。
「
「
リバースがデスピエロを召喚し、宵闇ヤミがグリキュラを召喚した。
デスピエロはピエロの衣装を着て体のあちこちに武器を隠し持ったキョンシーであり、近接戦や飛び道具を使ったアビリティに加えてトリッキーなアビリティも使える。
「それじゃ、準決勝第二試合開始!」
AGIではデスピエロが勝るから、リバースの先攻から戦闘は始まる。
「デスピエロ、【
デスピエロは隠し持っていた投げナイフを取り出し、グリキュラに目掛けてガンガン投げつけた。
ナイフ1本あたりのダメージ量は少なくとも、塵も積もれば山となるから無視できないダメージをグリキュラは負った。
自分のターンが来て、宵闇ヤミはグリキュラに反撃を命じる。
「グリキュラ、【
グリキュラの腰部には左右に3つずつグリムハウンドの首が生えており、その6つの首が一気にデスピエロに噛み付く。
こちらも1つの首毎に与えるダメージ量は多くないけれど、五分五分の確率で敵を怯ませられる。
敵が怯めばもう一度行動できるので、宵闇ヤミはある種の賭けに出た訳だ。
その賭けに勝ち、3つ目の首が攻撃した際に怯み判定が出てグリキュラはもう一度行動できるようになった。
「チッ、【
ちなみに怯み判定は二度連続出たりしないので、これで嵌め殺しができるということはない。
「こういう小細工も使えないと勝てないからね」
「へぇ、鬼童丸だけ見てる頭お花畑ちゃんではなかったのか。ヴァルキリーを見る目が完全に嫉妬してたけど」
「嫉妬してないと言えば嘘になるね。だから、ヤミはリバースさんに勝って決勝で鬼童丸さんと戦うんだ」
「そう簡単にはやられないぜ」
ヴァルキリーへの嫉妬を認めないかと思ったら案外あっさり認めたものだから、リバースは宵闇ヤミへの評価を上方修正した。
自己認知がバグっってたら、そこを突いて精神的に揺さぶりをかけようと思ったけれど、その手には乗ってもらえないだろうと判断したのだ。
宵闇ヤミは二度目の行動をグリキュラに命じる。
「グリキュラ、【
グリキュラの腰部から生えた全てのグリムハウンドの頭が前方に集まり、一斉に吠えてその衝撃波を前方一直線に飛ばす。
【
(流石に連続して賭けにはかてなかったか)
VIP席で眺めていた鬼童丸からすれば、宵闇ヤミの戦術はナイスチャレンジだと思えた。
乱数に毎回勝てる程UDSは甘くないから、宵闇ヤミの賭けの結果は十分当たりである。
次は一度飛ばされたリバースのターンだ。
「俺のターン、デスピエロは「【
【
今度はリバースが良い乱数を引けたようで、デスピエロが正拳突きをグリキュラに命中させた直後にダウン状態に陥らせた。
「よっしゃ! 追撃追撃ィ~!」
「うわっ」
追撃のボタンを押してデスピエロが追撃すれば、グリキュラの体力の半分が削られてしまった。
「ぐぬぬ…」
「いやぁ、悪いねぇ」
「まだ負けてないから! グリキュラ、【
3割しか当たらない勝負よりも、5割当たる勝負に挑もうと判断して宵闇ヤミがグリキュラに【
その結果、5つ目の首の攻撃で怯み状態ではなくダウン状態を引き当てた。
「追撃行くよ!」
「マジかよ!?」
宵闇ヤミが追撃のボタンを押せば、グリキュラが追撃してデスピエロの体力が残り4割を切った。
現時点ではかなり良い勝負をしている2人だったが、ここでリバースが流れを変える手に出る。
「デスピエロ、【
【
表が出れば一気に宵闇ヤミを追い詰められるが、裏が出たら次の宵闇ヤミのターンで倒されてしまう。
そんな計画性の欠片もない手を打ったリバースに対し、観客席にいるエンジョイ勢のハートががっちり掴まれたようだ。
「表だ表!」
「裏だよ裏!」
リバースと宵闇ヤミが祈りを捧げた数秒後、トスされたコインはバトルステージに落ちた。
上に出ているのは裏面であり、デスピエロが大ダメージを受けてHPが残り1割を切ってしまった。
「ヤミのターン、グリキュラ、【
グリキュラの【
「はい、そこまで! 準決勝第二試合は宵闇ヤミの勝利! 決勝戦進出おめでとう!」
デビーラがそう宣言したことで、観客席も大いに盛り上がる。
これで決勝戦の対戦カードが鬼童丸VS宵闇ヤミで、3位決定戦の対戦カードがヴァルキリーVSリバースに決まった。
VIP席にご機嫌な宵闇ヤミと苦笑するリバースが帰って来た。
「鬼童丸さん、決勝戦で勝負だよ」
「おぉ、おめでとう。それと、リバースはヴァルと仲良く3位決定戦で戦ってくれ」
「「誰が仲良しだ」」
「シンクロしてるんだが?」
リバースとヴァルキリーの声がシンクロしたため、鬼童丸はジト目で2人に言い返した。
そこにデビーラが現れ、観客席にいるプレイヤーに対して声をかける。
「プレイヤーのみんな、この後は3位決定戦と決勝戦をやる訳だけどここで1つギャンブル好きなみんなのためにこんな企画を用意したよ~」
デビーラが指パッチンした直後、バトルステージ上空にホログラムで順位を当てるギャンブルの案内が表示された。
1位~4位の順位をぴったり当てたら、当てた人数で割ったネクロが貰えるという企画だ。
これならタダ試合を見続けているよりも楽しめるということで、突発的にギャンブルが始まった。
ネクロはあればあるだけアンデッドモンスターガチャを引けるから、今回の新人戦で予選敗退したプレイヤーからしてみれば癖のある救済措置とも考えられる。
賭けに参加できるのは5位以下のプレイヤーまでで、彼等は最初のルール説明において参加賞もないから、この賭けに勝とうと必死である。
「鬼童丸、絶対優勝しろ!」
「宵闇ヤミ、お前に賭けたぞぉぉぉぉぉ!」
「ヴァルキリー、頑張れ~!」
「リバース、爆発しろー!」
「なんで俺だけ罵倒されてるんだ!」
観客席からの野次で自分だけ罵倒されていることに気づき、リバースはちょっと待てとツッコミを入れた。
勝率が五分五分に近いなら、可愛いアバターを応援したいという男心によるものだろうがなかなか泣けて来るものがある。
続々と特設エリア内のプレイヤーが賭けたため、賭けに勝てばそこそこ大金を貰えると5位以下のプレイヤー達の目がネクロになっていた。
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