第46話 爆発オチなんてサイテー

 第三試合が終わり、次はリバースとバブエモンの第四試合の番だ。


「第四試合を始めようか」


 デビーラがそう言った直後に、リバースとバブエモンがそれぞれの塔の上に移動させられ、戦闘に出す従魔を選択する。


召喚サモン:ファントムソード」


召喚サモン:グラッジミキサー」


 リバースが召喚したのはファントムソードで、バブエモンが召喚したのはグラッジミキサーだ。


 ファントムソードは怨霊に憑りつかれた両手剣であり、両手剣が怨霊の容れ物になっているような状態である。


 それゆえ、実体があるから物理攻撃でもダメージが入る。


「第四試合を始める前に、Aグループ通過者のリバースから意気込みを教えて」


「目指せ優勝。打倒鬼童丸」


「ありがとねー。それじゃ、眼中にないと言われちゃったバブエモンの意気込みも聞かせて」


「おい、言い方ァ!」


 デビーラの悪意しか感じない言い方にリバースがツッコむが、デビーラは少しも悪びれた様子は見せずにスルーしてみせる。


「俺、あいつ、おぎゃらせる」


 バブエモンは片言でリバースに宣戦布告した。


 残念ながら、バブエモンにはデビーラの悪意に満ちた声は届いても、リバースのツッコミは届いていないようだ。


「面白くなって来たね。試合開始!」


 悪い笑みを浮かべるデビーラが試合開始の宣言をすれば、ファントムソードがAGIで勝ったため先攻はリバースのものになる。


「ファントムソード、【螺旋突撃スパイラルブリッツ】」


 ファントムソードがドリルのように回転しながらグラッジミキサーに突撃し、グラッジミキサーの胴体を貫いた。


 それにより、グラッジミキサーが出血の状態異常に陥る。


 出血も継続ダメージを与える状態異常で火傷と似ているように思うかもしれないが、出血状態に陥ったアンデッドモンスターはその状態が自然回復するまで一時的にVITの数値が落ちるのだ。


 リバースがファントムソードを良く育てていたのか、バブエモンがグラッジミキサーを育て切れていないのかはVIP席からはわからないが、たった一撃でグラッジミキサーのHPは半分削れてしまった。


 ここで一発逆転の行動ができなければ、状況的にバブエモンの負けは覆らない。


 それは本人もわかっているからか、バブエモンは覚悟を決める。


「グラッジミキサー、【反撃自爆リベンジスーサイドボム】!」


 バブエモンの指示を聞いた瞬間に会場がざわついた。


 何故なら、【反撃自爆リベンジスーサイドボム】は発動までに受けたダメージを威力に上乗せし、自らのHPを0にする代わりに周囲の敵に大ダメージを与えるアビリティだからだ。


 【反撃自爆リベンジスーサイドボム】を使って引き分けに持ち込むつもりだったのだろうが、ファントムソードのHPが1割残ってしまってバブエモンの目論見は外れた。


「爆発オチなんてサイテー」


「それしか方法がなかった。悔いなし」


 デビーラがジト目をバブエモンに向けるが、バブエモンは涼しい顔で応じた。


 これ以上話も広がらないだろうから、デビーラは咳払いで気持ちを切り替えて進行に戻る。


「はい、という訳で第四試合はリバースの勝利だよ~。準決勝で自爆なんて止めてよね。準決勝第一試合に移るよ」


 (マジでデビーラは爆発オチが嫌いらしいな。まあ、天丼は盛り上がりに欠けるからしょうがないか)


 もっとも、それはデビーラだけの話で観客席にいるプレイヤーにはバブエモンの自爆がそこそこウケていた。


 引き分けに持ち込もうとする思考を評価する者さえいたのだから、決して悪くない判断だったのだろう。


 準決勝第一試合が始まるとデビーラが言えば、鬼童丸とヴァルキリーがバトルステージ両端の塔に転移させられた。


『1分以内に第一試合に参加させるアンデッドモンスターを1体選択して下さい』


 (ヴァルキリーが相手なら火属性の攻撃をして来るかもな)


 ヴァルキリーが<爆撃女男爵(豊島・中野・板橋)>の称号をゲットしているのは掲示板で確認しているから、自分と戦って来るのに扱い慣れていない従魔は出して来ないのではないかと鬼童丸は考えた。


 そうであるならば、鬼童丸が選ぶべき従魔は1体に絞られる。


召喚サモン:レギマンダー」


召喚サモン:トーチホーク」


 鬼童丸がレギマンダーを召喚したのに対し、ヴァルキリーはトーチホークを召喚した。


 (タナトスの従魔と同じアンデッドモンスターか。まさか手に入れてたとはね)


 タナトスが普段使いしているから強いだろうことはある程度想像できており、トーチホークも既に自分の従魔にできるとわかったのは収穫と言えよう。


 それはそれとして、AGIはトーチホークの方が高いからデビーラによる開始の合図と共にヴァルキリーの先攻からスタートする。


「トーチホーク、【炎上柱ブレイズピラー】!」


 ヴァルキリーが攻撃を宣言した直後に、レギマンダーの足元から火柱が噴き出した。


 しかし、レギマンダーはダメージを受けることがなかった。


 パッシブアビリティの【火吸収ファイアドレイン】を会得しているレギマンダーに対し、火属性の攻撃は通用せず回復手段である。


 レギマンダーがケロッとした様子でいることから、解説も務めるデビーラが喋り出す。


「鬼童丸のメタ読み成功かな!? レギマンダーは【火吸収ファイアドレイン】を会得してるから、火属性の攻撃は一切効かないよ!」


 デビーラの発言を受けてヴァルキリーを精神的に追い込むべく、鬼童丸は強者感を出しながらニッコリと笑ってヴァルキリーに声をかける。


「今、何かやったかな?」


「もう、鬼童丸ったら私のこと大好き過ぎて先読みしちゃったのね」


 (ヴァルの奴、精神的に強いわ。揺さぶりが全く効かない)


 全く動じないどころかカウンターまでして来るのだから、ヴァルキリーは精神的にタフであると言えよう。


 鬼童丸のターンに移り、番外戦闘から頭を切り替えて鬼童丸はレギマンダーに指示を出す。


「レギマンダー、【呪纏緋炎カーススカーレット】」


 レギマンダーがアビリティを使えば、トーチホークが緋色の炎に纏わりつかれて苦しみ始めた。


 トーチホークも【火吸収ファイアドレイン】を会得している可能性があったから、火傷状態を与えつつ火属性のダメージも与える【呪纏緋炎カーススカーレット】を使わせてみた鬼童丸だったが、トーチホークは火属性のダメージを吸収しなかった。


 ヴァルキリーは火属性の攻撃が逆効果とわかった今、火属性のアビリティに頼らずレギマンダーを攻撃する。


「トーチホーク、【剛力降下メガトンダイヴ】!」


 物理攻撃がレギマンダーにも通じるから、トーチホークの攻撃でレギマンダーのHPが3割程減った。


 そうなることは読めていたから、次に鬼童丸が何をするべきかわかっていた。


「レギマンダー、【赤霊降雨レッドレイン】」


 範囲攻撃アビリティの【赤霊降雨レッドレイン】が発動し、トーチホークに命中したいくつもの赤い霊体が爆発して複数回ダメージを与える。


「鬼童丸、まさか私から爆撃の称号を奪うつもり?」


「どうだろうね」


「奪っても良いけど、その時は私ごと引き取ってね」


「イチャイチャするんじゃなぁぁぁい! 今、試合中! おわかり!?」


 すぐにヴァルキリーが鬼童丸にモーションをかけるものだから、デビーラがイチャイチャ禁止と警察のように取り締まった。


 UDSの公式な大会で公開イチャイチャする度胸は買うが、それに対するクレームが入る可能性を考えてみると早い段階で潰しておくに越したことはない。


「トーチホーク、【剛力降下メガトンダイヴ】!」


 トーチホークが攻撃を仕掛けるが、【呪纏緋炎カーススカーレット】の火傷のせいで狙いがズレてしまって攻撃を外した。


 空振りして地面に激突し、その反動でトーチホークはダメージを負ってしまう。


 そこに火傷のダメージまで加わるから、トーチホークの残りHPは危険域に突入する。


「そろそろ終わりだ。レギマンダー、【赤霊降雨レッドレイン】」


 空振りによって受けたダメージに加わり、【赤霊降雨レッドレイン】のダメージが入ればトーチホークのHPが0になり、鬼童丸の勝利が確定した。


『鬼童丸がLv56に到達しました』


『レギマンダーがLv42からLv44まで成長しました』


『レギマンダーの【火吸収ファイアドレイン】が【炎吸収フレイムドレイン】に上書きされました』


「そこまで! 準決勝第一試合は鬼童丸の勝利! 決勝戦進出おめでとう!」


 デビーラがそう宣言したことで、観客席も大いに盛り上がる。


 鬼童丸のメタ読みが決まったことに加え、派手なアビリティでの殴り合いが続いたから見応えがあったようだ。


 これで鬼童丸は優勝か準優勝であり、ヴァルキリーは準決勝第二試合の敗北者と3位決定戦で戦う。


 鬼童丸とヴァルキリーはVIP席に転移させられ、ヴァルキリーは戻ってすぐに鬼童丸に話しかける。


「あ~あ、負けちゃった。私に勝ったんだから、ちゃんと優勝してよね」


「勿論だ」


「私のことも貰ってよね」


「それは知らん」


「そんなぁ」


 ちゃっかり言質を取ろうとしているヴァルキリーの作戦には乗らずに済んだのが、宵闇ヤミがジト目でこちらを見てるのに気づいて声をかける。


「宵闇さん? 何かな?」


「別に」


 短く答えた宵闇ヤミは、リバースと共にバトルステージの両端にある塔に転移させられた。

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