第45話 参加したからには優勝を狙うよ。配信者として上は貪欲に目指さないとね

 第一試合が鬼童丸の勝利に終わり、宵闇ヤミは自分も初戦では負けられないと思った。


 鬼童丸の顎が外れるぐらい強くなると言ったものの、予選では鬼童丸とぶつかることがなく予選では全力を発揮できたとも言えなかった。


 自分の試合は第三試合だから、第三試合で鬼童丸に自分の成長を見せてやると気合を入れた。


 その前に第二試合があるため、Aグループの予選通過者であるきたくぶちょーとBグループの予選通過者であるヴァルキリーがバトルステージの両端にある塔に転移させられる。


「第二試合を始めようか」


 デビーラがそう言った直後に、きたくぶちょーとヴァルキリーは戦闘に出す従魔を選択する時間に突入する。


 第一試合で鬼童丸がやってみたように、支援系のアンデッドモンスターでも戦い方によっては高火力の攻撃で一気に試合を終わらせられるから、2人とも選択は慎重に行った。


召喚サモン:オーカスゾンビ」


召喚サモン:ヘルグリモア」


 きたくぶちょーはオーカスゾンビを召喚し、ヴァルキリーはヘルグリモアを召喚した。


 オーカスゾンビはオークの上半身と爬虫類の下半身を持ったケンタウロス亜種と呼ぶべき見た目のゾンビで、元々はHPとSTRが高くてDEXとAGIがその分低い。


 きたくぶちょーのオーカスゾンビは大剣を装備しており、見るからにSTRでごり押しする可能性が高い。


 それに対して、ヘルグリモアは霊体化した黒い魔導書という外見であり、オーカスゾンビが魔法系アビリティを使えない限りヘルグリモアにダメージを与えられない。


 その事実は十分理解しているため、きたくぶちょーは渋い顔をしている。


 ある程度事情を悟ったデビーラは愉悦勢らしい笑みを浮かべつつ、きたくぶちょーに声をかける。


「試合を始める前に、Aグループ通過者のきたくぶちょーから意気込みを聞かせてもらおうか」


降参サレンダー。オーカスゾンビに霊体のアンデッドを攻撃する手段はない。これ以上戦えないなら時間の無駄だから失礼する」


 それだけ言ってきたくぶちょーはログアウトした。


「おーっと、降参サレンダーを宣言&ログアウトォ! ヴァルキリーが霊体のアンデッドモンスターを出さないことに賭けたきたくぶちょーが戦わずして降参サレンダーして帰宅したぁ! 流石きたくぶちょー! 帰る判断が早い! ということで第二試合はヴァルキリーの不戦勝!」


「えぇ…」


 ヴァルキリーは戸惑いを隠せない様子でVIP席に戻された。


 当然のことながら、戦っていないので経験値は得られていない。


 観客席もざわざわしている中、デビーラは咳払いして仕切り直す。


「気持ちを切り替えて第三試合を始めるよ」


 その瞬間、ジョブホッパーと宵闇ヤミがバトルステージの両端にある塔に転移させられる。


 戦わせる従魔の選択時間に移り、宵闇ヤミは第二試合で起きたのと同じミスはしないように戦わせる従魔を選択する。


召喚サモン:ザックーム」


召喚サモン:ゲイザス」


 ジョブホッパーが召喚したザックームは悪魔の頭のような果実が生る樹であり、元ネタはイスラム教にあるがUDSではアンデッドモンスターとして登場する。


 それに対する宵闇ヤミのゲイザスは、体に無数の目を持つ巨人のゾンビであり、モチーフはアルゴスだ。


「試合開始前に、Aグループ通過者のジョブホッパーから意気込みを聞かせてもらおうか。まさか降参サレンダーなんて言わないよね?」


 もうこの場にいないきたくぶちょーいじりを始めるデビーラに対し、ジョブホッパーは苦笑しながら応じる。


「ちゃんと戦うとも。予選で敗れた検証班のメンバーのためにも、なんとか表彰台に手を届かせたい」


「だそうだけど、対戦相手の宵闇ヤミはどうかな?」


「参加したからには優勝を狙うよ。配信者として上は貪欲に目指さないとね」


「よく言った。悔いが残らないように戦ってね。試合開始!」


 ザックームもゲイザスも大してAGIは高くない訳だが、動けるゲイザスの方がAGIは高いので宵闇ヤミのターンから始まる。


「ゲイザス、【麻痺眼パラライズアイ】」


 ゲイザスの無数にある眼に睨まれてしまい、ザックームは麻痺状態に陥った。


 ターン制の戦闘で麻痺状態になった場合、AGIが落ちるだけでなく50%の確率で自分のターンで動けない。


 ジョブホッパーのターンになり、ザックームに指示を出そうとしたが麻痺で動けなかった。


「第一試合もそうだったけど、敵を状態異常にするアビリティは有用だね。PVPとPVEの違いがよくわかるよ」


 デビーラはこのターンで動けないザックームを見て素直な気持ちをコメントした。


 これにはジョブホッパーもその通りだと反対側の塔で頷いている。


「ゲイザス、【剛力乱打メガトンラッシュ】」


 宵闇ヤミは自分のターンが再び始まったため、ゲイザスに装備した棍棒でザックームを攻撃させる。


 ザックームのHPが5分の1程削れ、それと同時に悪魔の頭に似た果実をバトルフィールドに1つ落とした。


 バトルフィールドに果実が落ちた瞬間、ゲイザスのHPが10%削れた。


 これはザックームのパッシブアビリティ【反撃反応リベンジリアクション】の効果によるものだ。


 攻撃するアビリティによってダメージを受けた時、その半分のダメージを敵に与える効果があるから、先程のターンで動けなかったジョブホッパーにとって【反撃反応リベンジリアクション】は救いと言えよう。


 ジョブホッパーのターンになり、今度は麻痺でターンが終わらずに行動可能だった。


「ザックーム、【果実爆弾フルーツボム】」


 先程地面に落ちた果実がゲイザスの足元まで転がっていき、そのまま爆発してゲイザスにダメージを与えていく。


 ゲイザスのVITは比較的高めだから、この攻撃を受けても残りHPはゲイザスとザックームが並ぶぐらいだった。


 ジョブホッパーのターンが終わり、宵闇ヤミは自分のターンを始める。


「ゲイザス、【毒眼ポイズンアイ】」


 【毒眼ポイズンアイ】は読んで字の如く敵を毒状態にするアビリティであり、毒状態になれば継続ダメージが入っていく。


 宵闇ヤミはここで【剛力乱打メガトンラッシュ】を連打するよりも、ザックームを麻痺状態だけでなく毒状態にしてじわじわと削ることにしたようだ。


 しかも、【毒眼ポイズンアイ】は攻撃するアビリティと判定されないため、【反撃反応リベンジリアクション】によるダメージがないのも利点と言えよう。


 さて、ジョブホッパーのターンが始まるかと思いきや、乱数に負けて麻痺のせいで動けずジョブホッパーのターンが終わると同時に毒でザックームはダメージを負う。


 これは痛手である。


 ここでダメージを与えて自分に有利な展開にできなかったのだから、ジョブホッパーの表情も苦いものに変わっている。


「ゲイザス、【剛力乱打メガトンラッシュ】」


 状態異常を2つ重ねたことだし、宵闇ヤミは攻撃に移る。


「おっと、クリティカルヒット! ザックームがダウンしたぁぁぁ!」


 乱数は宵闇ヤミに味方しており、【反撃反応リベンジリアクション】でゲイザスもダメージを負っているものの、残りHPが半分以下になったザックームがダウン状態に陥った。


 デビーラがそれを告げた時には、宵闇ヤミの視界に追撃のボタンが表示されたのでそれを押す。


 追撃によってザックームの残りHPが20%を切り、【反撃反応リベンジリアクション】でゲイザスのHPも半分を切った。


 宵闇ヤミのターンが終わったため、ジョブホッパーのターンに移る。


 このターンでジョブホッパーがゲイザスを行動不能にしない限り、次のターンでやられてしまう。


 体が痺れて動けないなんてことにはならないでくれと願ったところ、ジョブホッパーの願いは届いてこのターンはザックームが動けるとわかった。


「ザックーム、【果実爆弾フルーツボム】」


 地面に落ちた果実がゲイザスの足元で爆発し、ゲイザスにダメージを与えると共に火傷状態にさせるが、ダウン状態にはできなかった。


 (危ない危ない。次でとどめだね)


 火傷も毒と同様に継続ダメージがあるから、宵闇ヤミはあまりのんびりしていられない。


「ゲイザス、【剛力乱打メガトンラッシュ】」


 ザックームのHPが先に0になり、第三試合は宵闇ヤミが勝利した。


『宵闇ヤミがLv53に到達しました』


『ゲイザスがLv39からLv41まで成長しました』


『ゲイザスの【毒眼ポイズンアイ】が【猛毒眼ヴェノムアイ】に上書きされました』


 戦闘が終わり、宵闇ヤミとゲイザスがレベルアップし、ゲイザスの【毒眼ポイズンアイ】が徐々に継続ダメージ量の増える【猛毒眼ヴェノムアイ】に上書きされた。


 宵闇ヤミがシステムメッセージを見ている間に、デビーラが宵闇ヤミの勝利を宣言して宵闇ヤミとジョブホッパーがVIP席に転移させられた。


 コメント欄が見えるようになると、ヤミんちゅ達が自分の勝利を祝ってくれたため宵闇ヤミは新人戦の進行の邪魔にならない程度にファンサした。

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