第44話 ネクロマンサー界の王に俺はなる!

 Bグループの予選通過者が特設エリアに戻って来たら、デビーラが進行を再開する。


「さて、予選を通過した8名が出揃ったね」


 デビーラが指パッチンした瞬間、予選を通過した鬼童丸達が特設エリアの中心にできたバトルステージの上に移動させられており、それ以外のプレイヤーは同じタイミングで現れた観客席に移されていた。


 バトルステージは石畳が正方形に敷き詰められたものであり、両端に小さな塔があってそこに対決するそれぞれのネクロマンサーが配置され、バトルステージで従魔が戦うようだ。


「決勝トーナメントだけど、Aグループ通過者とBグループ通過者が初戦で戦うようにランダムで組み合わせを決めるよ」


 再びデビーラが指パッチンすれば、特設エリアにいる全員が見えるようにホログラムの決勝トーナメント表を表示し、初戦の相手が発表される。


 第一試合、鬼童丸VSヤサーイ王子。


 第二試合、きたくぶちょーVSヴァルキリー。


 第三試合、ジョブホッパーVS宵闇ヤミ。


 第四試合、リバースVSバブエモン。


「決勝トーナメントでは、プレイヤーが選出した1体のアンデッドモンスター同士で30分間戦わせて勝敗を決めるよ。ただし、同じアンデッドモンスターは繰り返し選択できないから、一度選択したアンデッドモンスターを再び使いたい場合は、次の次の試合まで待ってね。それと、予選で使用した2体は初戦に使えないよ。また、決勝戦と3位決定戦は少しルールが変わるんでよろしく~」


 (最高戦力を封じられたんだが)


 顔には出さないけれど、鬼童丸は心の中でマジかよとショックを受けていた。


 だがちょっと待ってほしい。


 それは他のプレイヤーも同じ条件だ。


 予選で出し惜しみして負けたら笑えないから、大半のプレイヤーは自分が最も強いと思っている従魔を使っている可能性が高い。


 だからこそ、鬼童丸は落ち着いている風を装えた。


「それじゃ、第一試合を始めるよ」


 またしてもデビーラが指パッチンすることで、鬼童丸とヤサーイ王子だけがそれぞれの塔の上に移動させられ、他の6人は観客席の中に用意されたVIP席に移動させられていた。


『1分以内に第一試合に参加させるアンデッドモンスターを1体選択して下さい』


 (さーて、どの従魔を選ぶかね)


 ドラピールとフロストヴィークルを選べない今、鬼童丸は4体の従魔から戦いに出す従魔を選ばなければならない。


 物理攻撃が強力なタンクであるデスライダー。


 支援系ではあるものの実体の有無を問わず攻撃できるリビングバルド。


 火属性の魔法系アビリティに特化したレギマンダー。


 癖のあるパワータイプのアッシュレックス。


 鬼童丸は新人戦に挑むにあたり、書き込みこそしないけれど掲示板に目を通していた。


 ところが、ヤサーイ王子について語る者は誰もいなかったから、はっきり言って情報が皆無なのだ。


 それゆえ、ヤサーイ王子がどんな従魔をバトルステージに出して来るかわからないので、鬼童丸はリビングバルドを選出した。


召喚サモン:リビングバルド」


召喚サモン:デスケアクロウ」


 ヤサーイ王子が召喚したデスケアクロウとは、怨霊に憑りつかれて黒ずんだ案山子だ。


 新人戦では敵の従魔のステータスは種族名しか見られないので、外見情報から敵の戦闘スタイルを予測しなければならない。


 それはそれとして、デビーラはニコニコ笑いながら鬼童丸達に声をかける。


「第一試合を始める前に両者の意気込みを聞かせてもらうよ。まずはAグループ通過者の鬼童丸からお願い」


 (勝負は既に始まってる。それなら…)


「ネクロマンサー界の王に俺はなる!」


 鬼童丸はこれでヤサーイ王子がビビってくれたら儲けものだと考え、強気に優勝してみせると宣言した。


 これには特設エリアがざわつくのも当然であり、デビーラはその発言を喜ぶ。


「良いね! 小さく縮こまったって面白くない! 鬼童丸がこう言ってるけどヤサーイ王子はどう?」


「頑張れ鬼童丸…。お前がナンバー1だ」


「それで良いの!?」


 ヤサーイ王子が張り合わずにナンバー1の座を譲ろうとするものだから、思わずデビーラがツッコんでしまった。


 無論、プレイヤー名からしてネタ発言だとわかっているので、デビーラは咳払いで仕切り直してから開始の合図を告げる。


「両者共悔いのないように戦ってね。試合開始!」


 1対1の決勝トーナメントにおいて、戦闘はターン制ゆえにAGIの高い鬼童丸のリビングバルドからターンが始まる。


 鬼童丸は【偉大舞踏グレートダンス】で自分へのバフと相手へのデバフをかけてターンを終え、ヤサーイ王子はデスケアクロウに【霊化ゴーストアウト】を使って霊体化した。


 デスケアクロウが霊体化したことにより、物理攻撃はデスケアクロウに通用しない。


 鬼童丸が1ターン目を準備に充てたのと同様に、ヤサーイ王子も1ターン目は準備に充てた。


 【霊化ゴーストアウト】は地味に厄介なアビリティではあるが、鬼童丸は慌てずに自分のターンを始める。


 「リビングバルド、【遅延円陣ディレイサークル】」


 ターン制の戦闘モードにおいて、【遅延円陣ディレイサークル】は相手が2回ターンを終えるまでの間、自分は2回行動できる効果になる。


 つまり、リビングバルドはもう一度アビリティを使える。


「リビングバルド、【混乱霧コンフュミスト】」


 次のターンに2回攻撃行動できることを考え、鬼童丸は敵の自傷を狙って【混乱霧コンフュミスト】を発動した。


 この対応にデビーラは解説を始める。


「これは鬼童丸の頭脳プレイだね。霊体化したデスケアクロウに攻撃する手段があるのかないのか現時点ではわからないけど、霊体化したデスケアクロウが自分の攻撃で自分にダメージを与えることはあり得る。勢いだけのプレイヤーじゃないってはっきりわかるね」


 ヤサーイ王子は苦い表情で自分のターンを始める。


「乱数よ味方してくれ! デスケアクロウ、【潜影鉤爪シャドークロー】!」


 祈るようにヤサーイ王子が攻撃を宣言するが、混乱状態の五分五分の賭けに負けてデスケアクロウは自分で自分を攻撃した。


「ぐぁぁぁぁぁ!」


「別にダメージはプレイヤーが受ける訳じゃないからね? 次、鬼童丸のターン」


 ノリノリでダメージを受けた演技をするヤサーイ王子に対し、デビーラは白い目を向けて鬼童丸のターンに移ったと告げた。


 どうやらデビーラはUDSの安全性に泥を塗るようなヤサーイ王子の演技を見て、彼に対する好感度が下がったらしい。


「俺のターン。【闇応援ダークエール】からの【破壊蹴撃デストロイシュート】」


 2回行動ゆえに、鬼童丸はリビングバルドにまとめて指示を出した。


 【闇応援ダークエール】で自身の攻撃が霊体化したデスケアクロウにも当たるようになり、その上バフの乗った【破壊蹴撃デストロイシュート】が決まればデスケアクロウの残りHPが一気に0まで削られた。


『鬼童丸がLv55に到達しました』


『リビングバルドがLv42からLv44まで成長しました』


『リビングバルドの【混乱霧コンフュミスト】が【魅了舞踏チャームダンス】に上書きされました』


 戦闘が終わり、鬼童丸とリビングバルドのレベルアップに加えて【混乱霧コンフュミスト】が【魅了舞踏チャームダンス】に上書きされた。


 五分五分の賭けだった【混乱霧コンフュミスト】から、能力値合計で自分より低い敵の動きを一定時間支配するアビリティに変化した。


 鬼童丸がシステムメッセージを見ている一方で、ヤサーイ王子は膝から崩れ落ちた。


「嘘だろ!? そんなのってあんまりだ!」


「そこまで! 第一試合は鬼童丸の勝ち!」


「これがバフマシマシの攻撃の破壊力か…」


「優勝候補はやっぱりつえーわ」


「五分五分の賭けにも勝って無傷だしヤバいわ」


 デビーラが鬼童丸の勝利を宣言すれば、観客席にいたプレイヤー達が鬼童丸の強さに戦慄していた。


 アビリティ構成からして支援系の従魔だとよくわかっているから、リビングバルドは鬼童丸のエースではないこともおのずとわかる。


 予選において、鬼童丸はドラピールの姿すら見せていないので、鬼童丸は真の実力を隠したまま準決勝に駒を進めたことになる。


 鬼童丸がリビングバルドを送還したところで、鬼童丸とヤサーイ王子がVIP席に移動させられた。


 ヤサーイ王子は鬼童丸と向かい合うと笑みを浮かべる。


「頑張れ鬼童丸…。お前がナンバー1だ」


「天丼じゃねえか」


「はい、ということで圧倒的な立ち回りで鬼童丸が勝った訳だけど、VIP席がギスらなくて良かったよ」


「言い方ァ!」


 デビーラの若干ノンデリなコメントを受け、ヤサーイ王子はデビーラに対してツッコんだ。


 観客席のプレイヤー達もそのやり取りに笑っており、デビーラのヤサーイ王子いじりでギスギスした空気にならずに済んだ。


「今回の新人戦では3位決定戦はあるけど、5位以下は順位付けされずに等しくベスト8扱いだからよろしくね」


「認めたくないものだな。1試合しかできないという事実は」


「キャラがブレてるので静かにしてねー」


 デビーラはヤサーイ王子のキャラブレに厳しく、この対応にも観客席のあちこちから笑いが生じた。


 ヤサーイ王子のことはおいといて、鬼童丸は準決勝に進出したからあと2試合できることが決まり、鬼童丸はVIP席で寛ぎつつ他のプレイヤーのお手並みを拝見することにした。

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