第43話 ヒャッハー! 最初の獲物だぁ!
鬼童丸達Aグループの通過者4人が戻って来るのと入れ替わりで、今度はBグループの参加者が予選のエリアに転移させられる。
その途中で宵闇ヤミの目の前にシステムメッセージが表示される。
『1分以内に予選に参加させるアンデッドモンスターを2体選択して下さい』
(鬼童丸さんは機動力を駆使して上手いこと勝ち残ってたなぁ)
宵闇ヤミが先程まで見ていたAグループの予選のことを思い出している時、コメント欄ではヤミんちゅ達が各々の考えるベストな2体をコメントとして投稿していた。
ただし、他のプレイヤーとフェアにするため、デーモンズソフトは特設エリアにいる時以外は宵闇ヤミにコメントを見ないように条件を出しているから、彼女はそのアドバイスとも呼べる投稿を見ていない。
無論、ヤミんちゅ達も事前にその条件は案件配信のルールとして説明されたからわかっているのだが、それでもコメント欄に入力するヤミんちゅ達はいるのだ。
(決めた。ワイローンとグラッジイーターにしよう)
ワイローンの背中に乗れば機動力は申し分なく、グラッジイーターは配信映えするかはさておき敵が自分に関わろうと思わせない点で優秀だ。
1分が経過して移動が完了すれば、宵闇ヤミを含めたBグループのプレイヤー達は夜の大森林にいた。
『予選開始まで3,2,1, START!!』
開始の合図と共に、宵闇ヤミの視界の端にエリアマップが表示された。
時間経過によって削られそうな位置はマップ上で薄い黄色で表示されるけれど、エリアマップによれば宵闇ヤミのスタート地点はエリアの中心部に近くて色は黄色くなかった。
「
エリアの消失に伴って消える危険性は現時点ではないけれど、宵闇ヤミは召喚したワイローンの背中に跨っていつでも移動できるようにする。
大森林の中では動けば音が鳴るから、必要に迫られない限りわざと動く理由もないので周囲を警戒するにとどまるが、宵闇ヤミを見つけたプレイヤーが奇襲を仕掛ける。
「ヒャッハー! 最初の獲物だぁ!」
奇襲だというのにわざわざ声を出すなんてどうかしている。
しかし、そのプレイヤーの髪型がモヒカンで使役しているアンデッドモンスターがグラッジバイクだったため、宵闇ヤミは一見意味のない行為に意味を見出した。
(ロールプレイングね。私が彼を馬鹿にすることはできないわ)
自分もただのゲーマーとしてではなく、VTuber宵闇ヤミとして新人戦に参戦している以上、宵闇ヤミとして築いて来たキャラから大きく逸脱したプレイをするならば、もっとちゃんとした舞台が必要だ。
その点、モヒカン頭の男性プレイヤーはポストアポカリプスの世界をヒャッハーなチンピラスタイルで楽しんでいるのだから、彼の楽しみ方を宵闇ヤミがどうこう言うのは筋違いと言えよう。
彼が乗るグラッジバイクはスカルバイクとグラッジセンチピードを
セットコマンドで【
「ワイローン、回避しながら【
立ち止まって迎撃せずともワイローンのDEXなら攻撃を外さないと判断し、宵闇ヤミはワイローンに逃げながら【
その読みは正しく、直線的に突撃して来るグラッジバイクを横に回避しつつ連続してダメージを与えられた。
「ぐぁぁぁ!?」
グラッジバイクはダメージを負っても吹き飛ばされたりはしないが、グラッジバイクに乗っているプレイヤーは別だ。
アンデッドモンスターの攻撃でダメージを負うことはなくとも、その衝撃は肌で感じるからグラッジバイクから振り落とされてしまう。
主人の指示待ちをする従魔なんてただの的だから、宵闇ヤミは続けて指示を出す。
「ワイローン、【
足元から暗黒の棘を突き刺せば、グラッジバイクのHPが一気に削れて横転してそのままダウン状態になる。
追撃のボタンが宵闇ヤミの視界に現れたため、それを押してモヒカン頭の男性プレイヤーが立ち上がる前にグラッジバイクを倒した。
「ノォォォォォ! 俺のバイクがぁぁぁぁぁ!」
その叫び声は無駄に大きく、周囲にいたらしいプレイヤーを呼び寄せてしまう。
「逃げるんだよォ!」
ネタに走りつつ宵闇ヤミはこの場から撤退し、先程の叫び声で集まって来たプレイヤー達とどうにか遭遇せずに済んだ。
丁度5分が経過したため、エリア全体に向けてアナウンスが聞こえる。
『5分経過。エリアが狭くなります』
事務的なメッセージが聞こえた後、宵闇ヤミのエリアマップが狭くなっていた。
エリアマップにはプレイヤーの情報もその従魔の情報も映し出されないから、誰が予選から脱落したのか全くわからない。
夜の大森林で茂みからどんなプレイヤーが出て来るか見通せる手段がないため、宵闇ヤミはとりあえず先程の位置よりもエリアの中心部に向かって進むことにした。
完全に中心地に向かえば、エリアが狭まる際に脱落することはなくなるのは間違いないけれど、それを狙っている他のプレイヤーと鉢合わせする可能性が高まる。
Aグループでは鬼童丸とジョブホッパーだけが最後に残っていたから争いにはならなかったが、この大森林は茂みを無理やり突っ切ろうと思えば突っ切れるから、Aグループの予選よりも中心部に行きやすい。
それを考慮して導き出した宵闇ヤミの答えは、中心部付近まで移動して静かに身を潜めるというものだった。
『10分経過。エリアが狭くなります』
事務的なメッセージが聞こえた後、宵闇ヤミの視界で再びエリアマップが狭くなった。
あと20分生き残らなければならない訳だが、宵闇ヤミのスニーキングミッションは失敗に終わる。
「「あ」」
宵闇ヤミと同じことを考えていた女性プレイヤーとばったり出くわしてしまったのだ。
条件が揃えば逃げたいところだが、その女性プレイヤーも宵闇ヤミと同じで機動力に長けた従魔に乗っている。
そのモンスターとは、フライングピクチャーという額縁に入った肖像画である。
スケルトン系ともゾンビ系ともマッチしないフライングピクチャーは、ゴースト系のモンスターに分類されており肖像画に憑依している。
額縁に実体があるから、女性プレイヤーは額縁を絨毯替わりにして乗って移動できているという訳だ。
「
フライングピクチャーは戦闘向きではないという判断なのか、女性プレイヤーはグラッジセティスをすぐに召喚した。
1対2ではワイローンも形勢不利だから、宵闇ヤミはセットコマンドでワイローンに【
「
グラッジセティスよりもずっと強い融合アンデッドを見て、その女性プレイヤーは勝負を挑む相手を間違えたと悟る。
言葉に出すのは気が引けたから、宵闇ヤミは【
【流石ヤミヤミ汚い!】
【これがヤミヤミのやり方かぁぁぁぁぁ!】
【無言でゲロをぶちまけるたぁ恐ろしいぜぇ】
宵闇ヤミの見ていないコメント欄では、ヤミんちゅ達がそれで良いのかと宵闇ヤミに笑い半分呆れ半分のコメントを投稿していく。
【
『15分経過。エリアが狭くなります』
『基準値を超える生存者が確認されたため、掃除屋が予選のエリアに解き放たれました』
(まだ半分も時間があるのに掃除屋が!?)
アナウンスが掃除屋の出現をエリア全体に告げたため、宵闇ヤミにも対峙する女性プレイヤーにも焦りが見える。
「笹食ってる場合じゃないからバイバイ」
宵闇ヤミはセットコマンドを使い、ワイローンには【
物量で攻めてHPをガリガリ削ったところで、猛毒の霧が女性プレイヤーの周囲に広まって2体のモンスターのHPを経過ダメージでとどめを刺す。
戦闘が終わった直後、ドシンドシンという音が段々と近づいて来るのが宵闇ヤミの耳に届いて来た。
見上げると超巨大な骸骨、ガシャドクロが大森林を歩いて破壊していた。
(急いでこの場から離れないと)
グラッジイーターを送還し、宵闇ヤミはワイローンの背中に乗ってこの場から移動し始める。
大きな足音は大森林の木々を薙ぎ倒して近づいて来る。
(1歩が大き過ぎるでしょ!)
数分間逃げ続けた結果、次のアナウンスがエリア全体に響き渡る。
『20分経過。エリアが狭くなりました』
『現時点でBグループの生存者が宵闇ヤミ、ヴァルキリー、ヤサーイ王子、バブエモンの4名まで減ったため、これにてBグループの予選は終了です。お疲れ様でした』
『宵闇ヤミがLv52に到達しました』
『ワイローンがLv39からLv43まで成長しました』
『ワイローンの【
『グラッジイーターがLv33からLv39まで成長しました』
(ガシャドクロから逃げて正解だった。逃げてなかったら一瞬でリタイアしてたよ…)
そのアナウンスが終わり、ホッとした宵闇ヤミは特設エリアに転移させられた。
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