第42話 一般通過すんな!
予選のエリアに転移させられている間、鬼童丸の目の前にシステムメッセージが表示される。
『1分以内に予選に参加させるアンデッドモンスターを2体選択して下さい』
(予選は機動力が重要だろうな)
デビーラの説明によれば、予選のエリアは時間経過によって狭まっていくことを思い出したため、鬼童丸はドラピールとフロストヴィークルを選択した。
どちらも機動性が高く、鬼童丸の移動を助けてくれるのは間違いない。
1分が経過して移動が完了したら、鬼童丸を含めたAグループのプレイヤー達は夜のゴーストタウンにいた。
『予選開始まで3,2,1, START!!』
開始の合図と共に、鬼童丸の視界の端にエリアマップが表示された。
時間経過によって削られそうな位置はマップ上で薄い黄色で表示されるが、エリアマップによれば自分のスタート地点はエリアの端で色は黄色かった。
「
バイク形態でフロストヴィークルが召喚されれば、鬼童丸はすぐにそれに跨る。
フロストヴィークルに乗って移動する場合、リアルでは運転できなくてもゲーム内アシストが発動するので安心してフロストヴィークルに乗って移動できる。
通常のバイクならばガソリンで走るから音が煩いけれど、フロストヴィークルはアンデッドモンスターでガソリンという燃料は不要だから電気自動車並みに移動は静かだ。
安全圏に移動している途中で、バイクを運転する鬼童丸を見つけたプレイヤーが予想外の光景に騒ぎ出す。
「バイク!? 新人戦にアイテムを持ち込むなんてチートだろ!」
「フロストヴィークル、煩いプレイヤーの従魔に【
鬼童丸をチート呼ばわりしたプレイヤーの隣にはグリムロスがいたが、【
これで鬼童丸がアイテムを持ち込んだという疑惑は晴れ、凍り付いたグリムロスのHPがじわじわと減っていくことでそのプレイヤーは慌てて2体目の従魔を召喚する。
「
「フロストヴィークル、ジェネラルゴブリンゾンビに【
召喚してすぐにフロストヴィークルがジェネラルゴブリンゾンビを凍り付かせたため、判断ミスをしたプレイヤーが騒ぎ立てる。
「あぁ、くっそ! なんでだよ! 正々堂々戦えよ!」
「準備不足のお前が悪い。フロストヴィークル、【
【
続けてセットコマンドの【
その瞬間、やられたプレイヤーが予選に失格してこの場から特設エリアに強制送還させられた。
(プレイヤーを倒しても特にアナウンスはないのか)
予選のエリア全体に届くアナウンスをされると無駄に目立ってしまうから、特に何もアナウンスされなかったことに鬼童丸はホッとした。
予選の様子は特設エリアにいるプレイヤーが見ているから、鬼童丸はできるだけドラピールを温存するつもりでいる。
しかし、鬼童丸にやられたプレイヤーの声を聞きつけて近くにいた別のプレイヤーが近づいて来る。
(寄ってくる奴全員と戦ってたら無駄にMPを消耗する。ここは戦略的前進だな)
逃げるという言葉を使わずに戦略的前進と表現したのは、他のプレイヤーが横から接近してきていて自分は直進したからだ。
そもそも、鬼童丸がいた場所は時間経過によって消える予定だったから、長居していたらうっかり失格になってしまう。
5分が経過したタイミングで、エリア全体に向けてアナウンスが聞こえる。
『5分経過。エリアが狭くなります』
事務的なメッセージが聞こえた後、鬼童丸の視界の端でエリアマップが狭くなっていた。
エリアマップにはプレイヤーの情報も乗らなければ、その従魔の情報も映し出されない。
それゆえ、曲がり角でばったりなんてこともあり得る。
鬼童丸が戦闘をできるだけ回避して移動に専念しているのに対し、他のプレイヤーはエリアが狭まるとわかっていても戦闘を優先する者ばかりのようだ。
(エリアが狭くなった時に巻き込まれても知らんぞ)
そんな風に思いながら鬼童丸が移動していると、視界に三つ巴で戦闘中のプレイヤー達を見つけた。
『10分経過。エリアが狭くなります』
鬼童丸は余裕をもって消失する予定の場所から移動できていたが、三つ巴のプレイヤー達は仲良く失格になっていた。
(優先順位を考えろよ…)
失格になった3人に対し、鬼童丸はやれやれと小さく溜息をついた。
Aグループの予選では、5分毎に外側からエリアが消失して最終的には中心部しか残らない仕組みだ。
一番端にいた鬼童丸は中心部を目指して移動しているものの、最短距離を進めば狙われると思って寄り道しており、そのせいでほんの少しだけのゆとりをもって移動しているような状態である。
『15分経過。エリアが狭くなります』
エリアの半分が消失し、そろそろどの道を通っても誰かしらと遭遇してしまいそうな頃合いだ。
丁度その時、前方でリバースが別のプレイヤーと戦闘をしていた。
(この戦闘にも介入しないでおこう)
「頑張れー」
「一般通過すんな!」
「鬼童丸ぅぅぅ!? 俺と戦え!」
リバースのツッコミはさておき、もう1人のプレイヤーは鬼童丸に対して過剰に反応していた。
そのプレイヤーは鬼童丸と戦いたかったようだが、鬼童丸に気を取られた発言はリバースをイラっとさせるには十分だった。
「余所見とは余裕だな、きたくぶちょー!」
リバースはセットコマンドでリビングピエロに攻撃指示を出し、鬼童丸に気を取られたきたくぶちょーは判断が遅れてフランケンゴーレムをダウンさせられる。
ダウン状態にしてしまえば追撃ができるから、リバースはきたくぶちょーのフランケンゴーレムを追撃してHPを削り切った。
後方でそんなことになっているとは知らず、鬼童丸はとにかくエリアの中心部を目指してフロストヴィークルを前進させる。
ここから先は寄り道していてもごり押しで振り切ることを想定し、鬼童丸は最短距離を進む方針に切り替えた。
『20分経過。エリアが狭くなります』
『基準値を超える生存者が確認されたため、掃除屋が予選のエリアに解き放たれました』
(掃除屋…だと…?)
その響きからして通常のアンデッドモンスターではないことは明らかだから、鬼童丸はアナウンスを聞いて周囲を警戒した。
新人戦の説明において掃除屋の存在なんて公開されなかったことから、掃除屋の存在はプレイヤーに対するサプライズなのだろう。
このアナウンスを聞いていたらしい生存者達は、あちこちで掃除屋の出現に対して不満の声を上げた。
わざわざ自分の居場所を伝えてしまうことを失念していたらしく、掃除屋が声を出したプレイヤーを奇襲する。
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!? 出たぁぁぁぁぁ!?」
(あっちには行かないようにしよう)
悲鳴が聞こえた方角に掃除屋がいると判断し、鬼童丸は掃除屋に出くわさないルートを考えて中心部に向かう。
現状では遭遇したプレイヤーが悲鳴を上げただけなので、掃除屋に対する情報が全くないのだ。
この状況で掃除屋と遭遇してしまった場合、フロストヴィークルだけでは太刀打ちできない可能性があるからできれば会いたくないのが鬼童丸の本音である。
だがちょっと待ってほしい。
会いたくないと思った時の方が会ってしまうのだ。
鬼童丸は十字路を直進しようとした時、掃除屋と思しきアンデッドモンスターがのしのしと飛び出して来るのを見つけた。
それは一軒家と同程度のサイズの赤い肉で構成されたゴーレムだった。
(掃除屋のフレッシュゴーレム。逃げるんだよォ!)
表示されたステータスを素早く確認し、フレッシュゴーレムが掃除屋であると知った鬼童丸はフロストヴィークルに【
『25分経過。エリアが狭くなります』
『依然として基準値を超える生存者が確認されたため、掃除屋が予選のエリアに留まり生存者を減らします』
(チッ、消えないのか)
鬼童丸はフレッシュゴーレムに追われて逃げた。
フレッシュゴーレムのAGIはフロストヴィークルのAGIの数値よりも低いため、逃げる時間が長引けば長引くだけ距離が開く。
これではプログラムされた生存者討伐という役割を果たせないと判断し、フレッシュゴーレムは鬼童丸を追いかけなくなり、他の逃げ足が遅いプレイヤーを襲い始めた。
なんとかエリアの中心部に到着した鬼童丸だが、その中心部には新人戦が始まる前に話したジョブホッパーがいた。
逆に言えばジョブホッパーしかいなかった訳だが、鬼童丸が何か喋り出す前にジョブホッパーから口火を切る。
「鬼童丸さん、ここは制限時間終了まで待たないか? 掃除屋が暴れ回ってるのなら、制限時間内に4人までプレイヤーが減るかもしれないし」
「別に構わん」
それから数分後、システムアナウンスがエリア全体に届けられる。
『30分経過しました。Aグループの生存者は鬼童丸、ジョブホッパー、リバース、きたくぶちょーです。お疲れ様でした』
『鬼童丸がLv54に到達しました』
『ドラピールがLv44からLv46まで成長しました』
『フロストヴィークルがLv6からLv10まで成長しました』
『フロストヴィークルの【
そのアナウンスが終わるのと同時に、鬼童丸達は特設エリアに転移させられた。
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