第5章 Rookie's Match

第41話 ネクロマンサーのみんな〜、こ~んにちは~!

 新人戦当日、久遠は端末を起動してUDSに鬼童丸としてログインする。


 いつもならログアウト地点にログインするのだが、今日は新人戦に参加すると自動的に新人戦用の特設エリアに飛ばされた。


 特設エリアへの入場は新人戦開始1時間前から可能であり、鬼童丸が入場したのは新人戦15分前だ。


 既にそこそこの数のプレイヤーが入場しており、集会ゾーンで情報交換をしたりバトルゾーンで模擬戦をしていた。


 (新人戦前に模擬戦ねぇ。そういう戦術もありっちゃありか)


 本来は模擬戦で従魔が負ったダメージは回復しないのだが、この特設エリアに設けられたバトルゾーンで模擬戦をした場合、勝っても負けても経験値が得られない代わりにHPもMPも全快するようになっている。


 新人戦前に模擬戦をすれば手の内を晒すことになるけれど、強さをアピールして他のプレイヤーをビビらせることもできる。


 現時点で新人戦前がどんなルールなのか発表されていないが、ビビらせることで本来の力を発揮させないようにするのも戦術と言えよう。


 もっとも、鬼童丸はそんなことをするのは目立ちたがりかマウントを取りたがる者だと思っているから、大して興味を示さなかった。


 集会ゾーンに知り合いがいないかと思って移動したら、宵闇ヤミが鬼童丸を見つけて駆けつける。


「鬼童丸さん、こんやみ~!」


「こんやみー。もう配信中?」


「そうだよ。というか落ち着き過ぎでしょ。周りはこんなに騒がしいのに」


「他所は他所。うちはうち」


「そんなオカンルール持ち出さないでよ」


「ええじゃないか」


 新人戦でテンションが上がっている自分と比べ、鬼童丸はあくまで冷静だから宵闇ヤミは苦笑する。


 そこに1人の男性プレイヤーが近づいて来た。


「失礼、鬼童丸さんとお見受けするが少しよろしいか? 私はジョブホッパーという者だ」


「あー、検証班のリーダーか。世田谷区で検証班を名乗る2人組に待ち伏せされたんだけど、それってあんたの仲間?」


「…申し訳ない。鬼童丸さんにも影響が及んでたか。それは偽者だ。新人戦を有利に進めようとして検証班を名乗ったのだろう。我々は他のプレイヤーとギスギスしないよう、情報提供してほしい時は正々堂々会いに行くか連絡を取る。待ち伏せのような真似はしない」


「その口ぶりからして、他のプレイヤーにも偽者が検証班を騙って突撃してそうだな」


「恥ずかしい限りだがその通りだ。そのような奴等は見つけ次第お灸を据えてるが、今度お詫びをさせてもらえないだろうか? 今日は新人戦に集中すべきだから、後日時間をいただきたい」


 (検証班と敵対する理由もなければ意味もない。ここら辺が落としどころかね)


 孤高のプレイヤーを気取りたい訳でもなければ、ジョブホッパーにネチネチと言いたい訳でもないから、鬼童丸はその条件で了承することにした。


「今度な。検証班が誠意を見せてくれるのなら、俺もそちらの質問に答えても良い」


「感謝する。先程はきたくぶちょーさんに酷い剣幕で断られてしまってな。正直、鬼童丸さんさんが大人な対応をしてくれてホッとしてる」


「聞く限り短気なプレイヤーらしいからな。まあ、何時までも気に病んでないで気持ちを切り替えようぜ。なんてったって今日はUDS初イベントなんだから」


「そうだな。ありがとう。では、失礼するよ」


 ジョブホッパーはペコリとお辞儀をして他の検証班達と合流した。


 鬼童丸とジョブホッパーの会話が終わり、宵闇ヤミは感心していた。


「鬼童丸さんってナチュラルに強者感出すね。さっきの会話でも完全に流れは鬼童丸さんが握ってたし」


「それはあちらに負い目があったからそう感じただけだろ。順位はむしろこれからの新人戦で決まるんだから、今は公式的には横一列だろ」


「…鬼童丸さん、男爵よりも良い称号を手に入れてて横一列はないと思うんだけど」


「ノーコメント」


 ここで誰から訊いたなんて口にすれば、宵闇ヤミが当てずっぽうで言ったかもしれないことを肯定したことになる。


 だからこそ、鬼童丸は聞き返すこともしなければ惚けもせずポーカーフェイスを貫いた。


 やみんちゅ達はコメント欄であれこれ予想を語っているが、それを鬼童丸が知る由もないから全く動じない。


「おっ、見つけたぞ」


「ハーイ」


「リバースとヴァルキリーか。また一緒だなんて仲が良いな」


「「誰がこいつと!」」


「ほらぴったり」


 シンクロするリバースとヴァルキリーに対し、鬼童丸は揶揄うように笑う。


 鬼童丸達のやりとりがあまりにもいつものメンバーだったので、宵闇ヤミは疎外感があってムッとした表情で鬼童丸の方を見る。


 その視線にピンと来たリバースは、仕返しだと言わんばかりに喋り出す。


「ほら、俺達と仲良く喋ってるから宵闇さんが嫉妬してるぞ」


「嫉妬してんの?」


「してるよ」


「そっか。人気者でごめん」


「鬼童丸さんの馬鹿!」


 とても良い笑顔で鬼童丸がそんなことを言えば、宵闇ヤミがポカポカと鬼童丸を叩く。


 その行動に攻撃性がないと判定されたからか、宵闇ヤミの拳は鬼童丸の体に当たる。


 (変なところだけ配慮しなくて良いんだぞ、運営デーモンズソフトさんよ)


 このエリアの何処かで自分達を見ているに違いない運営に対し、鬼童丸は心の中で抗議した。


 4人で喋っている間に時間が経ち、新人戦開催時刻を迎えて特設エリアが真っ暗になる。


 その直後に特設エリアの上空にスポットライトが当たり、そこにはメスガキ小悪魔が現れた。


 この小悪魔こそデーモンズソフトのマスコットキャラであるデビーラだ。


「ネクロマンサーのみんな〜、こ~んにちは~!」


 教育番組の歌のお兄さんやお姉さんを想起させる挨拶をして耳に手を当てるデビーラに対し、この場に集まった全てのプレイヤーが困惑する。


「あれれ~? 聞こえなかったのかな〜? それじゃあもう一度だね〜。こ~んにちは~!」


『『『…『『こ~んにちは~!』』…』』


 繰り返しやっても誰も返事をしないと思ったらしく、どこからともなく事前に収録されたらしい複数人の返事をする声が特設エリア内に響いた。


 (デビーラはAIか中に人が入ってるのか。後者だったら恥ずかしいよな)


 デビーラの挨拶を見て、このエリアにおいて鬼童丸のように考える者は少なくないだろう。


「まったくもう、誰しも通るだろう番組をパロってみたのに乗ってくれないなんて寂しいね。という訳で、私が、私こそがデーモンズソフトの誇るマスコット、デビーラだよ!」


『可愛い~♡』


『セクシー♡』


『持ち帰りた~い♡』


 (これ、中に人いるだろ。収録しておいた音声がなきゃ耐えられないだろ)


 鬼童丸は自然とデビーラに向けてかわいそうなものを見る目になっていた。


 役割として求められるからとはいえ、今のデビーラと同じように演じてみせろと言われたら鬼童丸は間違いなく断る。


 自分が可愛そうな目で見られていると気づき、デビーラは目に涙を浮かべる。


「べ、別に恥ずかしくなんてないもん! もう、ちゃっちゃと新人戦について説明しちゃうからね!」


 デビーラが説明した新人戦の内容をまとめると以下の通りになる。



 ・新人戦は大きく分けて予選と決勝トーナメントの2つで構成される

 ・予選を通過できるのは8人のプレイヤーで、8人が本戦のトーナメントに進める

 ・予選は2組に分かれて乱戦モードによるサバイバルゲームを行い、1組4人が残るまで続く

 ・予選の制限時間は30分で、5分毎にエリアが狭まっていく

 ・予選が終わり次第、全てのプレイヤーの従魔のHPとMPは回復する

 ・決勝トーナメントで1位~4位のプレイヤーまでアイテムがプレゼントされる

 ・新人戦では持ち込んだアイテムの使用不可

 ・新人戦で倒れたモンスターは模擬戦の敗北と同様にロスしない

 ・新人戦では倒した全ての敵から経験値が得られる

 ・新人戦において一切の称号の効果は無効化される

 ・新人戦で八百長が発覚した場合、八百長に関与した全てのプレイヤーを失格とする

 ・新人戦はデーモンズソフトのWeTubeチャンネルと宵闇ヤミチャンネルで配信されている



 (もっととんでもない内容が提示されるかもって思ったけど、案外まともだったな)


 尖っていることで有名なデーモンズソフトだから、負けた従魔はロスするという可能性もあった。


 それゆえ、鬼童丸は従魔を鍛えられるだけ鍛えた訳だが最悪のシナリオは回避されたらしい。


「さぁて、それじゃあこれからランダムでみんなをAグループとBグループに振り分けるね。振り分けたらAグループから予選を開始するよ」


 デビーラがそう言って指パッチンした瞬間、鬼童丸を含む半数のプレイヤーの視界にAグループと表示され、そのまま光に包まれて予選で使われるエリアに移動させられた。

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