第37話 経験値ウマウマアンデッドってことね、了解

 新人戦前日の金曜日の昼休み、久遠は会社近くのスパゲッティ専門店でスマホを見ていた。


 (今更だけど急に同窓会やろうぜってノリと勢いの話だったな)


 昨日、高校時代の友人からクラスの同窓会やるから参加してくれと頼まれたため、鬼童丸はそのチャットを見返して苦笑していた。


 同窓会を開くのは別に構わないのだが、ちゃんとやろうとするならば1ヶ月先で場所もちゃんとしたところを予約するはずだ。


 それが次の日曜日の昼にやるから来てと高校時代のノリで誘われ、別に外せない予定もなかったから久遠はOKと回答した。


 仮に同窓会が明日と言われたら、UDSの新人戦があるので久遠は断っていたに違いないが、新人戦翌日なら別に構わない。


 自分に連絡をくれた友人の反応からして、同窓会と銘打っているものの1人でも多くのクラスメイトを集めようなんて感じはしなかったから、おそらく何か企んでいるのではないかと考えている。


 そんなことを考えていたら、久遠のスマホに同窓会の幹事をやっている友人からチャットが来た。


 そこには男性陣と女性陣の参加者一覧と書かれており、久遠は学生時代にあまり喋る機会のない名前を見つけた。


 (花咲桔梗さんか。陽キャとかギャルって印象はないけど、地味に人気があったっけ)


 同じクラスの男子の中で、桔梗はそこそこ人気があったことをうっすら覚えており、久遠はあの人も来るのかぐらいの気持ちでいた。


 それ以外のメンバーは同窓会をやろうといったら真っ先に行くと答える者達ばかりであり、桔梗が来るのは意外だった。


 ただ、女性側の幹事が桔梗と仲が良かったクラスメイトだったことを思い出し、誘われて断れなかったのだろうと推測した。


 時計に目をやればそろそろ昼休みが終わるということで、久遠はスマホをポケットにしまって会計を済ませて店を出た。


 会社ブリッジに戻ったら、何やら営業第二課の社員が慌ただしくしていた。


 (何やら危険なスメルがするぞ)


 その予感は正しく、久遠の姿を見つけた上司の石原が久遠に声をかける。


「鬼灯君、帰って来て早々で申し訳ないけど悪い知らせだ。営業第二課でトラブルが起きた」


「どの国でのトラブルですか?」


「A国だ。送り出した学生のインターン先の企業で発砲事件が起きたらしい」


「うわぁ、物騒ですね」


 A国では日本と違って拳銃を持っている市民が少なくない。


 それゆえ、数としては多いわけではないのだが、いきなり銃を発砲するなんて事件が起きたりする訳だが、今回は最悪なことにブリッジが学生を送り出した企業で発砲事件が起きたそうだ。


「幸い、今入って来た情報の限りでは送り出した学生に怪我はないらしいが、安全だと思ったインターン先で発砲事件が起きたものだから、学生の親御さんと大学側から抗議の電話が来るし、マスコミ対応もあって営業第二課はその対応に追われるだろう」


「その皺寄せが営業第一課にも来ますかね?」


「来る。現に本来は営業第二課のするべき業務が営業第一課と営業第三課に数日分振り分けられるそうだ。まあ、同じ営業部で知らんぷりもできまい。鬼灯君にも苦労をかけるが力を貸してほしい」


「わかりました」


 (今日は残業確定かね、こりゃ)


 UDSの新人戦に向けて最終調整をするつもりだったけれど、緊急事態だから仕方あるまい。


 この日、久遠は通常業務に加えて臨時で振り分けられた営業第二課の業務もこなし、通常よりも1時間半多く働いてから帰社した。


 他の社員が久遠の業務をした場合、おそらく倍近くかかっただろう業務量なのだが、久遠はUDSをやりたい一心で効率的に働いて退勤したのだ。


 金曜日ということもあり、本来やらなくて良い業務もやった疲れから飲みに行こうなんて話をしている社員もいたが、久遠は用事があると言って断った。


 途中で食事をして帰ったら午後8時を過ぎており、身支度を済ませて後はもう寝るだけという状態でログインする時には午後9時を過ぎたところだった。


 鬼童丸としてログインしたら、ログイン先でタナトスが待っていた。


「来たか鬼童丸。明日の新人戦について連絡事項がある」


「連絡事項?」


「そうだ。現在、鬼童丸と他のプレイヤーで差が開き過ぎてしまってな。大会期間中だけ全プレイヤーの称号効果を無効にすることになった」


「やっぱりナーフされるか。それじゃあ、今日中に鍛えられるだけ鍛えていけないな」


 <鏖殺子爵(新宿・文京・中野・荒川・杉並)>の効果を考えれば、新人戦においてナーフされるのは予想できた。


 最悪の場合、自分だけナーフされるかもしれないと思っていたが、デーモンズソフトにも良心はちゃんと残っていたようで、新人戦の開催中だけ一律で称号効果が無効化されることになった。


 この知らせを聞きホッとするとともに、早く鍛えなければと鬼童丸は思った。


「その方が良い。日付が変わると共に地獄の権力者が特別なステージをこの世界に用意するため、新人戦開始1時間前まで鬼童丸達新人は立ち入り禁止と聞かされている。今の内に強くなれるだけ強くなるのだ」


「わかった」


 鬼童丸はタナトスからⅡ型の各種ブースターを交換してもらい、全てをデスライダーに与えた。


 ドラピールには既に投与してあるから、ドラピールの次に活躍が期待されるデスライダーに与えた訳だ。


 これにより、デスライダーの全能力値が永久的に100ずつ上がった。


 杉並区はまだ安全地帯になっておらず、自分以外のプレイヤーを立入禁止にしているから今日は杉並区が鬼童丸の狩場だ。


 杉並公会堂まで転移してから、杉並区を安全地帯にするべくまだ杉並区で足を運んでいない方面に向けて出発する。


 今日は時間が限られているから、多少の危険を覚悟してドラピールに抱えられた状態で空から杉並区を探索し始める。


 (ん? あそこのホームセンターにアンデッドモンスターが集まってる?)


 空から見下ろしたことで、鬼童丸はすぐにアンデッドモンスターの集団を見つけた。


 ドラピールが着陸するタイミングで他の従魔も召喚する。


召喚サモン:デスライダー。召喚サモン:リビングバルド。召喚サモン:レギマンダー。召喚サモン:フロストキャリッジ」


 デスライダーの【引力体グラビボディ】により、ホームセンターに群れていたアンデッドモンスター達が一斉にデスライダーに押し寄せる。


 それを最大火力のセットコマンドで対処すれば、あっさりとこの乱戦は終わるはずだった。


 ところが、倒れたアンデッドモンスターがカードになる前に黒い靄に変換され、ホームセンターの敷地内にある怪しげな木に吸収されてしまった。


 (デッドツリー? トレントみたいなアンデッドモンスターまでいるとはね)


 アイテムではないだろうと判断して調べてみれば、その木には不気味な顔が彫られておりデッドツリーというアンデッドモンスターであることが明らかになった。


 デッドツリーの枝には吸収したアンデッドモンスターのカードが果実の代わりに生っており、害悪ネクロマンサーが使役するアンデッドモンスターぐらいの強さはあった。


 カードが重力に負けて地面に落ちると同時に、カードに描かれたアンデッドモンスターが現れた。


 (アンデッドモンスターのリスポーンポイントってこと?)


 先にデッドツリーを倒さない限り、半永久的に雑魚モブが復活するとわかったから、鬼童丸はデッドツリーにダメージを与えつつ復活した雑魚モブもまとめて倒すよう指示を出す。


「ドラピール、【暗黒砲ダークネスブラスト】で薙ぎ払え」


 暗黒のビームで薙ぎ払えば、デッドツリーに大ダメージが入る。


 しかし、倒れた雑魚モブのカードがデッドツリーの枝に生り、それが消えることでデッドツリーのHPが回復した。


 (雑魚モブのリスポーンになるだけじゃなくて、雑魚モブを消費することでHPも回復できるのか。面倒臭い)


 デッドツリーの厄介な戦闘スタイルを理解し、鬼童丸はセットコマンドで一気に畳みかける。


 枝に生っていたカードが0枚になってしまえば、デッドツリーに回復手段なんて残っていない。


 リビングバルドの【剛力蹴撃メガトンシュート】がデッドツリーのHPを削り切り、デッドツリーが倒れてそのままカードになった。


『鬼童丸がLv48からLv50まで成長しました』


『ドラピールがLv26からLv32まで成長しました』


『デスライダーがLv26からLv32まで成長しました』


『リビングバルドがLv23からLv29まで成長しました』


『レギマンダーがLv23からLv29まで成長しました』


『フロストキャリッジがLv32からLv44まで成長しました』


『デッドツリーを1枚手に入れました』


 (経験値ウマウマアンデッドってことね、了解)


 手に入ったカードはデッドツリーのものだけだったが、杉並区にもう1体デッドツリーがいないかと思うぐらいにはデッドツリーと雑魚モブ連合は経験値的に美味しいのは間違いない。

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