第36話 愉悦は共通言語。異論は認めない
UDSからログアウトしたため、宵闇ヤミの中身である花咲桔梗は立ち上がる。
ショート動画の編集をする前に、昼になってお腹空いたから部屋を出てリビングに移動しようとした時、机の脇に置いておいた手紙の存在を思い出した。
「あっ、しまった。手紙のこと忘れてた」
桔梗の家族は桔梗が家でできる仕事を始めたと説明を受けているため、桔梗宛ての手紙があってもいきなり部屋に入って来たりしない。
だからこそ、桔梗宛て郵便物があった場合にはリビングのテーブルの上にわかりやすく置いてあり、それがいつ届いたものだとメモが添えられていて、それを桔梗が確認して部屋に持ち帰る。
この手紙は火曜日に届いたものだが、鬼童丸とのコラボや新人戦のことで頭がいっぱいであり後回しになっていた。
急ぎだったら不味いと思って手紙を手に取って開けてみたところ、それは桔梗の通っていた高校のクラスの同窓会のお知らせだった。
「同窓会かぁ…」
別に高校時代はスクールカーストも中の上ぐらいだから、絶対に行きたくないということはない。
ただし、ちょっとずつ収益が出始めたもののVTuberであることは表に出せないから、今はどんな仕事をしているのかと訊かれた時に誤魔化さなければならない。
それはどうにか誤魔化せそうだから良いが、桔梗はそれよりも同窓会に行って確かめたいことがあった。
同窓会で会ってみたいクラスメイトがいるから、同窓会に行ってみようかという気持ちになっている。
(鬼灯君が来るかな? 鬼灯君と話がしたい)
桔梗が鬼灯君と呼ぶ人物とは鬼灯久遠のことだ。
2人は同じ高校のクラスメイトであり、桔梗は高校時代に久遠が鬼童丸という名義でゲームをしていると聞いたことがあった。
それゆえ、桔梗は恩義のある鬼童丸の正体が久遠なのか確かめたいと思っている。
その時、桔梗はスマホに高校時代の友人から同窓会に行くかとチャットで質問された。
退職するにあたって相談したことはないが、時々会って遊ぶぐらいには仲の良い友人からのチャットということで、桔梗はその友人が行くか訊ねた。
回答は行くというもので、先程の手紙では見逃してしまったがその友人が同窓会の女性側の幹事であり、桔梗が招待状を見て何も言ってこないからリマインドして来たのだとわかった。
しかも、桔梗がまだ質問してもいないにもかかわらず、招待状が来る前から元々来ると言っていたメンバーの名前を教えてくれた。
そこに久遠の名前もあったから、桔梗は行くと答えた訳である。
(鬼灯君が鬼童丸さんだったら良いな。ううん、きっとそうだよ)
同窓会の招待状に返信せずともチャットで答えて良いと言われたから、桔梗は幹事の友人にチャットでの回答で返事を済ませられた。
昼食は家にある食材を使って適当に作ってから食べ、桔梗は自室へと戻って行った。
それからショート動画の編集を行い、WeTubeにガチャ3回勝負の様子を投稿したところ、宵闇ヤミのチャンネル登録者だけでなく新規の視聴者も登録してもらえるようになった。
登録者数もじわじわ増えて気づけば5,000人を超えていた。
登録者数が増えていくことで、同時接続者数が増えて広告収入も増える。
ショート動画のコメント欄に愉悦勢がぞろぞろと湧いているが、3回目の11連ガチャで何が当たったのか質問するも者もいる。
それから夜のゲーム配信のサムネイル画像を作成し、夕食を取ってから桔梗は配信の準備を済ませてUDSに宵闇ヤミとしてログインした。
「こんやみ~。今日のショート動画で愉悦勢が大量発生した悪魔系VTuber宵闇ヤミで~す。よろしくお願いしま~す」
【愉悦をありがとう! (愉悦代:2,828円)】
【とてもヤミ虐が捗りました。愉悦をありがとうございました (愉悦代:2,525円)】
「くっ、愉悦代だからスパチャを素直に喜べない…」
宵闇ヤミは挨拶して早々に送られて来たスーパーチャットに感謝したが、それが愉悦勢からのスーパーチャットだったので素直に喜ぶには抵抗があった。
同時接続者数もじわじわ増えており、ショート動画から来たというコメントもちらほらコメント欄に見えた。
「ショート動画から来てくれた人もいるんだね。愉悦勢が湧いただけの気もするけど」
【せやかて宵闇!】
【愉悦は共通言語。異論は認めない】
【ヤミヤミ、ガチャで当てたアンデッドモンスター見せて (情報代:500円)】
コメント欄には大きく分けて2つの派閥のヤミんちゅがいた。
それは愉悦勢とUDSの情報が欲しい者達だ。
いくら新人戦前だからと言って、なんでもかんでも隠しているとヤミんちゅ達がチャンネルを離れてしまう。
そう考えるとステータスこそ見せられないが、宵闇ヤミは融合アンデッドであるグレイヴアサシンを見せることにする。
「
【来ちゃ!】
【ビリビリしてるじゃん!】
【雷属性は珍しいな】
包帯とマントで素肌を隠し、電気を纏うグレイヴアサシンを見てヤミんちゅ達は次々にコメントを投稿した。
その他にもグレイヴアサシンがいきなりガチャから出て来たのかという質問も出て来たから、それについても宵闇ヤミはちゃんと答える。
「ガチャで出て来たのはグレイヴファントムだよ。そこにデスポーンとエレキシャドウを足して
【
【デーモンズソフトはアンデッドモンスターの種類を何処まで増やすんだ】
【素晴らしい。検証班として感謝する (調査費:1,000円)】
UDSプレイヤーのヤミんちゅ達は新たな発見に湧いた。
ついでに言えばコメント欄に検証班が現れたため、検証班も宵闇ヤミに注目しているという事実が明らかになった。
「はい、ということで今日の配信はレベル上げだよー。台東区のアンデッドモンスターは配信裏で粗方倒しちゃったので、今から害悪ネクロマンサーを倒しに行くよ」
野生のアンデッドモンスターだけ倒す配信は退屈かもしれないから、撮れ高になりそうなコンテンツはこの配信のためにキープしていた。
宵闇ヤミはワイローンの背中に乗り、害悪ネクロマンサーが拠点にしているとされる上野動物園に向かう。
午前中に見つけた敵は倒していたが、それでも全て倒せた訳ではないから道中で遭遇することもある。
現れたアンデッドモンスターはいずれも動物のゾンビだった。
「動物系のゾンビが多いねぇ」
【上野動物園の影響だろうね】
【パンダがゾンビしてると思うと悲しい】
【笹食ってる場合じゃねえ!】
野生のゾンビを倒して上野動物園に到着すると、そこにはでっぷり太った高齢ネクロマンサーが仁王立ちしていた。
宵闇ヤミを見つけたところでいやらしい笑みを浮かべる。
「おい、お前。園長の儂に相応しいアンデッドモンスターがいれば差し出せ」
「お前みたいな豚に差し出す従魔はいないわ。さっさと戦うわよこの豚爺」
【豚爺はその通りで草】
【豚爺以上にぴったりな言葉ないな】
ヤミンチュ達は宵闇ヤミの言い分に笑っていた。
実際、宵闇ヤミ以上にこの害悪ネクロマンサーを的確に表現するのは難しい。
「フン、生意気な小娘だな。この儂、ダンキチ様のとっておきによって蹴散らされるが良い!
マミーボコパンダと呼ばれたアンデッドモンスターが召喚されたが、これは全身包帯ぐるぐる巻きのパンダの見た目をしている。
二足歩行しておりボクシングスタイルで待機するあたり、近接攻撃メインのアビリティ構成なのだろう。
「ワイローン、【
宵闇ヤミは手始めに【
今回、他の従魔を使わないのは新人戦前になるべく他のプレイヤーに情報を与えないためだ。
幸いにもこれまでの戦闘で成長したおかげで、ワイローンのAGIはマミーボコパンダよりも数値が高いから先に動ける訳で、マミーボコパンダは躱すのに必死なようだ。
「何を遊んで折るか! マミーボコパンダ! 【
ダンキチからダメージを恐れず攻撃しに行けと言われ、マミーボコパンダはその指示に従ってダメージを負いつつワイローンを殴りに行く。
「ワイローン、躱しながら【
直線的なマミーボコパンダの攻撃を躱し、ワイローンは宵闇ヤミの指示通りに【
「おのれ、拳で戦わぬか卑怯者! マミーボコパンダ、【
「豚爺の価値観をヤミに押し付けないでよ。【
今度はラッシュを繰り出そうとするマミーボコパンダに対し、足元から暗黒の棘を突き刺せばマミーボコパンダのHPを一気に削ってダウン状態になる。
追撃のボタンが表示され、宵闇ヤミは勿論それを押す。
「追撃ぃぃぃ!」
鬼童丸の助けがなくても独力で害悪ネクロマンサーを倒したため、コメント欄ではヤミんちゅ達が盛り上がっていた。
この後、システムメッセージが宵闇ヤミの耳に届いて<台東の主>を獲得し、ヘカテーがやって来てダンキチを地獄送りにした。
鬼童丸のいないソロ配信であっても、ヤミんちゅ達が盛り上がってくれて宵闇ヤミはホッとするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます